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MEBUKI IP Small Talk 8月号(2021年)

目次

1.特許法等の一部を改正する法律が可決成立(令和3年5月21日法律第42号)<その1>

2.契約の成立は日本では口頭でOK 、英米や中国では(前半)

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1.特許法等の一部を改正する法律が可決成立(令和3年5月21日法律第42号)<その1>
                           パートナー・弁理士 長谷川洋

 今年5月に、特許法等の一部改正法案が国会を通過して成立した。
施行日は、法律の成立から1年を超えない期間内なので、2022年4月1日ではないかと推測される。

 主な改正事項は、以下の通り「出典: 特許庁のWEBSITE(注)」。
(1) 新型コロナウイルスの感染拡大に対応したデジタル化等の手続の整備
  ① 審判の口頭審理等について、審判長の判断によりウェブ会議システムで手続可能。
  ② 特許料等の支払について、印紙予納の廃止と、クレジットカード支払の導入。
  ③ 意匠・商標の国際出願の登録査定の通知等について、郵送に代えて、国際機関を
   経由した電子送付を可能とする。
  ④ 感染症拡大や災害等の理由によって特許料の納付期間を経過した場合に、相応の期間内に
   おいて割増特許料の納付を免除する。
(2) デジタル化等の進展に伴う企業行動の変化に対応した権利保護の見直し。
  ① 海外事業者が模倣品を郵送等により国内に持ち込む行為を商標権等の侵害と位置付け。
  ② 特許権の訂正等における通常実施権者の承諾を不要とする。
  ③ 特許権等が手続期間徒過により消滅した場合、権利を回復できる要件を緩和。
(3) 知的財産制度の基盤の強化
  ① 特許権侵害訴訟において、裁判所が広く第三者から意見を募集できる制度を導入し、
   弁理士が当該制度における相談に応じることを可能とする。
  ② 特許料等の料金体系の見直し。
  ③ 弁理士法改正:
   a.農林水産関連の知的財産権(植物の新品種・地理的 表示)に関する相談等の業務を
    弁理士業務に追加。
   b.法人名称の変更。
   c.一人法人制度の導入。

 上記改正事項の内、今月は、(2)③の権利回復要件の緩和について、ご紹介したい。
 実は、数カ月前、あるお客様の依頼により、特許権回復の申請を特許庁に行った。一旦消滅した特許権を回復するには、「正当な理由」が必要である。
お客様の依頼内容によると、新型コロナウイルス感染症の拡大が一因になっていることがわかったので、当該感染症の拡大を理由に申請した。
しかし、結果は、回復を認めるに足らずとの特許庁の見解であった。
この回復申請は、特許庁の事務方とコミュニケーションをとりながらのものであったが、回復できないとの結論に失望した。
 日本特許庁のいう上記「正当な理由」は欧米のそれとかなりの差があり、非常に狭い。このことは以前より問題視されてきた。今回の改正は、期限徒過及び権利回復の要件を一挙に緩和するものである。

 まず、出願審査請求(出願から3年以内)の期限徒過である。
現行法では、出願審査請求しなかったことについて正当な理由がない限りは、救済されない。
しかも、正当な理由は、極めて狭き門であり、災害レベルの事情がないと救済不可であった。
しかし、今回の改正で、期限徒過が故意でなければ、一定期間における出願審査請求を認めるということである。故意に期限を過ぎるということはまず考えにくい。
よって、通常の期限徒過であれば救済されると思われる。問題は、徒過した期限がどのくらいなら救済されるか?である。
これについては、省令を待つしかない。

 出願審査請求と同様に期限徒過の救済を受けられる手続としては、以下の手続きがある。
いずれも、期限内に、故意に手続をしなかった場合を除き、救済可能である。
期限を単純に忘れた場合にも救済されるというのは、実に嬉しい。
 ただし、過失で期限徒過した場合全てを救済するのかどうか若干信じがたい感じもするので、実際に法律が施行されてからの実務を見たい。
・外国語書面出願の翻訳文
・外国語でされた国際特許出願の翻訳文
・特許出願等に基づく優先権主張
・パリ条約の例による優先権主張
・特許料等の追納による特許権の回復
・商標権の回復
・後期分割登録料等の追納による商標権の回復
・防護標章登録に基づく権利の存続期間の更新登録出願
・書換登録の申請
・在外者の特許管理人の特例
(注)https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/hokaisei/tokkyo/tokkyohoutou_kaiei_r030521.html

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2.契約の成立は日本では口頭でOK 、英米や中国では(前半)  顧問・弁理士 渡邉秀治

 最近、契約関係の講演や全国の知財窓口支援において、日本と欧米の契約の成立の違いについてお話をする機会が増えた。契約業務は、会社時代、特許事務所経営時代を通じ、業務時間の5%前後を費やしてきた。2004年の弁理士会のパテント誌に「技術関連契約において必要とされる基本知識,ノウハウ」という題目の寄稿論文を発表したが、その折りにも、日米の違いについて一部触れていた。今回は、日本法についてのお話をし、次回は、英米と中国についてお話をする予定。

 最近、大阪大学系のベンチャー企業の支援を行った際に、社長様から「日本が口頭で契約が成立してしまうのは昔からなの?」という質問があった。その時は「そうです」と返事をし、かつ「交渉時等においてUSBメモリで録音されると、その証拠が出されるとやばい。今は録音されることに注意すべき時代になった」と回答をした。その後、過去の当方のプレゼン資料の該当箇所を送付し理解を深めてもらった。だが、その送付資料は旧民法に基づくもので、2020年4月1日から施行(約120年ぶりの大改正)のものではなく、少し異なる(誤った)ものであったことが分かり、その後に訂正のメールを差し上げた。その訂正メールを打つ前にもう一度旧法と新法を確認した。

 なお、これまで、契約は「口約束」でも成立するとされていたが、この考えは、今回の民法改正においても、法令上で書面による契約が必要な場合を除いて、口約束による契約成立は変わらないと考えられる。また、新民法で変わった点は、隔地者間の契約の発信主義が、民法全体の基本である到達主義になった点。

 旧民法と新民法は以下のとおり。
(1)旧民法
第九十七条(隔地者に対する意思表示)
隔地者に対する意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。
第五百二十六条
隔地者間の契約は、承諾の通知を発した時に成立する。
(2)新民法(2020年4月1日から施行)
第九十七条(意思表示の効力発生時期等)
意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。
第五百二十二条(契約の成立と方式)
契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)
に対して相手方が承諾をしたときに成立する。
2 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。

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