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MEBUKI IP Small Talk 4月号(2022年)

目次

1.米国における特許権均等侵害の減少

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1.米国における特許権均等侵害の減少         パートナー・弁理士 長谷川洋

(1)均等論 v. 禁反言
 米国および日本でも、特許侵害論は、被疑侵害品が請求項(クレーム)を文言どおり充足するタイプの侵害(文言侵害)の成否を経て、これが「否」の場合に、クレームと少し異なるがクレームと均等とみなすことができるタイプの侵害(均等侵害)の成否の議論に入る。日本では、ボールスプライン軸受事件最高裁判決(最判平成10年2月24日民集52巻1号113頁)にて均等成立5要件が確定し、5つの要件が全て満たされたときに均等侵害が成立するものとして、現在まで判決が積み重ねられている(注1)。  米国の裁判所は、日本と異なる要件があるものの、ほぼ類似した要件にて均等侵害を認定している。ただし、日本と米国では、禁反言(エストッペルともいう。)が均等侵害の成否に及ぼす効力に大きな差がある。禁反言は、一旦主張した言い分と相反する主張をすることは許されないという法理であり、均等侵害の認定において、その成立を阻むツールとして機能することが多い。

(2)米国におけるフェスト最高裁判決以後の禁反言強化
 前言撤回を許さない禁反言の法理は、日本にも米国にも存在する。日本の均等侵害成立の5つの要件の内、第5要件として、「対象製品等が特許発明の特許出願手続きにおいて特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情がないこと」が存在する。これが禁反言に関する要件である。もし、出願係属中に、特許出願人が対象製品等を敢えて除外したかのような補正や意見書を提出していると、特許権成立後に、その除外が無かったものとする主張は許されない。
 一方、米国の禁反言は、フェスト最高裁判決(2002年)によって、大きく強化された。例えば、出願審査中に、出願人がクレーム中の「金属」を「鉄」に減縮する補正を行った場合、原則として、鉄以外の金属は放棄され、鉄のみに限定したものと推測されることになった。推測なので、反論が認められる要件はある。最高裁は、以下の3点を挙げている(注2)。特許権者が下記a)〜c)のいずれかを立証できれば、鉄以外の金属を放棄したことにはならない。
 a)均等物(上記の例では鉄以外の金属)が補正時に予測不能である
 b)減縮補正が均等物(上記の例では鉄以外の金属)に関係ないこと
 c)均等物(上記の例では鉄以外の金属)を記載できなかった合理的理由があること

(3)2000年以降の米国における均等侵害認定の減少
 米国ミズーリ—法科大学のデニス・クローチ教授の報告によれば、米国特許権の均等侵害が認められる率が2000年以降減少しているという(注3)。
 この原因の一つには、フェスト最高裁判決により禁反言が適用されやすくなったことがあると予想されている。
 日本の企業が米国に特許出願を行う場合、均等論に頼るのではなく、文言侵害で勝てるようにクレームのドラフティングを行うのが良いであろう。
(注1)https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/790/052790_hanrei.pdf
(注2)https://www.mofo.jp/topics/detail/000323.html
(注3)https://patentlyo.com/patent/2019/11/doctrine-equivalents-federal.html

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