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目次
1.知財雑記10
2.知財の損害賠償制度(前半)
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悪戦苦闘した知財の仕事について雑記する。
はじめに
知財係争絡みの難しい仕事があった。公式・非公式、異なる形式等のバラバラなデータの収集、これらのデータに加えて各種例外を考慮したりしなかったりする場合の解析シュミレーション、双方のどちらからも異論の出ない解析結果の提示、といった類の仕事で、実質的に1回だけの仕事だった。複数人でやることを望んだが叶わず、一人で担当することになった。知財の仕事といっても出願・権利化とは全く異なる類の仕事であり、悪戦苦闘する日が続いた。
仕事のやり方
解析シュミレーションは、大まかにおこなうことは比較的簡単だが、一歩踏み込んでおこなうことは容易でない。
例えば、売上額は何をもとにするのが適当か(双方から異論が出ないか)。双方の会社から公表された会計報告書に記載された売上額か、いくつかの企業情報提供会社が提供する売上額か。製品に関する各種の税金、保険料、販促費等はどのように扱うのが適当か。例外的に扱ってよい点があるか。例外を考慮する場合と考慮しない場合とでどのような差異がありそれが適当か。・・
更に、売上等の情報は必ずしも入手できる訳ではない。また売上等の情報が入手できたとしても必ずしも必要な情報が含まれている訳ではない(例えば、会社全体の売上情報は入手できても、必要とする製品毎の売上情報が含まれていないような場合もある)。そうした場合、どのように推定するのが適当か。
必要な情報を入手してこのような解析シュミレーションをするやり方が分からなかった。ヒントを見つけるため、市内の図書館や書店を大書店から小書店までまわって、関係しそうな本を片端から見たが、ヒントを見つけることはできなかった。
社内の人達に聞いたり相談したりした。上記のような一歩踏み込んだ仕事は誰もやったことがなく、そのやり方については「知らない」「わからない」の返答がかえってきた。
そこで、仕事指示者に相談したところ、「結果的によければ、それがよいやり方だ」との返答だった。
悪戦苦闘
他の仕事にかける時間を短くして、膨大な各種データの収集、データの組み合わせ、統一フォーマットへの変換等をして、各種例外を考慮したり考慮しなかったりする解析シュミレーションをした。列車通勤していたが、終電で帰宅するようになった。終電にも間に合わなく、会社への泊まりを覚悟したら、タクシーで帰ってよいと言われたのでそうした。夜中の1時半頃に帰宅し、食事をして風呂に入ると2時半でそれから就寝した。朝は目が覚めてしまい、朝7時台発の列車で出社した。データ収集、推定、解析シュミレーション等に時間がかかり、また検討すべき事項も多く、悪戦苦闘した。
そんなある日、体の変調を感じたら大量の血尿が出た。呆然とした。頭の中が真っ白になった。結婚後間もなかった。「これで人生が終わりかもしれない」「残った家族はどうなるだろう」・・と思ったりした。ストレスや寝不足による体のダメージが限界を超えてしまったようだった。その日は会社を休み、病院で精密検査を受けた。検査結果が出るには何日か、かかるとのことだった。
2、3日安静にしたところ良くなったので出社した。
仕事のやり方の変更
いままでのように続けていたら体を壊してしまうと思い、それまでにした検討をもとにベストと思われるやり方(解析シュミレーション)を社内関係者に説明して了解を得た。そのやり方で解析結果を出した。双方どちらからも異論はなかった。
終わりに
双方とも相手に開示しないデータ、情報、異なる思惑等を持っているとき、双方から異論が出ない解析シュミレーションをしてその解析結果を出すことは容易でない。このケースでは双方から異論が出ない結果となったが、そのようにならない場合もあり得る。ベストを尽くしたら後はある程度天命に従うのが適切だろう。
悪戦苦闘した上記出来事がときどき頭に浮かぶが、「終わり良ければ全て良し」だ。
次回は再び旬な知財権について雑記する。
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日本における知財権の損害賠償における規定が、侵害者にとって侵害しどくであり、米国のような3倍賠償の規定を置くべきとずっと思っていた。十年ほど前に、ある席で知財高裁の裁判官にこのことを尋ねたら、「日本では他法などを踏まえた法体系に馴染まず、そのような規定はできない」と言われた。これは「懲罰的損害賠償は、損害に対する救済にとどまらず、違法行為の抑止を目的とする制度である。ところが、我が国法上は前者は民事法、後者は刑事法の問題として区分されているので、懲罰的損害賠償の制度は、我が国の法律体系に相容れない。」との理由のようである(注1)。
(1)懲罰的損害賠償
この制度、規定は、悪意のある者の侵害には、権利者側の損害を超える賠償をさせようとするもの。懲罰的損害賠償を採用している国は、米国、中国、台湾、韓国などがある。米国以外の各国は、過去から規定を有する米国を見習ったものである。
米国には、3倍まで賠償額を増加できる規定がある( 米国特許法284条)。
中国は、2013年から商標法第63条で「計算した金額の最大3倍まで損害賠償額を決定することができる。」と規定し、さらに2019年の第4回商標法改正で、同規定の「3倍」が「5倍」に引き上げられた。一方、中国専利(特許、実用、意匠)については、審議中の草案には「1倍以上5倍以下で賠償金額を確定することができる。」との記載があり、来年には施行される可能性がある。
台湾では、注2の記事によれば、専利(特許、実用新案、意匠を含む)法では、 1994年より既に懲罰的損害賠償制度が採用されていた。しかしながら、2011年11月29日に専利法の改正案が通過した(2013年1月1日に改正施行した)際、その制度に係る規定は一度削除されており、2013年6月11日に改正施行された専利法第97条第2項により、故意侵害に対して3倍まで可能となった。
韓国では、2019年7月9日からの施行法により、特許権および営業秘密を故意に侵害した場合、3倍まで増額可能となった。
(2)日本の改正方向
日本は、特許法を改正するたびに、権利者側に有利となってきた。しかし、懲罰的損害賠償制度は、法体系上の理由から採用には至っていない。故意侵害の問題と、権利者が中小企業で、侵害者が大企業の場合、「権利者の損害額(逸失利益)<侵害者の利得額」となる問題(=大企業の侵害しどく)は、この50年以上の課題となっており、知財重視の傾向が強まる中で、さらなる法改正(権利者優位)を期待したいし、期待できると思われる。
*後半では、「侵害者利得の全部掃き出し」「利益」などについて記載予定。
注1:https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/012/021002c.htm
https://www.meti.go.jp/press/2020/06/20200630006/20200630006.html
注2:http://www.taie.com.tw/jp/p4-publications-detail.asp?...
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