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MEBUKI IP Small Talk 7月号(2024年)

目次

 1.日本特許庁の商標審査について思うこと

 2.知財戦略の実施に当たり

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1.日本特許庁の商標審査について思うこと
                   代表パートナー・弁理士 長谷川洋

(1) 日本特許庁の審査全般に対するユーザー評価
 最近、特許庁ステータスレポート2024年(注1)をそれとなくながめていたら、特許、意匠および商標の出願に対する特許庁の審査全般に対するユーザー(=出願人)の評価に目が止まった。評価は、満足、比較的満足、普通、比較的不満、不満の5段階評価である。2023年度の比較的不満と不満の合計割合をみると、特許、意匠および商標の3種類の出願別のデータは、以下の通りであった。
  ・特許:3.4%(比較的不満:3.2%、不満:0.2%)
  ・意匠:3.8%(比較的不満:3.1%、不満:0.7%)
  ・商標:6.6%(比較的不満:6.3%、不満:0.3%)
 上記数字からは、比較的不満と不満の合計割合が低いという解釈もできる。
 しかし、私は、商標の評価が、特許または意匠のそれと比べて悪いという解釈をした。
 より詳細を知りたくて、特許庁が数年に一度発行している「商標審査の質についてのユーザー評価調査報告書」の最新版(令和5年度)(注2)を見た。すると、その報告書のp6~7にユーザーの評価に関するグラフが載っていた。

(2)ユーザーが感じている質の低い事項ワースト3
 ユーザー評価の対象項目は、以下の16項目である。
  ・識別性の判断
  ・類似性の判断
  ・指定商品・役務の判断
  ・主張の把握
  ・基準・便覧との均質性
  ・審判決との均質性
  ・審査官間の判断の均質性
  ・【拒絶理由】必要な説明
  ・【拒絶理由】理解しやすい文言
  ・【補正指示】必要な説明
  ・【補正指示】理解しやすい文言
  ・【補正指示】適切な応答
  ・【拒絶査定】必要な説明
  ・【拒絶査定】理解しやすい文言
  ・【拒絶査定】適切な応答
  ・電話、面接等における審査官とのコミュニケーション
 上記報告書のp6~7に記載のグラフを見たところ、商標の審査においてユーザーが感じている質の低い事項ワースト3は、以下の通りである。
  ワースト1位: 審査官間の判断の均質性
  ワースト2位: 識別性の判断(出願した商標に識別力があるか否かの判断)
  ワースト3位: 審判決との均質性

(3)最近の事例から思うこと
 お客様の案件に触れるので詳細は話せないが、ある商標を出願して、審査で拒絶理由(識別性無しとの理由を含む)を受け、反論したが拒絶査定になり、不服審判を請求したが請求を棄却され、知財高裁に提訴したが棄却判決が出て、最高裁に上告したが上告棄却となった件がある。ちなみに、最高裁では、弁理士は代理できないので、出願人のみで上告した。最高裁での棄却については、上告人(本件では出願人)の主張が認められる確率がそもそも極めて低いことからやむを得ないとしても、特許庁の審査から知財高裁の判決までの間、出願人側の主張は聞き入れられなかった。
 特許庁の審査官は、出願に係る商標に識別力が無いと判断した。不服審判も知財高裁も、一貫としてこの判断を維持した。
 しかし、出願商標よりも明らかに識別力がないと思われる先願商標は何ら拒絶もなく登録されている。その数は1つや2つではない。そのような登録例を調べた上で先の審査・審判の結果を数十件挙げて、今回の拒絶の矛盾を指摘しても、特許庁の審査官・審判官は、そのような登録例は個別具体的に判断されるものであるから、との定型的な理由で、出願人側の主張を一蹴した。
 商標権は、特許権や意匠権のような期限付きの権利ではなく、更新すれば無期限に維持できる永久権である。審査官同士の判断の均質性が低い、または先の審判決との均質性が低いということになると、永久に維持できるはずの権利が得られないことにつながる。逆に、本来得られるはずのない権利が永久に維持されることにもなる。商標だからこそ、審査は、一定の基準に従って慎重かつ公平なものでなければならない、と私は思う。審査官間の判断のバラツキや審判決のバラツキをできるだけ小さくする努力が必要だと思う。これは重要なことだが、個別具体的に判断されるというような決まり文句ではなく、論理的な説明によって、先の登録例や審決等に基づく出願人側の主張を否定するのであれば、出願人側も納得感を得るであろう。ダメなものはダメという言い方ではなく。先の報告書において商標の審査に対するユーザー評価が低いことをきっかけに、最近の事例を思い出した次第である。

(注1)特許庁ステータスレポート2024
(注2)令和5年度 商標審査の質についてのユーザー評価調査報告書

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2.知財戦略の実施に当たり
                        顧問・弁理士 渡邉秀治

(1)はじめに
 企業時代に、特許紛争の経過や、知財活動の成果をお金で算定したものを経営トップに報告していた。また、技術契約を知財部主管へ変更、職務発明規程改訂、米国駐在制度確立等を実施した。この時代には、技術関連契約の作成、チェックを計約300件行い、土日等の休みの日に、共同開発契約や秘密保持契約を主にしたマニュアル本を作成した。このマニュアル本の改訂は今も続けている。
 その後の特許事務所経営時代には、お客様の企業各社の知財トップとお話をする機会が多くなり、知財戦略に関心が向いた。三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社の非常勤時代に、東京の講演会社から「知財戦略」の講演依頼があり、それまでの資料などをまとめ始めた。その後、その講演会社から通信教育のテキスト作成の依頼があり、第1講~第3講までの書籍を作成した。合計200頁ほどのもの。つい最近、めぶきの代表である長谷川弁理士に欧州特許がらみを中心に最新情報を踏まえたチェックをいただいた。

(2) 知財戦略の実施の前にすべきこと
 知財戦略は、少なくとも米国、中国の知財の動きを知り、日本の知財経過を踏まえたものでなければならない。なお、これからのものは、米国、中国の他に、欧州、インド、南米などや、会社の販売先国、生産国も考える必要がある。また、戦略立案担当者は、以下に述べる5つの重要な点を忘れてはいけない。
①重要な点の第1は、自社の現状把握、すなわち、日本知的財産協会がまとめている5段階ステップ等から自社の位置がどの段階にあるかを把握すること。そこから始まる。
②次に重要な第2は、知財戦略がカバーする点を明確化すること。例えば、イ;知財権のみ、ロ;知的財産(知財権とノウハウと営業秘密)、ハ;知的資産(上記イロと人材、組織力、経営理念、ネットワーク等)をカバー、ニ;無形資産全体、の各範囲があるので、計画している知財戦略がどこまでをカバーするのかを明確化することが重要。
③第3は、知財戦略は、上位に当たる会社戦略等との整合性を取ること。かつ、上位戦略から見れば、知財戦略は戦術に相当する場合もあり得ることを認識すること。上位戦略の内容、目指すものを十分に調査し、把握すること。
④第4は、知財戦略は、開発戦略や法務戦略や販売戦略など並立する戦略との調整、整合性を図る必要があること。すなわち、他部門の戦略、戦術の調査、把握が必要。
⑤第5は、自社の位置の把握に基づいて、段階を少しづつ上げていく大枠計画を立て、知財戦略の中に該計画を入れ込んだ場合、その計画が妥当かの判断、評価をすること。
 この第1~第5のことを考え、把握し、方向付けした後に、具体的な知財戦略の項目、スケジュールが挙がってくる。

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