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MEBUKI IP Small Talk 7月号(2023年)

目次

1.欧州特許の有効化人気国はどこ?

2.商標的使用とは?

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1.欧州特許の有効化人気国はどこ?     パートナー弁理士 長谷川洋

(1)2023年6月1日から、欧州における単一特許/統一裁判所(UP/UPC)制度がスタートした。かかる新制度がスタートしても、EPO(European Patent Office)に出願した後に実体審査を経て登録になるまでの手続きは、従来の欧州特許出願の手続きと共通する。登録後1カ月間の非常に短い期間内に、単一特許か、従来どおりの各指定国での有効化の何れか一方を選択することになる。単一特許は、現在のUPCA(Unified Patent Court Agreement)批准国17カ国(注1)に限り一つの特許としての効力を有する。したがって、UPCA批准国以外の欧州特許条約加盟国については、単一特許を利用できず、従来どおりの有効化手続を経て指定国ごとの特許を取得することになる。一例を挙げると、欧州特許成立後に、ドイツ、フランス、イタリア、デンマーク、英国およびスイスの6カ国での特許化を希望する場合であって、単一特許を希望するのであれば、UPCA批准国であるドイツ、フランス、イタリア、デンマークでは単一特許を得て、UPCAを批准していない英国とスイスに対してはそれぞれ従来と同様の有効化手続を行う必要がある。一方、そもそも単一特許を希望しない場合には、欧州特許登録後に、ドイツ、フランス、イタリア、デンマーク、英国およびスイスの6カ国に対してそれぞれ有効化手続を行えばよい。

(2)ところで、従来から続く有効化手続の人気国はどこか?ドイツ、フランスおよび英国は間違いなく人気国だろうと想像できる。英国の知財事務所のHP(注2)によれば、有効化手続数の最多7カ国は、ドイツ、フランス、英国、スイス、ベルギー、アイルランド、モナコである。各国の有効化数は、それぞれ12万を超える(2018年発表のデータ)。ドイツ、フランスおよび英国の有効化数が多いのは理解できても、例えばベルギー、モナコおよびアイルランドの有効化数もかなり多いというのは信じがたいと思う。しかし、これにはカラクリがある。これら7カ国は、有効化手続を行わなくとも自動的に欧州特許が有効となる、いわゆる自動有効化国なのである。だから、当然に有効化数が多くなる。有効化数イコール人気国とは必ずしも言えないのである。

(3)自動有効化国以外の国で有効化数が比較的多い国は、イタリア、オーストリア、スペイン、オランダといった有効化数:2万~4万の国々である。これら4カ国は、欧州最多有効化数の国とは言えないが、そこそこ人気がある国といえるのではないか。
 ここで、自動有効化国について補足しておく。
 欧州特許成立後、我々は、お客様の意向を伺った上で、欧州代理人に有効化希望国を連絡する。しかし、仮に、その希望国からドイツやフランスなどが抜けてしまっていても、ドイツやフランスなどの自動有効化国では欧州特許が有効な権利となる。では、いつまでも有効のままなのか?答えはノーである。今年6月に弊社を訪れた欧州代理人に訊いてみたところ、自動有効化国では、有効化手続をしなくとも一旦は権利が有効になるが、各国での特許維持年金を支払わないと、有効化状態は消滅するとのこと。ただし、有効化~年金支払期限までの間は、その自動有効化国における権利は法的に有効であるとのことである。

(注1)
UPCA批准国17カ国:オーストリア、ベルギー、ブルガリア、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、イタリア、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルク、マルタ、オランダ、ポルトガル、スロベニア、スウェーデンおよびドイツ

(注2)
https://www.mewburn.com/ja/欧州における医薬発明特許の有効化戦略

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2.商標的使用とは?              顧問・弁理士 渡邉秀治

(1)商標の侵害問題では、「商標的使用か否か」が問題となることが多い。これは、商標法における商標の定義が広すぎることが原因。

(2)法上の商標の定義は以下のとおり。
 商標法(定義等)
第二条 この法律で「商標」とは、人の知覚によつて認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるもの(以下「標章」という。)であつて、次に掲げるものをいう。
一 業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をするもの
二 業として役務を提供し、又は証明する者がその役務について使用をするもの(前号に掲げるものを除く。)

(3)この定義であると、例えば、私の手元にあるペットボトルのお茶を例にしてみると、その商品に記載されている「おーいお茶」「カテキン2倍」「国産茶葉100%」「伊藤園」「たっぷり贅沢」などすべてが、商標法上の商標となる。
 しかし皆さんは、何を目印にしてこのペットボトルのお茶を買うかというと、「おーいお茶」または「伊藤園」を目印とするはずである。「おーいお茶」および「伊藤園」は、商品に付される記載の中で、自他商品識別機能を持つものである。この機能を持つ記載が本来の商標として把握されるべきであるとの考え方に基づくものが「商標的使用か否か」の基準。他社の商品と区別する機能を持った記載が本来の商標なのである。このペットボトルの表示の中で「おーいお茶」と「伊藤園」のみが商標なのである。その他の記載は、法上では商標ではあるが「商標的使用はされていない」のである。
 なお、自他商品識別機能から導かれる商標の3大機能は以下とされている。
*出所表示機能(識別性)・・・どこから提供かが分る機能。
 「一定の商標を使用した商品又はサービスは、一定の出所から提供されるという取引秩序を維持」・・・工業所有権法逐条解説から
*品質保証機能・・・このマークの商品はこのレベル(安心)をもたらす。
*宣伝広告機能・・・物言わぬ宣伝マン、広く知らしめる。

(4)裁判例に現れた具体事例(商標的使用ではないとされ非侵害とされたもの)として、次のHPに各種事例が記載されている。下記はその一部。
https://www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/shouhyou/index/singai_shouhyousiyou/#:~:text=
A.書籍の題号・音楽CD等のタイトル
・音楽CDの事例:『UNDER TEH SUN』事件(東京地裁平成7年2月22日判決)
・書籍の題号の事例:POS事件(東京地裁昭和63年9月16日判決)
・書籍の題号の事例:がん治療の最前線事件(東京地裁平成16年3月24日判決)
B.包装の状態を表すものと判断された例
C.商品の品種名・内容等の表示であると判断された例
・「巨峰」事件(福岡地裁飯塚支部昭46年9月17日判決)
・タカラ本みりん入り事件(東京地裁平成13年1月22日判決)
・ドーナツクッション事件(知財高裁平成23年3月28日判決)
D.売り場の名称の表示であると判断された例
E.デザイン・意匠的効果に関する例
・ポパイ事件(大阪地裁昭和51年2月24日判決)
・ピースマーク事件 (東京地裁平成22年9月30日判決)
F.キャッチフレーズとしての使用と判断された例

(5)次回以降には、上述の中の「巨峰事件」「ポパイ事件」を説明し、これらの結果として法律改正がなされた内容と、対象物が商品ではないと判断された事例をお伝えする。

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