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MEBUKI IP Small Talk 5月号(2021年)

目次

1.英国のEU離脱(Brexit)が知財に及ぼす影響

2.中国の商標問題

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1.英国のEU離脱(Brexit)が知財に及ぼす影響    パートナー・弁理士 長谷川洋

 先月上旬、「欧州の知的財産概況」と題したJETROのWebinarを聴講した。以下、重要事項について概説する。

(1)欧州統一特許・統一裁判所制度の行方
 この問題は、英国がEUを離脱するという話が聞こえてきた当初、英国とドイツの批准を待っている状況にあった。しかし、英国は、2018年4月26日に批准し(現在はEU離脱に伴い批准を撤回)、条約発効に必要な批准国はドイツのみとなった。ここで、ドイツでは、条約の違憲問題が発生し、条約批准に「待った」がかかった。
 ドイツの違憲問題については、昨年2020年3月に動きがあり、ドイツ連邦憲法裁判所が「違憲」の判決を下した。同年9月、連邦政府は新ためて批准法案を連邦議会に提出し、同年12月までに連邦議会で批准法案が可決された。これでいよいよ条約発効かと思ったら、2件の憲法異議申し立てがなされ、再び、条約発効に暗雲がたちこめている。欧州特許庁(EPO)は、2022年に制度開始可能をリリースしているが、JETROの講演者によれば、どうなるかは現時点ではわからないとのことである。

(2)EU商標とEU意匠
 BrexitがEU知財に及ぼす影響は、特許に関しては全くない。問題は、EU商標とEU意匠である。2020年12月31日までにEU商標およびEU意匠が登録になっている場合には、権利者は何ら手続きをする必要はない。英国は、自動的に、国内商標または国内意匠の権利に書き換えるからだ。ただし、年金等の支払いは、英国知財庁に行う必要がある点は留意すべきである。
 問題は、EU商標(マドリッドプロトコルを利用した国際商標登録出願でEU指定をしている案件も含む)またはEU意匠(ハーグ協定による国際意匠登録出願でEU指定をしている案件も含む)が2021年1月1日の時点で未登録状態の案件である。出願人が英国での権利化を望む場合には、別途、英国への出願手続を要する。2021年9月30日までに英国に出願しないと、英国で権利は得られない(注)。

(3)権利の消尽
 以下、特許権の消尽に焦点をあてて説明する。Brexitによって、EUと英国との間における特許権の消尽の取り扱いが今までと変わる。元々、EUは、EU域内での物・サービスの障壁をなくすことを前提としており、EU域内での権利の消尽を原則としている。例えば、フランスとドイツで特許権を有する特許権者Xがいると仮定する。特許権者Xは、自己の特許権にかかわる特許製品をフランスで販売したとする。その後、ある業者Yがフランスで上記特許製品を購入してドイツに輸入したとする。その場合、原則、特許権者Xは、ドイツ特許権に基づき業者Yを訴えることはできない。すでに、特許権が消尽しているからである。
 しかし、上記の消尽の問題は、EU域内での話であり、EU域外を含む国際消尽には通用しない。権利消尽を認めるかどうかは、再び特許製品が市場に置かれた第2国が決める問題である。
 EUと英国との間では、次のような消尽の扱いとなる(注)。
(A)EU域内のある国(例えばフランス)の市場に特許製品が置かれ、その後、英国に同製品が輸入された場合、英国では、原則、特許権が消尽したものとみなす。このため、フランスと英国で特許権を有する者は、英国で、原則、権利行使できない。
(B)英国市場に特許製品が置かれ、その後、EU域内のある国(例えばフランス)に同製品が輸入された場合、フランスでは、原則、特許権は消尽しない。このため、輸入業者は、フランスと英国で特許権を有する者の承諾を得なければ、フランスで、原則、権利行使を受ける可能性がある。

(注)https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/uk/brexit_202002.html

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2.中国の商標問題              顧問・弁理士 渡邉秀治

 最近、中国の商標問題での相談が多くなってきている。私は、本来、特許がメインの弁理士であるが、会社時代には、3年間商標担当もしたし、事務所経営時代は、商標の審決取消訴訟(勝訴)も経験した。米国、中国への出張が各20回以上であり、中国、米国については実務経験も多く、また勉強もした。
 中国で先に商標登録されてしまう場合の多くは、冒認である。日本の商品を扱う中国の貿易会社が先に登録したり、日本へ観光などで来たり、インターネットで知った商品を、中国人が売買目的で商標登録することが非常に多い。有名な事件は、「無印良品」(注1,2)「クレヨンしんちゃん」(注3)である。
 中国の2020年の商標出願件数は911.6万件であり(注4)、日本の2020年の特許庁統計では日本の最近の商標出願は年間18万件強。中国は日本の50倍の出願。そこには金の成る木があるから。中国には、商標売買マーケットがあり(注5)。注5に示すものには『登録商標の譲渡事業の発展と拡大に伴い、いわゆる「商標譲渡のスーパーマーケット」 まで出現している。例えば、「バイドゥ(百度)」の検索エンジン(www.baidu.com)で「商標譲渡スーパ ーマーケット」というキーワードを入力すれば、数十の「商標スーパー」や「商標譲渡スーパー」が見つかる。中でも規模が大きいものには、「華唯商標転譲網」( www.bt.com)、「中華商標超市」(www.gbicom.cn)、「好標網」(www.haotm.com)、「尚標網」(www.86sb.com)等がある。』との記載がある。
 日本の企業が中国で先に商標登録されてしまった場合、次の対応を。
(1)不使用取消請求、無効審判(冒認含む)、譲渡、回避出願などの対応。
(2)カタカナや平仮名は、中国では、図形商標であり、カタカナや平仮名のものが登録されていても、その商標が著名などで無い限り、英文や漢字は登録可能。逆のパターンもあり。
(3)中国先登録商標の権利者の調査が必要。調査は、競業か否か、登録商標を使用しているか否か、こちらの商品を中国で販売する場合に協力者になってもらえる可能性があるか否かなど。
(4)上記(2)のような対応や類似しない商標を登録させ、それらの回避案を持ちながら、譲渡交渉を行う。その際は、上記(3)の権利者の調査をし、権利者が不使用の時、協力関係を結べる時などでは譲渡交渉開始となる

注1:「無印良品」の商標訴訟、良品計画が敗訴 中国
https://www.afpbb.com/articles/-/3260149
注2:「無印良品」商標巡り中国企業と20年戦争。良品計画「法的解決諦めない」
https://www.businessinsider.jp/post-208960
注3:8年かけ勝訴!中国商標「しんちゃん」事件の教訓
https://president.jp/articles/-/6182?page=1
注4:https://kyk-ip.com/2021/01/19/
注5:https://www.jpo.go.jp/resources/report/takoku/nicchu_houkoku/document/h28/h28_houkoku03.pdf

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