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MEBUKI IP Small Talk 2月号(2020年)

目次

1.新型コロナウイルスとその治療薬

2.競業避止義務について考える(前半)

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1.新型コロナウイルスとその治療薬 パートナー・弁理士 長谷川洋

 今月は、中国の改正専利審査指南における重要ポイント(その2)を予定していたが、来月に変更し、日本で感染が広がっている新型コロナウイルスとその治療薬について述べることにする。知財の話題から外れることをご容赦いただきたい。

(1)ウイルスと菌は違う
 今、日本で騒動となっている新型コロナウイルスに代表されるウイルスは、学術的に言えば、「生物」ではない。ウイルスは、生物の最小単位である細胞を持たず、また、外部から栄養を吸収して自己増殖できない。この点で、ウイルスは、大腸菌やサルモネラ菌といった菌(細胞を有し、栄養を取り込んで自己増殖できる)とは異なる。また、大きさの点でも、ウイルスは、菌よりも一桁小さく、直径が1ミクロン以下であるため、菌や花粉(直径30~50ミクロン)と比較して、マスクの目を容易に通過できる。とはいえ、飛沫感染防止の点でマスクは有効である。マスク以上に効果が大きいのは手洗いである。ウイルスの付いた手で目や鼻に触れると粘膜から感染するからである。
 ウイルスは、ウイルス学という学問があるように、その機能はまだわかっていない。何と、ウイルスが細胞内で増殖する性質を利用し、ガン細胞にウイルスを導入してガン細胞だけを破壊する研究も進められ、脳腫瘍に対する効果が臨床試験で確認されている。日本では、東京大学医科学研究所の藤堂具紀先生が有名である(注1)。藤堂先生が発明者となっている特許としては、日本の特許第4212897号および特許第5522884号の他、海外特許もある。今後、手術、化学(薬物)療法、放射線療法と並んで、ウイルス療法がガン治療の一つとなるであろう。

(2)日本は世界第2位の感染国
 2月24日時点のメディアの発表によれば、日本の感染者数と死亡者はそれぞれ838人および7人であり(クルーズ船内含む)、世界第1位の中国(感染者:75465人、死亡者:2236人)に次いで、世界第2位である。3位は、韓国(感染者:763人、死亡者:7人)、4位は、イタリア(感染者:153人、死亡者:3人)である。イスラエルは、2月24日、中国に加え、日本と韓国からの入国を禁止した。タイは、2月19日、日本からの入国者に対する検疫強化を発表した。日本国内の感染対策が遅れると、さらなる海外国への入国が禁止されるかもしれない。

(3)アルコール除菌は新型コロナウイルスの感染防止に役立つ
 現在、除菌アルコールは、品切れであり、マスク以上に入手困難である。アルコールは、菌(ウイルスではない)の細胞膜を破壊してたんぱく質を溶出させることによって菌を殺す。驚くことに、アルコール濃度は高ければ除菌力が大きいわけではなく、アルコール(特にエタノールが良い)の濃度が70~80重量%のときに最適な除菌力を発揮し、80重量%を超えると除菌力が低下するそうである(注2)。
 では、菌とは異なる新型コロナウイルスに対して、除菌アルコールは効果があるか?答えは、「あり」である。新型コロナウイルスは、エンベロープと称する膜の内部にRNA(核酸の一種)が入った構造を有する。エンベロープは主に脂質でできているのでアルコールに溶けやすい(注3)。このため、エンベロープを持つ新型コロナウイルスはアルコールにより破壊される。よって、感染防止策として、手に除菌アルコールを噴射するのは効果がある。
 なお、ウイルス全般にアルコールが大きな除菌効果を発揮するわけではない。エンベロープを持たないノンエンベロープウイルス(ノロウイルス、アデノウイルス、ロタウイルス、エンテロウイルスなど)は、アルコールへの耐性が高い。

(4)政府が治療薬の投与を開始
 2月22日、日本政府は、「アビガン(登録商標)(注4)」という治療薬の投与を開始したことを発表した。この治療薬は、2014年に抗インフルエンザ薬として厚労省の製造・販売の承認を得た薬である(注5)。アビガンは、細胞内で増殖したウイルスがその細胞から出て他の細胞に入るのを阻害するタミフル(登録商標)と異なり、ウイルスの細胞内増殖自体を阻害する薬である。アビガンは、一般流通していないが、約200万人分の国内備蓄がされているとのことである。
感染者への治療がようやく始まった。東京オリンピックが中止とならないことを祈るばかりである。

注1:https://www.amed.go.jp/news/release_20190213.html
注2:http://shokusen.jp/ethanol.html
注3:https://family.saraya.com/kansen/envelope.html
注4:商標登録第4500382号、商標登録第5313491号および国際登録第0862144号
注5:https://www.jiji.com/jc/article?k=2020022200653&g=soc

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2.競業避止義務について考える(前半)     顧問・弁理士 渡邉秀治

 従業員が会社を辞めた後、ライバル企業に行かないようにしたいと思う場合がある。特に、その従業員が能力があったり、自社のノウハウを知っている場合。

 しかし、過去においては、退社後2年間の競業避止義務が認められた判決も複数存在したり、3年間のものもあった(注1)が、最近では2年間も認められにくくなっているとされる(注2)。期間を長くしようとすると、代償措置(金銭支給など)などが必要とされる(注3)。また、期間の関係では、経済産業省の報告(注4)では以下の内容が記載されている。就業規則は、この考えを採用すべきと考える。そして。会社に影響を与える人材に対しては、退社時に、個別契約で代償措置を与えるなどして、2~3年間の競業避止義務契約の締結を図ることが望ましい。
*経済産業省のもの(注4に記載されているもの)
「競業避止義務については就業規則に規定を設けている事例と、個別の誓約書において規定を設けている例があるが、就業規則に規定を設け、かつ、規定した内容と異なる内容の個別の誓約書を結ぶことについては、就業規則に定める基準に達しない労働条件を定める契約の効果を無効とする労働契約法12条との関係が問題となる。もっとも実務上は、就業規則には「従業員は在職中及び退職後6ヶ月間、会社と競合する他社に就職及び競合する事業を営むことを禁止する」というような原則的な規定を設けておき、加えて、就業規則に、例えば「ただし、会社が従業員と個別に競業避止義務について契約を締結した場合には、当該契約によるものとする」というように、個別合意をした場合には個別合意を優先する旨規定しておけば、労働契約法12条の問題は生じず、規則の周知効果を狙うという観点からも記載をしておくべきであると考えられる。」
 なお、競業避止義務は、中国、米国にもあり、以前、中国もマックス2年であり、しかも代償措置が必要と聞いたことがある。次回は、米国、中国について紹介したい。

*注1:ヴォイストレーニングに係る教育支援業における事案で、指導方法・指導内容及び集客方法・生徒管理体制についてのノウハウは、長期間にわたって確立されたもので独自かつ有用性が高いと判断しており、そのために退職後3 年間の競合行為禁止期間も、目的を達成するための必要かつ合理的な制限であると判断。(東京地判H22.10.27)
*注2:https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/honpen.pdf
*注3:ビル管理業に係る事案で、原審で(1年という)「期間こそ比較的短い」という判断を行なった。(東京地判H21.11.9)なお、控訴審は期間の長さの妥当性については個別に判断せず、代償措置がないことなどを強調して規定自体が職業選択の自由に対する重大な制約となると判断。(東京高判H22.4.27)
*注4:https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/handbook/reference5.pdf

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