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MEBUKI IP Small Talk 11月号(2022年)

目次

マドリッド・プロトコルに基づく国際商標登録出願を行う際の留意点(その1)

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マドリッド・プロトコルに基づく国際商標登録出願を行う際の留意点(その1)
                      パートナー弁理士 長谷川洋

(1)はじめに
 外国において商標権を獲得する方法として、大別すると、商標権を獲得したい国や地域(地域:EU等)に直接出願する方法(方法A)と、世界工業所有権機関(WIPO)に対して国際出願を行う方法(方法B)とがある。方法Bによる出願を、マドリッド・プロトコルに基づく国際登録出願(「マドプロ出願」という。)と称する。ちなみに、マドプロ出願の書類は、英語で作成しなければならない。方法Aおよび方法Bともに、日本の商標出願の日から6カ月以内にパリ条約上の優先権を主張して外国に出願すれば、日本の出願日にその外国に出願したと同様の利益を得ることができる。ここでは、上記優先権の詳細については、紙面の都合上省略する。
 費用だけを比較すると、一般的には、方法Bの方が安価である。その主な理由は、方法Aの場合には各国の代理人に出願代理してもらう必要がある一方で、方法Bの場合には各国の代理人に出願代理してもらう必要がないからである。すなわち、方法Bの場合、日本の企業または個人が日本国内の弁理士に手続を依頼するとしても又は自分自身で手続するとしても、各国の代理人なしで手続ができるからである。
 しかし、マドプロ出願の場合には特有の留意点がある。以下、主な留意点について紹介する。

(2)マドプロ出願を行う場合の留意点
<留意点1>
 出願人は、マドプロ出願を行う場合には、本国で登録商標を有していなければならず、かつ本国の登録商標の指定商品・指定役務の範囲外の商品・役務を指定することができないことに留意しなければならない。本国は、日本の出願人にとっては「日本」を意味するので、以後、本国を「日本」として話を進める。
 日本の商標出願または登録がマドプロ出願の国際登録の日から5年以内に消滅した場合には、マドプロ出願の国際登録も取り消される。これをセントラルアタックという。不幸にもセントラルアタックを受けた場合、出願人は、各指定国に対して個別に国内出願すれば登録可能ではあるが、マドプロ出願の費用+各指定国への出願の費用がかかるため、マドプロ出願による費用削減効果は消える。
 マドプロ出願は、日本の商標の出願係属中であっても可能であるが、日本の商標出願が審査を経て拒絶され、登録にならないこともある。また、登録になったとしても、拒絶等を回避する経過において、出願時の指定商品・指定役務が変わってしまう可能性もある。日本の商標登録が将来消滅するか否かを予想できない以上、セントラルアタックを確実に防ぐことはできない。
 以上を考慮すると、マドプロ出願は、少なくとも指定商品・指定役務が確定する登録査定をまって行うのが好ましい。もっと安全を考えるなら、日本の商標登録公報発行後2カ月を経過して第三者からの異議申立がないことを確認してからマドプロ出願を行うのがより好ましい。
<留意点2>
 マドプロ非加盟国(例えば、台湾や香港)ではマドプロ出願による国際登録はできない。これは当然のことである。
<留意点3>
 出願人は、中国と米国のみ、又はこれら両国+1カ国の計3カ国を指定するマドプロ出願は、必ずしも費用的に有利とはならない可能性があることに留意しなければならない。
 マドプロ出願は、指定国が多い程、大きな費用削減効果を発揮する。弊社での経験値では、5カ国での商標登録を目指す場合、弊社の手数料込みで、各国別に出願すると150万円くらいかかる一方、マドプロ出願だと60万円くらいで済む。
 では、どんな場合でもマドプロ出願の方が各国別の出願よりも費用的に有利かというと、そうでもない。中国と米国のみ、又はこれら両国+1カ国の3カ国を指定するマドプロ出願は、必ずしも費用的に有利とはならない可能性がある。
 中国及び米国は、それぞれ、商標出願数では世界第1位(2020年:900万件超)及び世界第2位の国(2020年:60万件超)であるが、日本のプラクティスとは大きく異なる。例えば、指定商品・指定役務を例にとると、米国では日本よりも下位概念となる商品や役務を指定しなければならない。日本では、「薬剤(医薬用のもの)」(第5類)という広範な範囲で商品を指定できるが、米国では、「薬剤」とか「医薬」では広すぎ、「胃腸薬」、「頭痛薬」といった、より下位概念の薬を指定しなければならない。一方、中国では、中国特有の区分表に従った商品や役務を指定しなければならない。実は、タイ王国も中国と似ている。一例を挙げると、日本では「被服」(第25類)を指定すると「帽子」や「靴下」も含まれるが、中国では「被服」を指定しても「帽子」や「靴下」を含まず、「被服」とは別に「帽子」や「靴下」を指定しないといけない。
 このような商品・役務の指定方法の相違から、日本の商標登録時の指定商品・指定役務の記載に従ったマドプロ出願では、米国および中国から、WIPOを通じて、暫定的拒絶理由通知が発行されるケースが多い。暫定的拒絶理由通知が発行された場合、原則、出願人または日本の弁理士では対応できない。このため、どうしても現地の代理人を選定して、指定商品・指定役務の補正を検討してもらい、手続をお願いすることになる。このように、マドプロ出願の途中で現地の代理人の作業が発生すると、マドプロ出願を選び費用削減効果を図った意味は薄くなる。特に、米国と中国、さらに1カ国を指定したマドプロ出願では、各国別に出願した場合より費用が高くなる可能性もある。各国別の出願なら、日本の商標出願の指定商品・指定役務の記載に縛られず、現地代理人からどのような指定商品・指定役務を選ぶべきかのアドバイスも得られ、結果的に拒絶を受けずに登録になる可能性もあるからである。
 では、マドプロ出願を、米国や中国から暫定的拒絶理由通知を受けずに登録できないだろうか?先行する他人の商標が存在しているために拒絶されるならまだしも、指定商品・指定役務の記載不備で拒絶されることを何とか防ぎたいと思うのは当然である。暫定的拒絶理由通知をなるべく発生させずに、できる限り安価にする可能性については、次回、述べる。

以上

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