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MEBUKI IP Small Talk 9月号(2022年)

目次

いよいよ欧州単一特許/欧州統一裁判所の制度発効が迫る
 〜オプトアウトの準備を開始すべき〜

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いよいよ欧州単一特許/欧州統一裁判所の制度発効が迫る
 〜オプトアウトの準備を開始すべき〜
                      パートナー弁理士 長谷川洋

(1)欧州単一特許/欧州統一裁判所の制度について
 この制度は、統一特許裁判所協定(Unified Patent Court Agreement: UPCA)を批准したEU加盟国間で、特許を共通にしようとする制度である。UPCAは、単一特許(Unitary Patent: UP)と、統一裁判所(Unified Patent Court)の2つの制度を規定する。10年近く前から、この話題は日本でも注目され、日本国内でも関連セミナーが多く行われてきた。当方も、過去に、お客様向けにセミナーを開催した。
 しかし、英国がEUを離脱し、ドイツではこの制度は違憲だという裁判が発生したことから、制度発効までに長く年月が費やされてきた。そして、ようやく、ドイツのUPCA批准を待つ段階にまで至り、かなり高い確率で、2023年春頃までには本制度が発効される見込みとなった。

(2)オプトアウトについて
 この制度は、現在のEPOによる審査・登録後に各指定国で有効化手続を行うルート(現有ルート)にとって代わるものではない。現有ルートの他に、もう1つ選択可能な新ルートが登場するのである。新ルートを選択した場合、EPOに出願した出願人は、UPCA批准国(最初は欧州の17カ国)で1つの特許を得ることができる。一方、現有ルートを選択した場合、今まで通り、EPOの出願人は、EPOで特許成立後、希望する指定国での有効化手続を行い、当該指定国で国内特許として効果を有する各指定国で独立した特許を得ることができる。
 ここで、「オプトアウト」という手続きが重要となる。
 新ルートを選択し単一特許を取得した場合、侵害訴訟、非侵害確認訴訟および特許取消訴訟(以後、「訴訟」という。)は、欧州統一裁判所と、各国裁判所(または特許庁)の両管轄となる。この場合は、オプトアウトは関係ない。新ルートの場合には、訴訟の管轄には、必ず統一裁判所が加わる。
 一方、現有ルートを選択した場合にも、新ルートと同様、原則として、訴訟は、欧州統一裁判所と、各国裁判所(または特許庁)の両管轄となる。
 しかし、現有ルートでも、オプトアウトの手続を行うことにより、現状通り、訴訟の管轄を各国裁判所(または特許庁)の管轄とできる。この場合、訴訟の管轄から、欧州特許裁判所は外れる。

(3)オプトアウトの最大のメリット
 欧州特許裁判所の制度は、批准国17カ国の複数国で特許侵害が発生したときに、その複数国で別々に訴訟を提起しなくとも、1カ所の国の統一裁判所で訴訟を提起すれば良く、その判決は批准国17カ国に及ぶというメリットを有する。
 一方、この制度は、特許権保有者にとっては致命的なデメリットももたらす。それは、第三者から統一裁判所に特許取消訴訟を提起され取消判決が確定すると、新ルートの場合には単一特許が消滅し、現有ルートの場合には各指定国で有効化していた特許が全て消滅する。これをセントラルアタックという。現有ルートを選択した場合にもセントラルアタックによって各指定国で有効化した特許が全て消滅するという事態が生じるのが最大のデメリットである。これを避けるには、オプトアウトの手続きを行う必要がある。これがオプトアウトの最大のメリットとなる。

(4)日本企業はオプトアウトの準備を急ぐべき
 先に述べたように、この制度の発効は、2023年の春(3月が有力視)と予想されている。ドイツのUPCA批准が2022年秋又は冬との見方が有力である。ドイツがUPCAを批准すると、3カ月間のオプトアウト事前手続期間(この期間を「サンライズ期間」と称する。)を経て、制度発効となる。このサンライズ期間内に、係属している欧州特許出願と、既に登録されている欧州特許(有効化手続前か後かは不問)について事前にオプトアウトすることができる。
 オプトアウトは、サンライズ期間終了後でも、制度発効から7年間(14年間まで延長の可能性有り。)、手続き可能である。ただし、制度発効後、訴訟が統一裁判所に提起された後では、その訴訟の対象となっている特許についてオプトアウトは認められない。
 是非、日本企業には、サンライズ期間に事前オプトアウトの手続きを行うことをお勧めする。ちなみに、今年9月6日に日本弁理士会が開催した「欧州特許実務ウェビナー(UPCサンライズ期間)では、IBMをはじめとする外国企業の知財責任者も講演者に加わっていた。IBMのような大企業でも、EPOの特許出願と特許については、そのほとんどについてオプトアウトの手続を行うと話していた。
 サンライズ期間が始まってからでは、事前のオプトアウトをわずか3カ月間で行う必要があることから、のんびりしていると時間的に間に合わなくなる可能性が高い。今からでも、オプトアウトの対象にしたいEPOの特許出願または特許を選別しておき、サンライズ期間が開始したら早めにオプトアウトの手続を行うのがベターである。
 オプトアウトは、出願人および特許権者自身でも手続き可能だが、最初はミスを防止する上でも、欧州特許代理人や年金管理会社を利用して行うことをお勧めする。
 なお、オプトアウトを含めた制度説明をご希望の方は、めぶき国際特許業務法人までご連絡いただきたい。資料のみをお送りすること、またはWEB若しくは対面で説明させていただくことのいずれも可能。

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