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目次
1.中国の改正専利審査指南における重要ポイント(その2)
2.知財雑記7
3.米欧中の知財庁における新型コロナウイルス対策
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本稿は、本来、2月に掲載を予定していた。しかし、1月から新型コロナウイルスが大騒ぎとなっていたことから、2月のメルマガでは、新型コロナウイルスの問題を急遽取り上げた。1月号では、「2次分割出願時期の明確化」、「優先審査の制限及び遅延審査制度の採用」および「ヒト胚幹細胞の保護」について説明した。今月(3月)は、1月の続きで、中国の改正専利審査指南における他の2つの重要ポイントを述べたい。
(1)創造性の審査手法の明確化
中国では、日本の「進歩性」を「創造性」と称する。創造性は、課題解決アプローチによる判断手法によって判断される。今までの中国の審査では、必ずしも、かかる判断手法によらず創造性を否定する実情があった。そこで、今回の審査指南の改正では、課題解決アプローチによる創造性の判断の明確化を行った。
具体的には、次のような3つのステップによって、創造性を判断する。
ステップ1: 本願発明と最も近い従来技術を確定する
ステップ2: 本願発明が上記従来技術と区別する技術的特徴と技術的課題を確定する
ステップ3: 本願発明が当業者によって自明であるかどうかを判断する。
このような手法は、欧州特許庁の課題解決アプローチと類似しており、新しい手法ではない。しかし、本改正は、審査官による審査のバラツキを低減するという意味で有意義である。
(2)公知常識の立証責任の明確化
本改正後、審査官が技術的課題の解決に寄与した技術的特徴を公知の常識であると認定する場合には、その証拠を提示しなければならない。
従来の中国の審査官は、独立項である請求項1の発明を創造性なしと判断した後、従属する請求項2以降の各発明について各従属項の発明に特有の特徴を認識しながらも、当業者にとって常識的であると言い切り、何らの理由および証拠も提示していないことが多かった。
筆者も、このような拒絶をほぼ100%受けており、明細書から外的付加事項を探さざるを得ないことも少なくなかった。
しかし、改正後は、各従属項の発明に対しても、何らかの証拠をもって当業者の常識と認定せざるを得ないならば、下位の発明について創造性が認められる可能性が出てくる。
実際、日本でも、下位の従属項の発明については、各特徴を周知技術と一蹴し、ひとくくりで進歩性なしと判断されていた過去がある。しかし、知財高裁が、周知技術というからにはそれを示す証拠の明示(公知文献など)を示すべきとの判決(一例を挙げるなら、平成22 (行ケ)10351号「臭気中和化および液体吸収性廃棄物袋事件」)を出すようになってから、何の証拠もなく下位請求項の発明をまとめて進歩性なしとしてバッサリ切り捨てる乱暴な拒絶理由は少なくなった感がある。
中国でも、本改正以後、下位の従属項の発明について丁寧な創造性審査が行われることを期待したい。
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旬な知財権(注1)を取得するのは困難である。私の発明を例にして解説する。ここで挙げるのは、関東発明表彰(発明協会主催)で表彰された、背後から液晶を照らすバックライト付き液晶表示装置の発明である。
発明
令和時代、バックライト付き液晶表示装置はテレビ、パソコン等で広く使われているが、液晶は昭和50年前後に腕時計や電卓でやっと使われ始め、昭和50年代においては低消費電力である点に専ら関心が向けられていた。当時、バックライトは、時代に逆行するものであった。
そのような中で昭和55年に特許出願等したのが、バックライト付き液晶表示装置の発明である。大型液晶表示が市場に出るかどうか先が見えない頃、今では当たり前のバックライトを想定した発明である。
出願
この発明は、液晶の直下やサイドに光源を配置した場合の均一なバックライト、液晶照明に最適な光源によるバックライト等に関するものである。複数件出願されている。日本出願は併合してアメリカ出願されている。なお、明細書は私が作成したものであり、日本特許出願は昭和時代が終わり近づいた頃(昭和62年)、審査請求された(注2)。
市場動向
知財部門に異動し、液晶以外の分野を主担当分野とする知財業務をしていたある日(平成元年前後)、出願発明が市場で実際に使われているとの第三者情報があった。そこで、自分の発明について権利化することとなった。
市場に出ていたのは、液晶の直下に光源を配置した直下型バックライト付き液晶表示装置であった。
権利化(直下型バックライトを対象)
光源を液晶の直下に配置した直下型バックライト発明の権利化に力を注ぐことにした。特許庁審査官による審査では進歩性を欠くとの理由で拒絶査定されたが、拒絶査定を不服とする審判を請求して特許された(注3)。この出願の分割出願もした。
権利化に際しては私が権利化原案を作成したが、菅直人弁理士に中途受任していただいた(当時、私は弁理士ではなかった)。彼は、その後首相に就任された。
直下型バックライト出願は、分割出願を含め計6件の出願ファミリーとした。
何件かは第三者から異議申立もされたが棄却され、6件全て特許化された。
関東地方発明表彰
関東発明表彰(発明協会主催)に上記特許(特許第1762808号)を応募することとなった。資料を作成し、プレゼンテーションもした。
この液晶バックライト特許発明は、平成7年度関東発明表彰で最上位とされる発明協会会長奨励賞を受賞した。
なお、受賞決定の通知と前後して、弁理士試験合格の連絡を受け、平成7年度合格者(約120名、受験者数:約4,200名)中に入ることができた(注4)。
終わりに
アメリカ出願は、分割出願を含め計3件の特許ファミリーとした(注5)。特許ファミリー形成過程で、アメリカでは強力な特許権取得が容易であると実感した。例えば、ファミリー中の特許第4,659,183号取得後に、その権利内容を拡張した再発行特許(Reissued Patent No. 33,987)を取得することができた等の点からである(注6)。
