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MEBUKI IP Small Talk 2月号(2021年)

目次

1.某米国企業のねばり強さ

2.競業避止義務について考える(前半続編)

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1.某米国企業のねばり強さ             パートナー・弁理士 長谷川洋

 だいぶ前から現在まで継続している某米国企業からの日本特許出願について感心していることを述べたい。

 7,8年前に、米国の特許事務所経由にて、某米国企業(仮に「C社」とする。)のPCT出願の日本国内移行の依頼を受けた。依頼は、PCT出願の日本語訳も含む。日本語訳の作成・確認時に感じたことは、明細書が非常にわかりにくいことであった。わかりにくい理由は、米国からの依頼案件にはよくあることだが、特許請求の範囲で使用している文言と、明細書で使用している文言とが一致していないことの他に、上位の請求項が非常にぼんやりと記載されていて、一見しただけでは何を言いたいかがわからないことである。

 それでも、特許庁の審査を受け、拒絶理由に応答して特許査定を受けるに至った。C社は、特許査定を受けた請求項がPCT出願時の請求項の一部であり、かつ狭くなったこともあり、特許査定後に2件の分割出願を希望した。その結果、1件の特許成立後、2件の分割出願が発生した。ここまでは、国内案件でも見られる状況である。

 1件の分割出願については出願審査請求せずに取り下げとなったが、もう1件については、出願審査請求を行い、権利化を目指した。しかし、残念ながら拒絶査定を受けるに至った。拒絶査定に対しては、いくつかのオプションを提示した。日本では、拒絶査定をうけたときに分割出願を行わないと、その後、特許査定になっても分割できなくなるため、分割するなら、拒絶査定後の所定期間に行うのが良いことも伝えた。その結果、C社は、拒絶査定に対しては争わず、分割出願のみを希望した。この時点で3件目の分割出願である。

 今度は、3件目の分割出願での権利化を試みた。案の定、拒絶理由通知が来た。当方としては、より減縮する補正請求項を提示した。しかし、C社の回答は「ノー」であった。広いまま戦うことになった。その結果、これも案の定、拒絶査定に至った。C社は、当方の先の減縮案を受け入れ、減縮請求項にて不服審判を行うことになった。同時に、C社は、またもや分割出願を希望した。すなわち、不服審判と分割出願の両方を行った。これで4件目の分割出願である。ここまで分割出願をするのは経験上、初めてである。4件目の分割出願では、PCT出願時に近い広めの権利範囲の請求項を希望してきた。現在、不服審判と4回目の分割出願とが特許庁に係属している。

 このような分割を4度も繰り返す案件は、日本企業からの案件には少ない。少なくとも当方の経験上、初めての案件である。C社の海外権利取得の経緯を見ても、海外でも苦戦し、一部権利化していても、より広い権利化を試みて分割出願や継続出願を行っているようである。C社は、先のPCT出願のみならず、その前後で何件も日本への移行を当方に依頼してきている。C社の案件は医薬ではないが、医療関係のものである。よほど重要なのだろう。とかく初期の出願は、広い権利化を図る上では極めて重要である。2番目、3番目の出願になると、自身の最初の出願の公開が障害となり、広い権利化を目指せないことが多々あるからだ。C社の粘り強さには感服する。これからも、C社の希望に沿いながら、権利化に努めていくつもりである。
以上

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2.競業避止義務について考える(前半続編)   顧問・弁理士 渡邉秀治

 昨年の2月号で、「過去においては、退社後2年間の競業避止義務が認められた判決も存在したが、最近では2年間も認められにくくなっている(注1)とされる」ことなど法的な面を主に述べた。今回は、実務面でのメリット、デメリット等を述べる。
 前半でも述べたが、実務上は、就業規則には「従業員は在職中及び退職後6ヶ月間、会社と競合する他社に就職及び競合する事業を営むことを禁止する」というような原則的な規定を設けておき、加えて、就業規則に、例えば「ただし、会社が従業員と個別に競業避止義務について契約を締結した場合には、当該契約によるものとする」というように、個別合意をした場合には個別合意を優先する旨規定しておくのが良い。このことは経済産業省が言っており(注2)、中小企業は、就業規則と個別契約で競業避止義務を課し、自社の技術ノウハウを含む重要秘密事項を法的に保護すべきかと。大企業は既に実行している。
(1)競業避止義務の規則や契約の会社側のメリット
①人の経験、知識には3種類ある。第1は会社とは関係なく、自分で勉強し工夫し身に着けたもの。第2は会社内に存在していた知識を伝授や教えてもらったもの。第3は第2がきっかけでさらに努力し会社内に残したものまたは得たもの。第2や第3のものは、会社としては給与を支払っている中で生まれたものであり、ライバルに持っていかれたり、競業会社を作って欲しくないもの。
 第2や第3の場合、どこまでが会社寄与で、どこまでが本人努力かの見極めが困難。また、会社の営業秘密となれば法的保護が可能であるが、法的保護に値するかどうかは裁判の結果に依存する。このため、所定期間の競業避止義務契約を課せば、会社から持っていったものの内容はほとんど判断されることなく、どこの企業に転職したかなど形式的な点が主となり、裁判になっても簡単に決着がつく。このメリットが大きい。
②人は、手を使い、サインしたものに対しては記憶に残りやすく、印象も強い。競業避止義務契約に記載された所定期間の間、その義務が履行される確率が非常に高くなる。このメリットもすこぶる大きい。
(2)競業避止義務規則、契約の会社側のデメリット
 会社側として、デメリットは無いと思われる。しかし注意すべきは、競業避止義務の期間について、裁判などで普通に認められている期間に比べ、長くする場合である。この場合、訴訟で負けた場合、長く裁判例で記憶され、記録に残り続け、会社の評価が低くなる点である。

*注1:https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/honpen.pdf
*注2:https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/handbook/reference5.pdf

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