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目次
米国特許について知っておくべきこと(後編)
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(1)先月のあらすじ
今月は、先月の前編に続き、「米国特許について知っておくべきこと」の後編を述べたい。先月は、米国特許商標庁(USPTOという)の審査官の審査のバラツキが大きいこと、拒絶対策として、審査官とのインタビューが有効であること、広すぎるクレームを避ける方がよいことを述べた。
今月は、情報開示申告(IDSという)およびディスカバリーについて、今年1月に行われた座談会の内容に若干の弊社対応も加えて、紹介する。
(2)IDSについて
IDSとは、米国特許出願に関係する者が、その特許出願のクレームに係る発明の特許性に関する重要な情報についてUSPTOに対して誠実に開示申告することをいう(37 CFR 1.56(a))。この義務は、特許出願の出願から登録まで、出願の関係者に課されている。関係者は、出願人、発明者のみならず、米国代理人、日本で仲介手続きを行っている弁理士等も含む。また、通常の特許出願のみならず、意匠特許の出願にもIDSの義務がある。
座談会では、PCT出願でWIPOが発行した国際調査報告に挙げられている文献の内、A判定(本願発明に対して特に関連する文献ではなく一般的技術水準を示すという判定)の根拠となっている文献をIDSとしてUSPTOに出すべきか否かが議論となった。日本企業からのIDSに関する質問には、このような質問が多いようである。
数名の米国弁理士間での議論の末、A判定の文献でもIDSに含める方が安全であるということになった。主な理由は、以下の通りである。
・IDS違反は特許権の権利行使不能というペナルティを伴う。このようなリスクの大きさを考慮すれば、IDSにA判定の文献を含めるコストは比べものにならないくらい小さい。
・国際調査報告の時点ではA判定の文献であっても、米国の審査係属中の補正によりA判定ではなくなり、本願発明の特許性に影響を与える重要な文献になることもある。
現在、弊社では、原則、A判定の文献もIDSとしてUSPTOに提出する運用を行っている。ただし、出願人がA判定の文献を提出しないという運用を行い、その運用を弊社に求めている場合は例外である。IDS違反の認定条件には、対象文献が本願発明の特許性に影響を与えるものであるという条件のみならず、その対象文献を隠したという条件もある。隠さずに一定のルールに基づいてIDSの運用を行っているならば、IDS違反のリスクは小さくなる。このため、A判定の文献を出さないなら、出さないという一定のルールをもってIDSを行うのがよい。A判定の文献をある出願では提出し、別の出願では提出しないというバラバラの運用をしない方がよい。
(3)ディスカバリーについて
ディスカバリーの制度は、米国の民事訴訟(特許権侵害訴訟も含む)において一般的に行われている証拠開示制度である。ディスカバリーは、裁判の本審理に入る前に、当事者間で双方の弁護士の関与の下で行われる。原告および被告は、相手方の求めに応じて、証拠になり得る書面・電子データ等を、原則、提出しなければならない。証拠を隠したことが発覚すれば、不正行為があったものと解釈され、裁判では勝てなくなる。ただし、クライアントと弁護士との間で秘密にすることを明示した証拠は提出しなくてよい。このような権利を秘匿特権という。
座談会の米国弁理士は、ディスカバリーにおいて提出不要と考える範囲について誤解があることを指摘していた。その一例は、企業内でメールや紙を介してコミュニケーションをとった内容に関して秘匿特権が働くと考えている人が多いということである。秘匿特権は、あくまでも、クライアント(例えば、企業)と弁護士(条件により、日本の弁理士も含む:注)との間で秘密にしようとした書面・電子データに対する権利である。このため、企業の内部で、しかも弁護士や弁理士の関与しない状況下で、発明者と知的財産部の部員との間、または知的財産部の部員間でやりとりした内容には、秘匿特権ははたらかず、ディスカバリーで相手方に開示する必要がある。
(注)一色太郎「米国特許紛争における秘匿特権保護と日本弁護士・弁理士との関係」
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