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MEBUKI IP Small Talk 10月号(2019年)

目次

1.日本の商標登録出願が増加/早期審査対象の拡充

2.知財雑記3

3.ノーベル賞受賞の吉野氏の発明や特許の考え方

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1.日本の商標登録出願が増加/早期審査対象の拡充   パートナー・弁理士 長谷川洋

(1)最近、日本では、商標登録出願件数が激増している。2018年の出願件数は、国内出願と国際商標登録出願の合計で約18万4千件であり、5年前(2013年)の約11万7千件と比べて約60%も増えている(注1)。特に、サービス分野での出願が増えているという。
 この結果、現在では、出願から審査着手までの期間が最短で約10ヶ月、最長では約14ヶ月となっており、大きく遅延しているそうである(注2)。
 ちなみに、2016年の統計ではあるが、日本の商標登録出願数は、約16万件と、中国、米国、インド、韓国、ブラジルに次いで世界ランキング第6位である。中国は、347万件と、第2位である米国の約34万件を大きく引き離してダンドツ第1位である(注3)。
(2)日本特許庁は、審査遅延を解消すべく、「早期審査対象の拡充」、「ファストトラック審査の試験的実施」、「審査で採用された商品・役務名の公表範囲拡大化」および「意見書の末尾に記載」という4つの対策を実施している。これらの対策の中でも、早期審査申請から平均1.8カ月で拒絶若しくは登録査定の通知を出す実績をもち、出願人にとって最も審査促進を期待できる「早期審査」(注4)について、以下、紹介する。
(3)早期審査請求の要件
 要件1:新しいタイプの商標(動き商標、ホログラム商標、色彩のみからなる商標、音商標及び位置商標)以外の商標の出願であること。日本特許庁によると、新しいタイプの商標については、当面、早期審査の対象外とするとのこと。
 要件2:次の(A)、(B)及び(C)のいずれか1つに該当すること。これらの内、(C)が今回拡充された対象である。これにより、従来より早期審査を受けやすくなった。
(A)出願商標を指定商品・役務の一部に使用又は使用準備を相当進めており、かつ権利化緊急性を要するもの。
 権利化緊急性を要するものとは、「第三者による無断使用」、「第三者から警告を受けている」、「第三者からライセンスを求められている」、「外国に出願している」および「マドリッドプロトコルに基づく国際登録出願の基礎となっている」のいずれかに該当するものをいう。
(B)出願商標を全ての指定商品・役務について使用しているか若しくは使用の準備を相当に進めていること。一部では要件を満たさない点、および緊急性を要件としない点で上記の(A)と異なる。
(C)出願商標を指定商品・役務の一部に使用又は使用準備を相当進めており、かつ「類似商品・役務審査基準」等に掲載されている商品・役務のみを指定していること。指定商品・役務は、必ずしも「類似商品・役務審査基準」等に掲載されているものを指定しなくても良い。しかし、かかる基準外の商品・役務を指定すると、その記載の妥当性を判断するのに時間を要することから、基準内の商品・役務を指定していることを要件とした。
以上
注1:https://www.jpo.go.jp/resources/shingikai/sangyo-kouzou/shousai/shohyo_shoi/document/t_mark_paper05new/shiryou1.pdf
注2:https://www.jpo.go.jp/system/trademark/shinsa/status/cyakusyu.html
注3:https://www.jpo.go.jp/resources/report/gidou-houkoku/document/isyou_syouhyou-houkoku/29syouhyou_macro.pdf
注4:https://www.jpo.go.jp/system/trademark/shinsa/soki/shkouhou.html

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2.知財雑記3              弁理士 須澤修

