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MEBUKI IP Small Talk 7月号(2021年)

目次

1.飲食物の提供で留意する商標問題(モンシュシュ商標権侵害事件から学ぶ)

2.知財貧乏にならないために

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1.飲食物の提供で留意する商標問題(モンシュシュ商標権侵害事件から学ぶ)
                           パートナー・弁理士 長谷川洋

(1)ここ1年半、首都圏のみならず全国的に、レストラン、居酒屋、バー、スナックおよびカフェなどの飲食店の営業が新型コロナウイルス感染症のために経済的ダメージを受けている。三密を避けるため、これらの飲食店の中には、店内飲食を自粛して、飲食物を店外提供(テイクアウト)するところも少なくない。ところが、商標の世界では、飲食物の店内提供と、飲食物の店外提供とは異なることに留意しなければならない。今月は、その点につき、モンシュシュ商標権侵害事件(平成22年(ワ)第461号商標権侵害差止等請求事件、平成23年(ネ)第2238号,平成24年(ネ)第293号)(注1)(注2)を参考に述べてみたい。

(2)もし、皆様の中に、飲食物の提供ビジネス(カフェ、レストラン、居酒屋など)をこれから始める、あるいはすでに行っている方がおられるなら、同業他社(者)との識別のため、商標を出願して権利化することをお勧めする。商標の出願時に、どのような指定商品・役務を選択するか?指定商品・役務は、法上、45の区分にわかれている。それらの中の第43類には、飲食物の提供という指定役務がある。まずは、これを選択すべきであることに疑いはない。
 しかし、これだけで良いのか?答えは、ノーである。飲食物そのもの(例えば、第30類に列挙される指定商品)、飲食物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供(第35類、以下、「小売業」と簡単な表記とする。)も選択肢として考えるべきである。なぜなら、飲食物の提供(第43類)は、店内での飲食物の提供を意味しており、テイクアウトによって店外に飲食物を持ち出し提供することまでは含んでいないからである。上記(1)で紹介したように、コロナ禍では、レストランやカフェなどではテイクアウトを行うのが一般的である。そうであるなら、最低限、飲食物そのものも指定商品に含めなければならない。

(3)では、既に、飲食物そのものを指定商品とする先願商標権者がいた場合には、どうしたら良いのか?先願の登録商標を無効または不使用取消できるならその手段を講じたらよいが、無効・取消が困難な場合には、飲食物の提供を指定役務とする出願をするとともに、ビジネス上、飲食物の店内提供に徹するしかない。
 ここで、モンシュシュ事件を紹介する。この事件の原告は、神戸市にあるゴンチヤロフ製菓株式会社である。被告は、大阪市にある株式会社Mon cher(訴訟提起時点の名称:株式会社モンシュシュ)である。
 原告は、二段書の商標「MONCHOUCHOU\モンシュシュ」(指定商品:第30類の菓子、パン)の商標権者である(商標登録第1474596号)。被告は、二段書の商標「MONCHOUCHOU\モンシュシュ」(指定役務:第43類のパンケーキ又は菓子を主とする飲食物の提供及びこれらに関する情報の提供)の商標権者である(商標登録第4939769号)。
 被告は、原告の登録商標に類似する標章を、店舗の看板(店頭表示板),案内板,外壁及び入口ガラス壁面に表示していた。また、被告は、前記標章を、自身が製造販売する洋菓子に関する車体広告,インターネット上のウェブ広告,チラシなどの広告もしくは取引書類に表示していた。原告は、訴訟を提起して、それらの差し止め及び損害賠償を要求した。

(4)この事件の争点は沢山ある。その中の1つに、被告の標章使用は洋菓子の識別標識として使用されているか、という争点がある。被告は、関西で有名な「堂島ロール」という洋菓子を扱う会社であって、その店舗名を意味する標識として、「モン シュシュ」、「Mon chouchou」、「mon-chouchou」など多種の標識を、商品包装、保冷バッグ、看板、ウェブサイトのドメイン、店で使用する四輪車の車体表面などに使用していた。被告は、自身が使用している標章は,「堂島ロール」を販売する店舗名を表すものとして機能しており,商号その他店舗表示・営業表示として使用されているものである旨、主張した。
 しかし、大阪地裁・大阪高裁共に、これを認めず、被告の当該標章の使用は原告の商標権を侵害する行為と認定した。被告は、自身の登録商標の使用を理由とする抗弁も行ったが、裁判所から、その商標登録は無効理由を有すると判断された。
 侵害となったポイントは、なんといっても、被告が洋菓子を販売していたということである。もし、被告が洋菓子の店内提供(いわゆるイートイン)に徹していたら、結果はどうなっていただろうか?もしかしたら、侵害とは認定されなかったかもしれない。
 ただし、外食産業においてテイクアウトが当たり前の今日、店内提供に徹しきれるか、という問題がある。飲食物を指定商品とする先願商標権が存在する状況において、当該権利に係る登録商標と同一又は類似の商標を用いて飲食物の提供を行うときには、店内提供から逸脱しないように十二分に留意すべきである。それが不可と思うなら、別の商標を考え直した方が良いと思う。

(注1)https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/476/081476_hanrei.pdf
(注2)https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/059/083059_hanrei.pdf

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2.知財貧乏にならないために            顧問・弁理士 渡邉秀治

 最近、知財戦略の講演や全国の知財窓口支援において、「知財貧乏にならないために」と題する項目を入れて話をしている。その中は、「知財の誤解」と「知財貧乏にならないための注意点」の2点。
(1)「知財の誤解」は以下の①~⑫の点を説明している。中身は一部のみ下記。
①特許出願は、レベルの高いものを出す。
---特許出願は、経営上、重要な製品について行うもので、技術レベルは二の次。
---よって、出願する、しないの判断は経営トップ陣が会社の方向性を見ながら行うべき。
②良い特許は初めから分かる。
---旭化成の吉野氏の例などを挙げながら説明。
③特許出願したら安心。
---他社が脅威となる特許、ライセンス可能な特許は、大手では(1~3%)程度の確率。
④知財活動は保険のようなもの。
---ビジネスに直結させるべきで、武器を持つ戦い。
⑤日本への出願(特許、商標)をすればよい。
---市場はグローバル化、製造も。
⑥特許は技術者の中の優秀な人が取るもの。
⑦発明者は、発明について強い権利を持っている。
⑧特許の公報が出ているのでやばい。
---公開公報は審査されていないもの。
⑨特許制度は日本、中国、米国で大きな違いはない。
⑩知財権は、ノウハウより重要。
⑪特許が最も重要→特許の過信に注意。
⑫特許出願は物と同じで、ある程度形式が備わっていれば、安い方が良い。
---書く人材によって大きく変わる。
---営業特許もあり(安く出願⇒一部は、国内優先権主張出願)。

(2)「知財貧乏にならないための注意点」は以下のことを含め種々説明。
①出願費用だけで元が取れるか否か?

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