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MEBUKI IP Small Talk 3月号(2024年)

目次

 インド経済の将来性およびインド特許の特殊性

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 インド経済の将来性およびインド特許の特殊性
                   代表パートナー・弁理士 長谷川洋

1.インド経済の将来性
 日本の名目GDPは、2023年に、ドイツに抜かれて第4位となった(注1)。実は、3位のドイツ、4位の日本および5位のインドの各名目GDPは拮抗している。インドは、近いうちに、名目GDPの観点で、日本とドイツを抜いて世界第3位になるとも予想されている。しかし、この予想には、それなりの理由はある。 まず、人口でいえば、2023年に、インドは中国を抜いて世界第1位になった(注2)。
 次に、インドは、10代および20代のいわゆる若年層の割合の多い国である(注3)。
 さらには、インドにおける2023年10-12月の経済成長率は、前年同期比8.4%増である(注4)。
 米国は、早くからインドに積極投資および進出して、インド経済の底上げに貢献している。米国とインドは同じ英語圏であるからビジネス障壁も低い。2022年度のデータによると、米国は、インドにとって最大の輸出国である。ちなみに、輸出額の点で、日本は米国の10分の1にも満たない(注5)。
 今後、中国の経済が鈍化していくという予測の下、インドは、中国とならびあるいは中国に代わって、今後重要な経済圏になると思われる。
 こうした中、インドの特許出願件数は、2010年から右肩上がりであり、2021年には6万件を突破した。インドの国民・企業の出願も伸びている(注6)。この出願件数は、中国(2021年に約159万件)、米国(2021年に約60万件)または日本(2021年に約29万件)に比べるとまだ少ないが、今後10年を考えると急激に増加していく可能性もある。

2.インド特許の特殊性
 筆者は、外国への特許出願の仲介業務を長年扱ってきた。その経験から、米国とインドは特殊なプラクティスを持つ代表的な国であるといっても過言ではない。弊社の顧客の声をきくと、インドの特許出願手続には、その特殊なプラクティスに起因して費用と労力を要し、特許取得の効果も考慮すると外国に出願する国の優先度の面でインドは低くなる、とのことである。
 3.で述べるように、2024年3月15日に、インド特許法(規則も含む)の一部改正が施行された。以下のAからDは、当該施行前の特殊なプラクティスの代表例である。
 A:情報提供義務(特許法第8条(1)、特許規則第12条(1))
 出願人は、インド外の対応外国特許出願がある場合にはそのステータスを報告しなければならない。ステータスとは、国名、出願番号、出願日、出願の状態、公開日及び登録日である。出願人は、Form3という書式で報告しなければならない。報告期限は、インドへの出願日(PCT出願の場合にはインドへの国内移行日)から6カ月以内である。
 また、前記の報告書に記載のない対応外国特許出願が生じた際には、出願人は、その対応外国特許出願の日から6カ月以内にステータスを報告しなければならない。
 さらに、対応外国特許出願について、当該外国においてステータスが変わった場合、出願人は、遅滞なくその更新情報を報告しなければならない。更新情報の報告期限は法上明記されていないが、現地代理人曰く、特許付与前に報告しなければならないことを考慮すると、なるべく早く報告する必要がある、とのことである。特にインドで第1回審査報告書(日本でいう拒絶理由通知に相当)があった後は、後述するアクセプタンス期間の制約もあるため、極めて早い提出が必要となる。Aの義務は、インド出願の日から特許付与まで課されている。
 B:対応外国特許出願の審査経過報告義務(特許法第8条(2)、特許規則第12条(3))
 Bの義務は、上記Aとは別の義務であり、俗にインドのIDSと称する。ちなみに、IDSは、米国において義務付けられている情報開示申告のことである。出願人は、対応外国特許出願がある場合には、インド特許庁長官から要求があったときには、その審査経過を報告しなければならない。審査経過とは、オフィスアクション、調査報告、特許付与クレームであり、これらが非英語で記載されている場合には英訳と共に提出する必要がある。インド特許庁長官は、第1回審査報告書を出願人に発行する際には、必ず、審査経過報告を要求する。審査経過報告の期限は、要求のあった日から6カ月以内である。ただし、外国の審査で引用された文献については、提出する義務はない。
 C:アクセプタンス期間(12カ月間)の遵守(特許法第21条)
 出願人は、第1回審査報告書を受領した後、その12カ月以内に特許付与可能な状態にしなければならない。これは、イギリスや、その旧植民地にみられるプラクティスに類似する。このため、拒絶に対して反論するにしても、どこかで妥協しないと、アクセプタンス期間をオーバーすることになるので、注意を要する。
 D:特許発明の実施・不実施報告義務(特許法第146条)
 特許権者は、毎年、特許発明をインドで実施しているか否かについて報告しなければならない。実施状況の報告をしなかった場合には、罰金が科せられる場合がある。また、実施状況の虚偽報告を行った場合には、罰金刑または禁固刑、またはこれらの両方が科される。

3.インド改正特許法の施行(施行日: 2024年3月15日)
 インドは、2023年に意見募集をしていたインド特許法案について、多少の修正を加えたうえで、2024年3月15日に改正特許法を施行した。インド改正特許法は、上記の特殊なプラクティスの一部を緩和する一方、別の面(例えば、出願審査請求期限)では従来よりも厳しくした(注7)。この改正法については、次号に紹介したい。

(注1): 【2024年最新】世界GDP(国内総生産)ランキング(IMF)
(注2): 【2023年】世界人口ランキング(国連)
(注3): 世界の人口ピラミッド(1950~2100年)
(注4): インド景気概況(2023年10~12月期)
(注5): インドの貿易と投資
(注6): インドにおける知的財産に関する動向「wipo_webinar_wjo_2023_8_1.pdf」
(注7): 1_83_1_Patent_Amendment_Rule_2024_Gazette_Copy.pdf

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