特許権等の知的財産権制度(知財制度)の歴史から今後の動向予想をしてみよう。
(1)知財制度は、近代のはじめにヨーロッパで誕生し全世界に普及した。我国には明治時代に導入されたが、欧米は知財制度の発祥・発展の地であるので、今後も強い影響力を有するだろう。欧米の知財制度の動向には注目したい。
(2)ヨーロッパは規格や標準化やオリンピックのような国際的な枠組み作りを得意としており、特に、ISO規格(国際標準化機構が定める規格)の主導権は、あらかたヨーロッパが握っている。高度な技術でなくてもISO規格に採用されれば全世界に普及するが、いくら優れた特許技術であってもISO規格に採用されなければ全世界に普及するのは困難だろう。
(3)突出した力を有するアメリカには特に注目する必要があるだろう。
 AI、ビッグデータ、遺伝子等の発明についてアメリカがどのように取り扱うかを見てみよう。これらの分野の巨人であるGAFA(Google, Apple, Facebook, Amazon)の知財動向についても注目したい。最近、Googleが量子コンピューターで量子超越性を実証したとのニュースが流れたが、量子コンピューターの知財について注目してみよう。
 AI、ビッグデータ、臓器移植は、中国も非常に強い。トランプ大統領が知財の盗用を問題視しているのは、これらの分野で中国がトップまたは対抗地位にあるからである。中国には、現在、GAFAに対抗する企業としてBATH(百度(B:Bǎidù)、アリババ(A)、テンセント(T)、ファーウェイの(H))が存在する。
(4)気になるのは、今後の先行資料調査(特許出願する場合や無効資料調査をする場合の先行資料調査)である。
 2005年頃までは我国での特許出願件数が全世界の約1/3と多かったため、我国で公開された特許公開公報や特許登録公報を調査すればある程度、精度の高い調査ができた。
 しかし、現在では中国における特許出願件数(実用新案出願件数を含める)が世界トップとなった。しかも第2位の米国の数倍となっている。
 これから何年かしたら、先行資料調査をする場合には調査対象として中国特許を調査することが必須となる時代が到来するだろう。しかし、その件数の多さに加え、その中身には、ゴミ(模倣したもの、補助金狙いの雑なものなど)が多く混在しているため、その区分けに辟易することになろう。
(5)リチウムイオン電池は、日本が世界に先駆けて開発し商品化した。吉野先生はその功績で今年のノーベル化学賞を受賞することとなった。しかし、この電池市場については韓国が優勢である。吉野先生は、日本は製品開発(川上)には強いが、それを利用したビジネス(川下)には、からっきしダメと言われたようだ。
 先端技術開発と事業との関係について、事業成功例は表に出るが、事業失敗例はあまり表に出ない。事業失敗例について表立って記載した論文や記事はあまりないようだが、先端技術開発と事業失敗例との関係、さらにその特許との関係について調査したい。

 次回はAI、IoT時代の知財について雑記したい。

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3.ノーベル賞受賞の吉野氏の発明や特許の考え方   顧問・弁理士 渡邉秀治

 約10年程度前に、吉野氏が長野県諏訪で講演をされた。その折に、経験された発明や特許についての考え方が示された。発明や特許の部分は、全講演中の一部であったが、かなりユニークな考え方で、発明者や知財部員にとって頭に入れておくべき考え方であると思い、講演後、吉野氏に講演資料の当該部分の当方による講演時の使用許可をお願いした。パワーポイントで5枚程度。気持ちよくOKを受けることができた。時々、関係する会社の技術者さんへの当方の講演時に使用させていただいている。
 氏の教訓として、「これぞ基本特許は嘘の始まり」を強調された。理由の中の第1は、大事業に発展する製品のイ号は変化する、とのこと。ここで、イ号特許は、基本特許のこと。リチウム電池の場合、イ号特許と思った特許が使用されず、反イ号特許、半イ号特許が使用され、かなりの稼ぎをした由。なお、反イ号特許を出願することを勧めたのは、知財部員であったとのこと。
 私は、会社時代に、会社における有力な発明者の方に、時々、発明創成の経過や発明の出し方などを講演してもらった。発明者の方にも、いろんな性格があり、また趣味も異なり、発明創成の仕方も非常に異なる。後輩技術者は、自分の性格や趣味などが同じ人(類似の人)の仕方が参考になると思われた。これに対し、吉野氏の考え方、経験は、発明者以外に、知財部員も非常に参考になるものであると思われる。
 皆様の会社での講演会の機会があれば、そこで、吉野氏の考え方の詳細、当方の元の会社の有力な発明者の考え方を説明させていただきたく。吉野氏のものは、講演時に使用との条件で許諾をいただいているので、ここでの詳細説明は不可のため。

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