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MEBUKI IP Small Talk 3月号(2023年)

目次

1.欧州単一特許/欧州統一特許裁判所制度が2023年6月1日よりスタート

2.AIが発明者?

3.特許出願の分割ー訴訟時の分割もあり

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1.欧州単一特許/欧州統一特許裁判所制度が2023年6月1日よりスタート
                      パートナー弁理士 長谷川洋

 今年6月1日から、欧州単一特許/欧州統一特許裁判所(以後、「UP/UPC」という。)の制度がいよいよスタートする。また、オプトアウトの事前申請は、既に、今年3月1日から受付を開始している。事前受付は、今年5月31日までの予定である。
 今まで、お客様の希望によって、UP/UPC制度をご説明してきた。その中で、間違って解釈されやすい点をいくつかピックアップして、正しい内容を説明したい。

(1)欧州単一特許は、現行制度(各国有効化)に置き換わるものとの誤解があるが、これは間違いである。
 まもなくスタートするUP/UPC制度は、現行制度と併存する。現行制度は、欧州特許庁(EPO)で審査を受けて登録に至ると、特許権者の希望する1または2以上のEPC締約国に有効化手続を行って当該締約国で有効な特許権を取得可能な制度である。この制度は、今後も継続する。現行制度の他の選択肢が欧州単一特許の制度である。この制度は、欧州特許の登録後1カ月以内に選択可能である。この期間で選択しないと、現行制度を選んだことになるから注意を要する。

(2)欧州単一特許を選択してもオプトアウトが可能という誤解があるが、これは間違いである。
 オプトアウトは、現行制度の各締約国で有効化手続を経た特許の裁判管轄から欧州統一裁判所を外す手続をいう。欧州単一特許を選択した場合には、その裁判管轄は欧州統一特許裁判所となる。ちなみに、現行制度を選択した場合にオプトアウトの手続をしないとどうなるかというと、その特許の裁判管轄は、有効化国の国内裁判所と欧州統一特許裁判所の2種類の裁判所となる。

(3)英国やスイスも欧州単一特許の範囲に入るという誤解があるが、これは間違いである。
 UP/UPC制度は、UPCA締約国17カ国の範囲でスタートする。17カ国とは、イタリア、エストニア、ラトビア、リトアニア、オーストリア、オランダ、スウェーデン、スロベニア、デンマーク、フィンランド、フランス、ブルガリア、ベルギー、ルクセンブルク、ポルトガル、マルタ、ドイツである。将来、25カ国に拡大する可能性はあるが、英国やスイスのようなEU非加盟国は、UP/UPC制度の範囲外となる。このため、EPOにて登録された欧州特許を英国やスイスで有効な権利とするには、欧州単一特許の選択だけでは足りず、現行どおり、英国やスイスへの有効化手続を要する。

(4)オプトアウトの手続は、2023年3月1日から5月31日までの3カ月間に限定されるとの誤解があるが、これは間違いである。
 オプトアウトの手続は、2023年6月1日から7年間(場合によっては14年間に延長)可能である。上記の3カ月間は、サンライズ期間といい、事前手続の期間に過ぎない。よって、オプトアウトの手続を行うか否かは、UP/UPC制度がスタートしてからゆっくり考えて判断しても良い。ただし、現在、欧州で特許訴訟を行っている、または特許訴訟になりそうな段階であれば、特許権者としては、各国で有効化した特許の取消を欧州統一特許裁判所に請求される前にオプトアウトの手続を行って欧州統一特許裁判所の管轄を外しておくのが良いであろう。

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2.AIが発明者?                顧問・弁理士 渡邉秀治

(1)AIが発明者となっている出願が世界各国へ出願された。その結果、審査国ではオーストラリアで裁判所がAIを発明者として認める判断を下した(*1)。しかし、『2022年4月13日付けの判決において、オーストラリア連邦裁判所大法廷は、AIが発明者として認められるとした第一審判決を覆して、特許出願における「発明者」は自然人でなければならず、AIであるDABUSを特許出願の発明者とすることはできないと結論付けた。』(*2)。
(2)今回の対象は、国際公開WO-A1-2020/079499で、発明の名称は「FOODCONTAINER AND DEVICES AND METHODS FOR ATTRACTINGENHANCED ATTENTION」。発明者は「DABUS, The invention wasautonomously generated by an artificial intelligence」。
(3)英国、欧州、米国、ドイツ、日本では、AIは発明者として認められないとされ、審査はされていません(*1、*3)。なお、日本へは、PCT移行(出願)がされておらず、一方、南アフリカは無審査国であり特許されています(ZA.202103242.B)。
*1:https://www.ngb.co.jp/resource/news/2158/
*2:https://www.aoyamapat.gr.jp/news/3327#
*3:https://www.jpo.go.jp/system/process/shutugan/hatsumei.html

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3.特許出願の分割ー訴訟時の分割もあり     顧問・弁理士 渡邉秀治

(1)特許出願の分割が多い企業は、知財戦術に優れた企業と言われる。それは何故か? 自社の出願内容を見つつ、併せて他企業の動きを見ていないと、分割出願が行えないから。
(2)また、早期審査を行うときは、分割出願が対となる。例えば、早期審査をして早期に特許査定を得られた時には、権利が早期に確定する。確定した権利に対しては権利範囲から逃れられる対策を打ちやすい。そのため、それへの対策として、特許査定後の登録料納付前に分割をし権利不確定の出願を置いておく。早期審査を行うときに同時に分割出願をする手もある。
(3)私の今までの経験では、①特許出願中のものを親を含め14件に分割したことがあり(親出願:特願平05-354946)、②無効審判を行った際、相手側の権利は、子を第1~第7世代まで分割したものであった。そのうち計5件で争い4件を無効とし、1件が訂正で生き残り。なお、このときは同時に他2件を無効審判にて無効とした。
(4)上記(1)~(3)は経験したものであるが、最近、日本ライセンス協会主催のセミナーで訴訟時の分割もあり得ることを学んだ。講師は、弁護士・弁理士・米国CAL州弁護士 高石 秀樹氏。分割出願を係争時に活用する事例を複数挙げられていたが、訴訟時の例の1つとして次の例が挙げられていた。  東京地判平成29年(ワ)第36506号の件で、警告状送付したところ、非充足で反論あり。権利者は分割出願しその分割特許で訴訟提起。非充足となったが更に分割出願し第7世代特許(特許第6206897号)で侵害成立。なお、警告状送付後の反論を見て分割出願する手は他にも例示されており、無暗に手の内を明かすことは危険である。

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