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目次
1.マドリッド・プロトコルに基づく商標の国際出願のメリットとデメリット(その2)
2.IPランドスケープの現状(1/3)
3.100%+アルファ
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先月、マドリッド・プロトコル(以後、「マドプロ」と簡略化する。)を利用して各指定国で商標権を獲得する際の主なメリット(A.)についてお話した。
今月は、デメリットについてお話しする。
B.マドプロ利用のデメリット
(1)マドプロでの国際登録には本国での商標権の取得が前提となる
日本の出願人がマドプロを利用して国際商標登録をするには、まず、本国(以後、「日本」とする。)で商標登録出願を行い、商標権を取得していなければならない。マドプロ出願は、日本での出願係属中でも可能であるが、商標登録されなかった場合にはマドプロ出願も登録されない。このため、最低限、日本の商標登録出願について登録査定をもらってからマドプロ出願を行うことをお勧めする。なお、日本で出願係属中にマドプロ出願を行った後、日本で商標登録できなかったときには、マドプロ出願の国際登録は取り消しとなるが(これを「セントラルアタック」という。)、マドプロ出願で権利化したかった指定国に対して直接出願を行うという方法は残されている。
(2)マドプロ出願の指定商品・役務は日本の商標権における指定商品・役務の範囲内に限定される
マドプロ出願の指定商品・役務を自由に指定することはできない。必ず、日本で商標登録された指定商品・役務と同一か、またはそれより狭い範囲のものに限定して指定しなければならない。かかる意味で、日本で商標登録出願が登録査定されて指定商品・役務の範囲が確定した後に、マドプロ出願をすることをお勧めする。
(3)米国を指定すると米国特許商標庁からの暫定的拒絶理由通知を受ける場合がある
米国の商標登録出願では、日本で指定した商品・役務のような広範な記載は、高い確率で許されない。例えば、「広告」という指定役務は、日本でも米国でも許容されるので問題ない。一方、「薬剤」という指定商品は、日本では許容されるが、米国では許容されない。米国では、薬剤という上位概念ではなく、例えば、胃腸薬、抗がん剤などの下位概念の薬で指定しなければならない。当方の経験では、マドプロで米国を指定する場合、米国の基準に合うように、より下位概念の指定商品・役務を指定しておくことをお勧めする。そうすれば、上記のような暫定的拒絶理由通知を受けずに済む可能性がある。ただし、米国以外の指定国に留意しなければならない。上位概念から下位概念に書き直すことによって、指定商品・役務の数が多くなり、料金が増す可能性があるからである。
(4)中国やタイを指定国に含む場合にも暫定的拒絶理由通知を受ける場合がある
これは、中国とタイに限定されないのだが、当方の経験上、苦労したのはこれら2つの国を指定した場合であるため、これらの国に限定して紹介する。中国もタイも、日本の審査基準に相当する基準において、マドプロで許容されている指定商品・役務の名称とは異なる名称を規定している。このため、マドプロ出願の指定商品・役務が自国の規定に合わないことを理由に暫定的拒絶理由を受ける場合がある。実は、中国では、最近、指定商品・役務の記載を緩和してきており、自国の規定に合わなくともマドプロの基準に合っていれば暫定的拒絶理由通知を発行しない運用を行ってきている。一方、タイでは、まだ中国のような緩和を行っていない。よって、タイを指定するマドプロ出願の場合には、タイ知財庁から暫定的拒絶理由通知を受け、タイの弁理士に拒絶対応を依頼するという事態になる可能性がある。マドプロ出願の指定国にタイのような国が多く含まれていると、暫定的拒絶理由通知への対応を現地代理人に依頼する必要があるため、マドプロのコスト削減効果は小さくなる。
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(1)企業勤務時代、数年、特許分析担当を行った関係で、知財分析には関心がある。ダイソンなどの欧米の会社が実施していることや知財部門の地位向上を図るためIPランドスケープ(英語ではIP Landscape(知財の景観))が最近日本でも採用され始めた。特許庁が発表している知財人材教育(注1)でも最初に次のように挙がっている。
「戦略(1.1.1) A. IPランドスケープ
・事業への貢献を行うため、以下の全社的課題について貢献した。
・新規事業の創出
・既存事業の維持/成長
・既存事業の縮小/撤退」
(2)IPランドスケープは、知財を含めた分析手法である。知財の他に市場情報等を多く取り入れて行う。なお、小林誠氏が「知的財産価値評価についての最新動向」(注2)において次のように定義されている。
「経営戦略・事業戦略を成功に導き,企業価値を向上させることを目的として,知的財産情報のみならず政治的,経済的,社会的,技術的な動向も踏まえて市場環境分析を統合的・多角的に実施し,マーケティング視点でのインサイト(注3)を得て,将来的な事業環境の見通しを示し,想定される自社・他社のポジションやオプションを検討した上で,経営の意思決定ができるレベルで,事業戦略に具体的な知的財産戦略を組み込んでいくこと」。
(3)日本では、IPランドスケープ推進協議会(注4)が結成されており、2023年9月1日現在65社が会員。多数の大手企業が会員となっている。2021年に特許庁から出されている報告書『「経営戦略に資する知財情報分析・活用に関する調査研究」について』においてIPランドスケープの状況が詳しく分析されている。また、この関係に詳しい私が知っている方の話によれば、「経営トップ向けのものは、そのトップの方とのコミュニケーションが取れていなければ良い提言は出来ず失敗になっている。ほとんどの知財部門は経営トップの方との差しでの話し合いはされていないので成功事例は少ない。」とのこと。
(4)私が思うに、まずは事業部長とのコミュニケーションを図り、事業部の製品開発の際に、このIPランドスケープを使用して成功事例を多く作り、かつ人材を養成し、その後、経営トップ向けにステップアップするのが良いと判断する。少なくとも経営トップ向けは5~10年かかると考えスタートすべき。なお、9月初旬に私が東京である機関主催の講演会で行った「知財戦略の立案・策定方法と実務上の留意点」の時に参加者のある方から「中国、米国でのIPランドスケープはどのような状況ですか」という質問があった。私は、「中国、米国の弁護士・弁理士の友人に確認し、後日、メールにて報告させていただく」との回答をした。
現在、中国、米国の各2人の方に確認中であり、その結果を「IPランドスケープの現状(2/3)」で報告させていただく予定。
注1:知財人材スキル標準(version 2.0)
注2:小林誠「知的財産価値評価についての最新動向」
注3:Insight(インサイト)とは洞察。
注4:IPランドスケープ推進協議会
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(1)私は、依頼を受けた仕事に対し、「100%+アルファ 」を心がけている。この考えは、私が創立した特許事務所(現在、私はある事情でその事務所から離れた)のときから掲げていたものでもある。この心構えは、次の2つが背後にある。
(2)2つのうち一つが以下。学生時代は、98点、99点を取ればある程度評価され、100点をとれば満足し万々歳。しかし、ビジネス分野では、100点、100%の仕事結果は、依頼者から見れば当たり前のこと。「+アルファ」がなければ評価されず、リピートが来ない。依頼事項に1%でも上乗せしたものとして提出するのがビジネス分野での仕事の仕方。
(3)他の一つは、その「+アルファ」は、依頼者のレベル、能力を考慮したものであること。依頼者のレベル、能力が低ければ、それほどの高いレベルの「+アルファ」を考えなくてもよい。しかし、依頼者のレベル、能力が高いときは、かなり高いレベルの「+アルファ」を付けなければならない。ちょっとしたレベルのものの「+アルファ」は、能力の高いレベルの人にとっては、「+アルファ」を感じないからである。
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