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MEBUKI IP Small Talk 1月号(2023年)

目次

国内商標のファストトラック審査

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国内商標のファストトラック審査       パートナー弁理士 長谷川洋

 特許出願・意匠登録出願に早期審査制度があるように、商標登録出願にも早期審査制度がある。しかし、商標の場合、早期審査の対象となるには、特許庁が指定する3つのケースのいずれかに該当する必要があり、いずれのケースにおいても商標を少なくとも一部の指定商品又は指定役務に使用しているか、使用の準備を相当程度進めていることが要求される(注1)。このため、例えば、指定商品又は指定役務を全く使用していない場合には、早期審査を請求しても認められないことになる。
 このような場合、上記早期審査とは要件の異なる別の制度を利用することをお勧めする。その制度の名称は、「ファストトラック審査」という。ファストトラック審査は、申請手続不要で、しかも無料である。要件は、以下の(1)と(2)の両方を満たすことである(注2)。
(1)出願時に、「類似商品・役務審査基準」、「商標法施行規則」又は「商品・サービス国際分類表(ニース分類)」に掲載の商品・役務のみを指定している商標登録出願
(2)審査着手時までに指定商品・指定役務の補正を行っていない商標登録出願
 上記(1)の商品又は役務に該当するか否かの判定ツールについては、特許庁が専用ページを用意しているので、そのページを利用されたい(注3)。
 ファストトラック審査は、特許庁の情報によれば、出願から約6カ月で最初の審査結果を発行するそうであり、通常の審査(約9カ月)よりも3カ月ほど早い。弊社でも、2022年9月上旬に、お客様の同意をもらって、ファストトラック審査の対象となる商標登録出願を行った。すると、2023年1月上旬に登録査定をもらった。出願から登録査定までの期間は約4カ月であった。出願から約4カ月で登録査定をもらうと、マドリッド・プロトコルに基づく国際商標出願(通称:マドプロ出願)の際に、安心してパリ条約上の優先権を主張できる(優先権の主張は、日本の出願日から6カ月以内に限る)。マドプロ出願は、本国商標と同一範囲若しくはそれより指定商品・指定役務の少ない範囲で海外でも広く商標登録を受けるのに利用され、海外の代理人を介さずに低コストで海外で権利化できる国際出願である。マドプロ出願を行う場合、本国(日本の出願人の場合には「日本」)で同一の商標の登録を有することが前提であり、本国商標を取得できないとマドプロ出願は国際登録の取消となってしまう。これをセントラルアタックという。このため、日本で商標の登録査定を受けてからマドプロ出願を行うのがセントラルアタックのリスクを低くする上で得策ということになる。日本における通常の商標審査だと出願から登録査定まで約9カ月かかるので、セントラルアタックのリスクを考慮してパリ条約上の優先権を主張できないままマドプロ出願することが多い。しかし、ファストトラック審査によって出願から約4カ月で登録査定を受けた先の例では、セントラルアタックのリスクが低くなるので、パリ条約上の優先権を主張してマドプロ出願ができる。パリ条約上の優先権を主張するとどのようなメリットがあるかというと、マドプロ出願が日本の出願日になされたと同じように扱ってくれるため、マドプロ出願より少しだけ先に、これと同一又は類似範囲にある他人の商標登録出願があっても上記他人に勝つ可能性がある。これがパリ条約上の優先権を主張するメリットである。ファストトラック審査の対象になるには、上記(1)に記載にあるように、定型的な指定商品又は指定役務を願書に記載する必要があるが、上記の通り、非常に早い審査が期待できること、これに起因してその後のマドプロ出願の際に出願日の先後関係の観点で有利になること、といったメリットを享受できると考える。
(注1)https://www.jpo.go.jp/system/trademark/shinsa/soki/shkouhou.html
(注2)https://www.jpo.go.jp/system/trademark/shinsa/fast/shohyo_fast.hml
(注3)https://tmfast.jpo.go.jp/fasttrack/top.html

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