私たちが責任をもって特許取得をサポートします

MEBUKI IP Small Talk 4月号(2020年)

目次

1.日本における新型コロナウイルス感染症により影響を受けた手続の取り扱い

2.知財雑記8

__________________________________

1.日本における新型コロナウイルス感染症により影響を受けた手続の取り扱い
                          パートナー・弁理士 長谷川洋

 先月、新型コロナウイルス感染症により手続が遅れた場合における外国主要国の救済措置について紹介させていただいた。2020年4月3日になり、やっと、我国でも、「新型コロナウイルス感染症により影響を受けた手続の取り扱いについて」と題する手続遅延の救済措置が公表された。その詳細は、日本国特許庁(以下、「特許庁」という。)のWEBSITE(注1)にて確認いただきたい。
 加えて、2020年4月17日に、特許庁より、新規性喪失の例外の適用を受けるための証明書の提出に関して、さらなる救済措置が公表されたので、併せて、特許庁のWEBSITE(注2)を確認いただきたい。
 以下、特許庁総務部総務課業務管理班に問い合わせて得られた情報の内、重要と思われる点について、いくつかご紹介する。なお、電話を何回か他部署に転送された点から察すると、特許庁も今回のコロナショックに少し混乱しているようであった。

(1)新型コロナウイルス感染症の影響により所定の法定期間内に手続不可な事態とは?
 手続できない事態とは具体的にどのような事態かを総務部に問い合わせたところ、以下のような回答があった。以下の例によらず、比較的緩めに救済するとのことであった。
 ただし、100%の救済を確約するものではないため、なるべく法的期間内に手続きしてください、と念を押された。
例1)出願人に代理人がついている場合、出願人および代理人の内のいずれかが新型コロナウイルス感染症の影響を受けて手続が不可であれば認められる。
例2)代理人がついていない出願人の場合、当該出願人が法人であって、例えば、法人の知財部の部長の承認を得ないと手続きが進行できないようなときに、その部長が新型コロナウイルス感染症の影響を受けて手続が不可であれば、救済を受けられる。
 例3)代理人がついていない出願人が個人の場合には、その個人が新型コロナウイルスの影響で手続不可になったときには、救済を受けられる。

(2)救済が受けられる法的期間はWEBSITE(注1)に列挙された事項に限定されるか?
 特許庁の回答によると、「現時点では限定される」とのこと。
 拒絶理由通知を受けた際の応答期間であって手続補正書と意見書とを提出する場合には、意見書が指定期間であり、手続補正書が法定期間であるため、問題となる。手続補正書の法定期間は、意見書の指定期間によって定まるので、どの程度まで延長するかについては決まっていないとのこと。上記手続補正書の提出をどこまで延長できるかは、担当審査官又は審判官に尋ねてほしい、とのことであった。

(3)新規性喪失の例外の規定の適用およびそのための証明書について
 証明書の提出期間(30日)は延長できる。手続が可能となってから14日以内に手続をすればよい(救済措置1)。
 2020年4月17日の特許庁による公表によれば、新型コロナウイルス感染拡大の影響により証明書の記名押印又は署名が困難な場合には、記名捺印又は署名の無い証明書をまず提出期間内に提出した後、記名押印又は署名付きの証明書(原本)を提出可能になったときに上申書と共に提出すれば、適法な証明書の提出とみなされる、とのことである(注2,救済措置2)。救済措置2は、記名押印又は署名が提出期間内に難しいという事情に限って適用される。一方、先に述べた救済措置1は、記名押印又は署名が困難な場合を含め、証明書の作成が困難である場合に適用される。記名押印又は署名が提出期間内に困難な場合には、救済措置1と救済措置2のいずれかを選択できるが、手続可能となってから14日以内という制約の無い救済措置2を利用することをお勧めする。記名押印又は署名以外の理由で証明書自体の作成自体が困難な場合には、救済措置1の適用を受けるしかない。
 なお、公知となってから出願までの期間(グレースピリオド:1年)は延長できない。

(4)優先権の主張について
 今回の救済対象は優先権の主張あるいは回復請求であるが、国内優先権主張出願、およびパリ条約等優先権を伴う国内若しくは国際出願を優先期間(1年)内に出願できなかった場合には、出願自体に対して最長2カ月の延長が認められる
。これは、ユーザーフレンドリーな手続の導入及び国際的な手続調和を目的とした国際条約である特許法条約(「PLT」と略称されている)を遵守するため、数年前に改正済みであるから。

(注1)https://www.jpo.go.jp/news/koho/info/covid19_tetsuzuki_eikyo.html

(注2)https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/hatumei_reigai.html

___________________________________

2.知財雑記8              弁理士 須澤修

 私が知財の仕事を始めた頃に担当した新規事業の黎明期を振り返り、評価されなかった技術に関する「旬な知財権」の取得について説明する(注1)。

 評価されなかった技術に関する発明Aが記載された出願の権利化について
(1)新規事業に役立つ旬な知財権取得について検討
 当時、新規事業に役立つ旬な知財権を取得するにはどうしたらよいか検討した。
 まず、技術者からの説明、学会発表論文、特許公報等によりこの分野の技術の内容、歴史及び各社の動向を頭に入れ(注2)、将来の技術の流れ、ポイント等を予想した。私なりに感じたトレンド、推測、勘等を入れて予想した。
 次に、権利化可能性が残されている出願を全件チェックし、権利化に漏れがないか検討した(注3)。すると、評価されなかった技術(取捨選択の結果、重視されず採用されなかった技術)に関連する発明Aが記載されている特許出願が目にとまった。なお、当該特許出願の扱いについて権利化は任意とされていた。
 今後の流れによってはこの出願の権利化は重要になると考え、市場動向を見ながら権利化を目指すこととした。

