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MEBUKI IP Small Talk 3月号(2025年)

目次

 マドリッド・プロトコルを利用した国際商標出願は長所ばかりではなく短所も有する

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マドリッド・プロトコルを利用した国際商標出願は長所ばかりではなく短所も有する
                         代表パートナー・弁理士 長谷川洋

(1)国際的にビジネスを行う多くの法人または個人事業主にとって、自分たちのモノまたはサービスを提供したい海外の国に早期に出願して商標権を取得することは極めて重要なことである。世界のほとんどの国では、先に出願した商標に権利を付与する「先願主義」を採用しているため、他人の出願の方が早いと、自分たちの出願が登録できない状況に陥る可能性があるからである。

(2)海外の国で商標権を取得しようと思ったときの選択肢には、大別して2つの方法がある。1つは、所望の海外国(複数の海外国が属する地域の場合もある)に、直接、商標出願(以後、単純に「外国直接出願」と略する。)を行う方法である。もう1つは、マドリッド・プロトコルという国際条約を利用した国際商標出願(以後、単純に「国際商標出願」と略する。)を行う方法である。外国直接出願の場合には、当該外国の出願代理資格を有する弁理士又は弁護士に依頼する必要がある。一方、国際商標出願の場合には、権利取得を希望する国の代理資格者は不要であり、出願人自身、または日本の弁理士や弁護士の手続きで出願可能である。

(3)上記の選択肢には、それぞれ一長一短がある。以下は、その代表的な長所と短所である。
・外国直接出願の長所:
 当該外国の代理人のアドバイスをもらいながら適切な指定商品・役務を指定できる。
・外国直接出願の短所:
 当該外国の代理人を介して出願するために、複数国の出願となると高コストになる。
 複数国の出願となると各国の更新時期がバラバラになり期限管理が複雑化する。
・国際商標出願の長所:
 各国代理人の費用を要しない分、低コストである。
 多数国分の更新料を一時期にかつ一括で支払うことから期限管理がシンプルである。
・国際商標出願の短所:
 当該外国の代理人のアドバイスがないので、必ずしもその国にマッチした指定商品・役務を指定できるとは限らない。

(4)上述の通り、コスト面では、複数の国での権利化を前提にすると、国際商標出願の方が外国直接出願よりも有利である。しかし、国際商標出願=低コストという考えは、あくまでも一般論であることに留意する必要がある。逆に、国際商標出願の方が高コストになる場合も少なくないからである。その場合の典型的なケースは、国際商標出願を行った後、権利所得希望国の官庁から暫定的拒絶理由通知を受けてしまい、現地の代理資格者に手続を依頼しなければならないケースである。

(5)拒絶理由通知の中でも多いのは、指定商品・役務の記載がその国の基準に合ってないから不明確であるという通知である。商標出願では、必ず、商品および/または役務を指定する必要がある。しかし、商品や役務の名称は、国際的に統一する途上にはあるものの、現時点で統一には至っていない。その典型的な国は、米国である。米国は、日本や欧州と異なり、包括的な商品名称または役務名称を許容していない。米国で許容される指定商品・役務の名称は、Trademark ID Manual(注)で確認できるので、米国に直接出願する場合には利用するとよい。また、国際商標出願の場合であっても、その基礎となる日本の出願の際に、将来、米国での権利化を考えているのであれば参考にして、日本での指定商品・役務を決めてもよい。  また、米国に限らず、タイをはじめとする東南アジアのいくつかの国でも、その国に独特な商品名称または役務名称を求められる。このため、国際商標出願の際に、権利化を望む国として例えばタイを含んでいると、タイの知財官庁から拒絶理由通知を受ける可能性がある。拒絶理由通知が発行されると、その応答には現地代理人を要する。これが、国際商標出願を行ったにもかかわらず、かえって高コスト化を招く大きな要因となっている。

(6)なお、中国での商標登録を想定した場合、中国に直接出願する方が良いか、それとも国際商標出願にて中国を指定した方が良いかについては、日本の弁理士の間でも意見が分かれている。中国は、直接出願の場合には、国の決めた指定商品・役務を指定していなければ原則として拒絶する一方、国際商標出願の場合には必ずしも拒絶しない運用を行っている。この点だけを考えると、国際商標出願にて中国を指定する方が有利といえる。しかし、中国代理人曰く、国際商標出願が中国で登録になる際に、商標局が指定商品・役務を間違えて記載するというトラブルが多発している。特に、役務(=サービス)を指定している場合であって、その内容が中国の審査基準には存在しないような役務だと、上記トラブルが起きやすいそうである。中国に直接出願する場合であれば、現地代理人と日本の出願人または代理人との間で指定商品・役務をどのような名称にするかを十分に検討できるが、国際商標出願の場合にはかかる検討は事実上できない。しかも、国際商標出願の場合、その基礎となる日本の商標出願の指定商品・役務の範囲内でしか商品・役務を指定できない。これは、あくまでも私見であるが、私は、中国での商標登録を希望する場合には、国際商標出願を避けた方が良いと考える。

(7)それでは、なるべくコストを抑えて外国で商標権を取得するにはどうすればよいか?私は、国際商標出願を行う場合、少なくとも米国、中国およびタイの指定を行わず、これらの国には個別に出願することをお勧めする。国際商標出願では、日本の基準と大きく変わらない国・地域、例えば、欧州やその構成国を指定することをお勧めする。ただし、指定する商品や役務が極めて単純で、かつ数も少ないような場合には、米国、中国およびタイを指定した国際商標出願であっても、各国の官庁から拒絶理由通知が来ないことも期待できる。例えば、指定する商品が「ビール」のみの場合には、米国、中国およびタイでも認められると思われる。そのような場合には、国際商標出願の指定国に、米国、中国およびタイを含めてもよいと考える。

(注) Trademark ID Manual

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