液晶バックライト発明について、旬な特許権を取得できたが、出願発明が実際に市場で使われているという第三者情報が無かったら、その重要性に気づかずに終わっていただろう。
世の中は大きく変化する。発明をした時点では発明が将来実施されるか否か予測不明であっても、その後に広く実施される場合もある。特許出願等しておくことが非常に大切だ。また、特許出願後の市場動向に目を光らせることも忘れてはならない。
次回も旬な知財権について雑記する。
(注1)旬な知財権とは、時宜にかなった知財権の意味。正式な法律用語ではなく筆者が作った造語。例えば、市場の創出期、拡大期、全盛期等における知財権は旬である。一方、市場が衰退し殆ど消滅した時期に取得した知財権は旬とは言い難い。
(注2)当時の審査請求期限は出願から7年。現在は3年。
(注3)特許されたのは審査請求から約6年後。出願から数えると約13年後
(注4)令和元年度の合格者は284名(受験者数:約3,488名)。
(注5)3件のアメリカ特許ファミリー:第4,487,481号、第4,618,216号、第4,659,183号
(注6)原特許の権利範囲を拡張する再発行特許出願は、原特許発行後2年以内に出願しなくてはならない。再発行特許第33,987号は、原特許発行から2年のタイミングで再発行特許出願され、それから3年余りを経て権利範囲を拡張して再発行された。なお、再発行特許は日本の訂正審判に相当するものであるが、日本の訂正審判では、権利内容を拡張することは許されない。
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(1)はじめに
新型コロナウイルス感染は、中国、韓国および日本を含むアジアのみならず、欧州へと拡がった。欧州の中でも、イタリア、スペインおよびフランスでは深刻な状況にある。今後は、データが出ておらず、かつ、中国と関係が深いアフリカ、北朝鮮の人々が心配。
2020年3月18日現在、日本からの入国を制限している国は88カ国・地域、入国後の行動制限を課している国・地域は89カ国・地域にものぼる(注1)。一方、日本は、2020年3月18日午後、欧州諸国36カ国、エジプト、イランを入国制限国に加えた。この結果、中国と韓国を含めた入国制限国の合計数は40カ国となった。入国制限は、2020年3月21日から開始し、4月末日まで継続する予定である。
ところで、日本を含めて北半球ではまだ静電気が生じやすい時節である。特に高齢の方や持病のある方は、静電気に注意を要する。静電気は、花粉、PM2.5のみならず、ウイルスも引き付けるからである(注2)。できるだけ水分をとり、加湿器を使い、合成繊維ではなく天然繊維(木綿、麻など)の衣服を身に着けるようにして、新型コロナウイルスを引き付けないようにしてほしい。
(2)主要各国・地域の特許庁の対策
前置きが長くなったが、本題に入りたい。米国、欧州特許庁および中国では、新型コロナウイルスの感染の影響を危惧して、対策を表明しているので、以下、紹介したい。なお、日本国特許庁は、2020年3月23日現在、未だ対策を公表していない。
(A)米国特許商標庁(注3)
・米国特許商標庁は、2020年3月16日から、追って通知があるまで一般訪問者の入館を禁止しているが、通常の業務を行う。
・期限延長の措置は行わない。ただし、新型コロナウイルスに起因して期限を徒過した結果、出願が放棄とみなされたような場合には、庁費用無料にて請願可能である。
・審査官及び審判官とのインタビューは、2020年3月13日以降、ビデオ又は電話で行われる。
(B)欧州特許庁(注4)
・2020年3月15日以降に到来する期限は、まず、同年4月17日まで延長される。
必要に応じて、さらに同年4月17日以降まで延長する救済措置を講じる予定がある。
・審判段階の口頭審理は2020年3月16日~27日まで上訴委員会の敷地内で行わない。
・審査段階および異議申立前の口頭審理は、予定通り行う。
・高リスク地域を最近訪れた当事者または代表者を含む口頭審理は、ビデオ会議で行われるか延期される。高リスク地域とは、2020年3月18日現在、イタリア、イラン、中国の湖北省、韓国の慶尚北道、ドイツのハインスベルク、フランスのグランドエスト、オーストリアのチロル地方、スペインのマドリード、アメリカのカリフォルニア州、ワシントン州及びニューヨーク州である。
(C)中国知識産権局(注5、6)
専利権(日本では、特許権・実用新案権・意匠権)については、中国国家知識産権局が指定する期限を徒過して権利が喪失した場合、当事者は、遅延理由がなくなった日から2ヶ月以内で、元々の期限満了の日から起算して遅くとも2年以内に権利回復請求できる。
商標権については、ウイルスが原因で期限を徒過して関連する商標事務を正常に行えなかった場合、原則、当該期限は、権利行使に障害が発生した日からその解消日までを、その期限内のものとして扱わない計算をする。すなわち、障害が排除された場合は、期限はその日から再度進行する。権利行使できないことで商標権が消滅した場合、権利行使不可の解消日から2カ月以内に、理由を説明する書面を提出し、証明書を添付して、権利回復を請求できる。
(注1) https://www.anzen.mofa.go.jp/covid19/pdfhistory_world.html
(注2) https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200224-00010025-shueishaz-life
(注3) https://www.uspto.gov/coronavirus
(注4) https://www.epo.org/news-issues/covid-19.html
(注5) https://trademark.jp/ip/detail/498
(注6) https://www.ngb.co.jp/ip_articles/detail/1741.html
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