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MEBUKI IP Small Talk 6月号(2022年)

目次

1.期限徒過により喪失した権利の回復要件の緩和(第2回)

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1.期限徒過により喪失した権利の回復要件の緩和(第2回)
                          パートナー・弁理士 長谷川洋

(1)以前、2021年8月のメルマガにて、令和3年特許法等改正に含まれる期限徒過により喪失した権利の回復要件の緩和について簡単に報告した。あれから約1年経過し、少し詳細がわかってきたので、今回、第2回目の報告をする。

(2)正当な注意基準から故意基準への転換
 日本が加盟する特許法条約(PLT)は、出願人等の利便性向上及び負担軽減を図ることを目的とした条約であり、権利喪失に対する回復要件の緩和についても規定している(注1)。加盟国は、(a)相当な注意を払っていたが期限を徒過したことを要件とするか(正当な注意基準)、(b)期限徒過が故意によるものではないことを要件とするか(故意基準)のいずれかを選択できる。日本は、今まで(a)を採用していたが、令和3年の法改正により、(b)への転換を図ることになった。これにより、ほとんどの期限徒過により喪失した権利を回復できるものと思われる。因みに、米国は故意基準、欧州は正当な注意基準である。

(3)回復可能な手続
 特許、実用新案、意匠および商標について以下の手続きが故意基準により回復対象となる(注2)。
特許:
① 外国語書面出願の翻訳文(第36条の2第6項)
② 特許出願等に基づく優先権主張(第41条第1項第1号)
③ パリ条約の例による優先権主張(第43条の2第1項)
④ 出願審査の請求(第48条の3第5項)
⑤ 特許料の追納による特許権の回復(第112条の2第1項)
⑥ 外国語でされた国際特許出願の翻訳文(第184条の4第4項)
⑦ 在外者の特許管理人の特例(第184条の11第6項)
実用新案:
⑧ 実用新案登録出願等に基づく優先権主張(第8条第1項第1号)
⑨ パリ条約の例による優先権主張(第11条第1項で準用する特許法第 43条の2第1項)
⑩ 登録料の追納による実用新案権の回復(第33条の2第1項)
⑪ 外国語でされた国際実用新案登録出願の翻訳文(第48条の4第4項)
⑫ 在外者の実用新案管理人の特例(第48条の15第2項で準用する特許 法第184条の11第6項)
意匠:
⑬ パリ条約の例による優先権主張(第15条第1項で準用する特許法第 43条の2第1項)
⑭ 登録料の追納による意匠権の回復(第44条の2第1項)
商標:
⑮ 商標権の回復(第21条第1項)
⑯ 後期分割登録料等の追納による商標権の回復(第41条の3第1項)
⑰ 防護標章登録に基づく権利の存続期間の更新登録(第65条の3第3項)
⑱ 書換登録の申請(附則第3条第3項)

(4)新回復制度の施行日
 2022年6月15日現在、施行日は公表されていないが、特許庁に確認したところ、2023年4月1日の施行を予定しているとのことである。

(5)回復費用
 改正前、回復については無料で申請できた。しかし、改正後は、有料となり、下記の通り、特許、実用新案、意匠および商標の間で費用の差は大きい(注2)。特に、特許と商標は、かなり高額な回復費用が必要であるため、回復要件が緩和されるとはいえ、従来通り、十分な期限管理が必要であると思われる。なお、特許庁は、新型コロナ感染症、天災などの理由がある場合には費用はかからないような規定とするようである。
特許:29万7千円
実用新案:5万円
意匠:2万5千円
商標:10万2千円

(注1)https://www.jpo.go.jp/resources/shingikai/sangyo-kouzou/shousai/tokkyo_shoi/document/44-shiryou/04.pdf
(注2)https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/kaisetu/2022/document/2022-42kaisetsu/05.pdf

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