(2)権利化に対する逆風
 何人かの人から、「発明Aは取捨選択の結果、評価されなかった技術に関連する発明だ」、「世の中で実施される可能性は低い」、「発明者は在職しておらず既に退社している」(注4)、「特許査定、拒絶査定等の最終処分が未決着のまま滞留している」、「明細書の記載からしてキーとなる特許の取得はできない」等の理由で、「権利化する価値はない」、「権利化に労力を費やすのは無駄」、「権利化を目指すのは個人的趣味にすぎず会社の仕事とはいえない」、「出願の取下・放棄をしたらどうか」等、権利化に反対された。なかには非難ともとれる反対意見もあった。中途受任の特許事務所からは権利化修正案が提示された。しかし、その修正案は権利化が容易である一方、権利化しても意味のない修正案だった。
 こうした反対意見(逆風)に対し、彼らを説得して価値のある内容での権利化を目指した(注5)。なお、評価されなかった技術について詳しく記載された他社先願もあったため、権利化を目指す内容の方向付けには苦労した(注6)。

(3)第三者から特許庁への情報提供
 そのうちに第三者から特許庁に対し情報提供(特許すべきでないとの情報提供)がされた(注7)。特許すべきでないとの理由が数十頁にもわたって記載され、多数の公知文献も挙げられていた。情報提供者(第三者)は個人だった。調査すると実在しない架空の人物だった。
 このような情報提供があったということは、権利化を阻止したい第三者がいることを意味する。更に、数十頁にもわたる記載、情報提供者が架空の人物、等から見て、第三者からは極めて重要視されている。
 こうしたことが社内で認識された。特許庁に対する権利化手続は社外では脅威に受け止められていた。権利化に対する反対(逆風)は全く無くなった。

(4)市場動向
 その後、大手会社Xが新しい技術を使って市場に新規参入するとのニュースが出た。発明Aに関連する技術だった。
 大手技術雑誌Yからはその特集記事が出た。新しい技術に関連する各社の特許出願についても詳しく記載されていた。しかし、上記特許出願については何も触れられていなかった。
 その後、会社Xは、発明Aに関連する技術を使用した商品を上市し、大々的に市場に参入した。

(5)特許許可
 特許審査はなかなか進まなかったが、ついに特許が許可された。
 多数の異議申立があった。海外からの異議申立もあった。実在する、会社名での異議申立と、個人名での異議申立だった。
 しかし、事前に想定した以上の申立理由はなかった(注8)。異議申立は全て棄却された。
 分割出願もした。異議申立されたものもあったが、そのすべての異議申立が棄却された。
 最終的には、分割特許を含めた特許ポートフォリオ(旬な知財権ファミリー)を構築することができた。

(6)その他
 成立した特許について、紙と鉛筆から生まれた空想特許だと話す人がいた。しかし、この特許は発明者による実際の実験をもとにした特許であり、空想特許とは言い難い。

 終わりに
 「旬な知財権」の取得は容易でない。仮に、出願時に重要とされていなくても、丹念に検討した結果、重要であると信ずるに至った出願については、どのようにしたらキーとなる知財権を取得できるかを深く検討し、信念をもって権利化を目指すことで旬な知財権取得のチャンスが訪れる。そのチャンスを逃さず旬な知財権を取得したい。
 なお、世の中ではマニュアル化がブームだ。しかし、旬な知財権を取得できる機会は少なく、また様々なケースがあるため、マニュアル化は難しい。そうしたことから、様々なケースに対して柔軟に対応する文化、組織等により対処することが好ましい。もし一般的なアドバイスを求められたらそのようにアドバイスし、具体的事案についてアドバイスを求められたらその事案を深く検討した上でアドバイスするだろう。

 次回も「旬な知財権」について雑記する。

(注1)「旬な知財権」とは、時宜にかなった知財権の意味。正式な法律用語ではなく筆者が作った造語。例えば、市場の創出期、拡大期、全盛期等における知財権は、旬な知財権である。一方、市場が衰退し殆ど消滅した時期に取得した知財権は、旬な知財権とは言い難い。
(注2)書籍や学会発表論文は少なかった。特許公報とは、公開特許公報、公告特許公報等。当時のオンライン特許検索システムPATOLISを使って検索した他、該当する技術分野の紙公報を手めくりで片端からみた。
(注3)「権利化の可能性が残されている出願」とは、取下・放棄出願、拒絶確定出願、特許確定出願等以外の出願で、未だ権利化可能性が残されている出願。なお、現在では特許後においても一定期間内であれば分割出願することにより権利化可能。
(注4)発明者は特許出願後に退社していた。
(注5)「原理的には実現可能な技術であり他社が実施する可能性も残っている」「ベストとはいえず欠点のある技術であっても世の中の流れによっては別の面を評価する市場もあるだろう」、「会社にとって重要と信ずるから権利化を目指しているのであり個人的趣味でおこなっている訳ではない」、「特許出願の処分(特許査定、拒絶査定等)が滞留しているのは、特許庁での審査が遅れているからであり、出願人側ではコントロールできない」、等の説明をして説得した。
(注6)「権利化を目指す内容」とは、特許請求の範囲(クレーム)記載の内容。
(注7)「情報提供」とは、他人の特許出願の権利化を阻止するため特許庁に対し特許性を有しない旨の情報を提供すること。なお、現在では、特許に瑕疵がある旨の特許後の情報提供も認められている。
(注8)この出願の権利化のため、公知文献、先願特許出願等を何回も調査する等、検討を重ねてきた。しかし、異議申立理由は、予め調査・検討して想定した以上のものではなかった。

_________________________________

CopyRight (C) MEBUKI IP Law Firm
社内用・社外用を問わず無断複製(電子的複製を含む)を禁ずる