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MEBUKI IP Small Talk 9月号(2024年)

目次

 米国意匠特許の限定・選択要求の対応に注意

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米国意匠特許の限定・選択要求の対応に注意
                   代表パートナー・弁理士 長谷川洋

(1)米国に特許出願(国際出願からの米国移行も含む)すると、米国特許商標庁(以後、USPTOという。)の審査官が、権利希望する複数の発明の間に単一性に欠けていると判断して限定・選択要求の指令を出すことがある。限定要求と選択要求は、正確には異なる。しかし、選択要求は、広義には限定要求の範疇にあるので、以下、単純化するために、限定要求として話を進める。
(2)今回は、米国の技術特許(Utility Patent)ではなく、意匠特許(DesignPatent)の出願に複数のデザインを含めた案件について起きた事件である(Pacific Coast Marine Windshields, Ltd. v. Malibu Boats, LLC (Fed. Cir. 2014))。
(3)出願人は、船舶用風防窓(Marine Windshield)について、以下の5つのデザインを含めた意匠特許出願を行った(出願番号:29/258,753)。
  A・・・ハッチ+4つの通気孔を持つ風防窓
  B・・・ハッチ無しで4つの通気孔を持つ風防窓
  C・・・ハッチ+通気孔無しの風防窓
  D・・・ハッチ無し+通気孔無しの風防窓
  E・・・ハッチ+2つの通気孔を持つ風防窓
 これらデザインを具体的に知りたい方は、以下のURLにアクセスいただきたい。
https://www.bskb.com/docs/default-source/presentations/cdw_designpatentmeetprosecutionhistoryestoppe_2_19_14l.pdf?sfvrsn=d8350677_2
または
https://www.nutter.com/ip-law-bulletin/prosecution-history-estoppel-exists-for-design-patents-too
(4)USPTOの審査官は、出願には、特許上区別の出来る5種類のグループのデザインが存在すると判断して、デザインの単一性を欠くから限定せよとの要求を出した。出願人は、その限定要求に従って、上記A(ハッチ+4つの通気孔を持つ風防窓)に限定した。
 また、出願人は、上記C(ハッチ+通気孔無しの風防窓)を分割出願する一方、上記B、上記Dおよび上記Eについては本願から除外し、かつ分割出願もしなかった。
 その後、本願(A:ハッチ+4つの通気孔を持つ風防窓)と、分割出願(C:ハッチ+通気孔無しの風防窓)は登録となった(US D555,070S及びUS D560,782S)。なお、本件と直接関係は無いが、出願人は、ハッチのみを特徴とする部分意匠(上記2つの意匠登録よりも権利としては広いかもしれない)について別の分割出願も行って権利化した(US D593,024S1)。
(5)その後、複数の業者による侵害品が市場に出てきた。その侵害品は、ハッチ+3つの通気孔を持つ風防窓であった。上記出願人(=意匠権者)は、AとCの意匠権を持っているが、侵害品と同一のデザインについて意匠権を持っていなかった。意匠権者は、A(ハッチ+4つの通気孔を持つ風防窓)の意匠権に基づいて被疑侵害者を相手にフロリダ州地方裁判所に提訴した。
(6)地方裁判所は、出願審査中に、出願人が限定要求に対してAのデザインを残し、Cのデザインを分割出願したが、その他を放棄した事実から、審査経過禁反言(Prosecution history estoppel)を適用して非侵害と認定した。認定の根拠は、出願人が審査中に出された限定要求によってA以外のデザイン、特にE(ハッチ+2つの通気孔を持つ風防窓)を放棄したことにあった。2つの通気孔を持つ風防窓を放棄して4つの通気孔を持つ風防窓を残したことは、すなわち、4つの通気孔を持つ風防窓の意匠権の効力範囲を、4つの通気孔に限定し、他の数(3つの通気孔も含む)の通気孔を放棄したことになるという理屈である。
(7)争いの舞台は、巡回控訴裁判所(CAFC)に移った。CAFCは、いくつかの争点を整理したうえで、出願人は、確かに2つの通気孔のデザインを放棄したが、3つの通気孔のデザインまで放棄していないと結論づけて、事件を地方裁判所に差し戻した。
(8)この事件から得られる教訓は、いくつかある。
 多くの意匠を一つの出願に含めたときには、単一性を欠くものとして限定要求を受ける可能性が高いこと。
 限定要求を受けたときには、その対応に十分留意すること。特定のデザイン以外を単に放棄してしまうと、将来、審査経過禁反言によって侵害品を排除できなくなる可能性があること。
 侵害品排除を考慮すると、限定要求を受けたときに選ばなかったデザインについては、分割出願をして別途権利化を図るのがよいこと。

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