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MEBUKI IP Small Talk 8月号(2019年)

目次

1.日本からの欧州特許庁への要望

2.知財雑記1

3.日、米、中の特許表示とその効果-前編

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1.日本からの欧州特許庁への要望   パートナー・弁理士 長谷川洋

 日本弁理士会によると、2017年11~12月にかけて日本の企業・大学・研究機関・個人等から受けた意見・要望の内、2018年2月8日開催のSACEPO(欧州特許庁の諮問委員会)の下の年会で意見表明したもの(12件)を含む20件に関して、2019年1月30日付で、欧州特許庁(以後、「EPO」という。)から公式コメントが送られてきた、とのことである。
 日本からの質問とEPOの回答を読んだところ、日本の出願人にとっても関心のある事項があると感じたので、いくつかを紹介したい。

(1)新規性喪失の例外規定(EPC55条(1)(b))
 日本からの要望は、「欧州特許庁において出願人自身の行為により公知となった発明に対して新規性喪失の例外が認められるのは、出願前に特定の国際博覧会に出品されたことによる公知のみであるため、国際的調和の観点から日本や米国並みに緩和してほしい」とのこと(注)。
 これに対して、EPOは、新規性喪失の例外規定の国際的基準というものはないこと、世界の二大市場である中国と欧州は比較的厳しい新規性喪失の例外規定を運用していること、を述べたうえで、現時点で規則改正の予定はない、と回答した。
 筆者が上記EPOの回答から想像するに、EPOは、将来、新規性喪失の例外適用を緩和する意思はないようである。

(2)世界的にも厳しい補正要件
 日本からは、「補正要件が他国と比較しても厳しすぎるため、緩和を希望する。出願人は、EPC第123条(2)について審査基準が改訂されたことに伴って補正要件が緩和されるものと期待している。」との要望・コメントを行った。
 これに対して、EPOは、出願当初明細書の記載どおりの補正を要求しないように、審査基準やガイドラインも改訂し、審査官の訓練もしている、と回答した。

 筆者の経験および欧州代理人からの情報によれば、確かに、最近の補正要件は多少緩くなってきている。日本も、過去に、世界的に補正要件が厳しい国の一つであったが、これを緩めた経緯を持つ。EPOもこれと同様の緩和策をとったことは評価できる。
 しかし、(a)実施例に記載されている複数の数値を含む数値範囲で請求項に係る発明を減縮補正しようとしても実施の形態においてその数値範囲がズバリ記載されていない限り補正違反となること、(b)2つの上位概念(金属と樹脂)についてそれぞれの具体例(金属の例:Al、Fe、Mn、Co、樹脂の例:PC、PET、PP)が記載されているだけでは、AlとPCとの組み合わせ自体を開示していない限り、AlとPCの組み合わせによって、請求項に記載の発明(金属と樹脂の組み合わせ)を減縮できない、といった補正の厳しさは、少しも改善されていない。このようなEPO特有の補正の制限についても、もっと緩和してほしいと願うばかりである。

 (注)米国、日本(2018年6月9日施行)、韓国(2012年3月15日施行)および台湾(2017年5月1日施行)は、出願前の出願人自身の発明公知行為に対して1年という猶予期間を与え、公知日から1年以内に出願すれば、自身の公知による新規性喪失が無かったこととみなされる。一方、EPOは、特定の国際博覧会への出品によって公知になった場合と、出願人の意に反して公知になった場合に、新規性を喪失しなかったとみなされるだけであり、それ以外の事由によって公知になっても救済されず、公知に至った発明はその新規性を失う。しかも公知日から6か月以内に出願しなければならない。

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知財雑記1              弁理士 須澤修

 学生生活から会社員生活に移った頃、特許等とは殆ど関係がなかった私であるが、気が付いてみると40年以上、知的財産(知財)の仕事をしており、今では知財が日常になっている。
 私の知財の仕事を振り返ると、最初の頃は特許出願・権利化であったが、あるとき、いきなり海外からきた係争案件に携わることとなった。その後もいくつかの知財係争を経験した。知財係争を専門に扱うライセンス部門にいた時期もあったが、そうでない期間の方が長かったにもかかわらず知財係争に関与した理由には、私が出願権利化を担当した案件で強い特許等が取得できたこと、そしてその特許等について特許公報等に載っていない内容をも含めて、知財部の中では、最もよく分かっていたのが私であったこと、が挙げられる。
 通常、出願権利化そしてその権利を基にした攻めの仕事は、まず権利を取得することから始まる、とても息の長いものである。それに対し、守りの仕事は、長期的に準備するものと、降ってわいてきたように始まる、不特定の相手からの攻撃に対する防御の2つがある。後者は、いつも手探り状態から始まる。
 知財係争は難しい仕事であり、その性格上、実際に経験することは多くはない。件数が少ないこと、豊富な知財知識・経験が必要なことなどがその理由。ただし、知財部門の責任者になったり、知財経験年数が多くなったりすれば、タッチする確率が高くなる業務である。特に、中小・中堅の企業では、時々、特許や商標の侵害警告を受けることがあり、知財責任者は知財知識・経験が豊富でなくとも、タッチせざるを得なくなることが多い。  ちなみに、特許行政年次報告書2019年版によれば、2017年度の知財担当(カッコ内は2016年度)は、全国計36,381名(38,067名)で、1社あたりでは、電気機械製造業が15.2名(17名)と最も多く、卸・小売等が最も少なく1.1名(1名)。平均は5.8名(5.7名)。この知財担当の中では、ライセンスや係争を業務としている者は、5%を切ると思われる。
 ところで、マスコミ等によると、最近、米国大統領等は、米国の知的財産が海外に不当に流出しているとして問題にしているようである。世界の超大国の意向は対象となった国だけに留まらず全世界に影響を与える。ここで問題にしている「知的財産」とは、特許権等の法制度として確立された権利だけでなく、もっと広範な内容を指す。
 このメルマガを読まれる人の参考になるか不明であるが、40年以上の知財の仕事を振り返り、知財係争を含めた感想等を10回程度にわたり述べてみたい。次回は、米国大統領等が言及する「知的財産」やその対応等についての私見を述べたいと思う。

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3.日、米、中の特許表示とその効果-前編   顧問・弁理士 渡邉秀治

今月は表示方法を記載する。中編で法律条文を、後編で効果を主に述べる。

----- 出願中 -----
 特許
  日本語表記:特許出願中
  英語表記(米国):Patent Pending in Japan
  中文表记:正在申请的日本发明专利
 実用新案
  日本語表記:実用新案登録出願中
  英語表記(米国):Utility Model Pending in Japan
  中文表记:正在申请的日本实用新型专利
 意匠
  日本語表記:意匠登録出願中
  英語表記(米国):Design Patent Pending in Japan
  中文表记:正在申请的日本外观设计专利
 商標
  日本語表記:商標登録出願中
  英語表記(米国):Trademark Application Pending in Japan
  中文表记:正在注册申请的日本商标

----- 登録済 -----
 特許
  日本語表記:特許登録済(特許権付与)
  英語表記(米国):Patented in Japan
  中文表记:已授权的日本发明专利
 実用新案
  日本語表記:実用新案登録済
  英語表記(米国):Registered Utility Model in Japan
  中文表记:已授权的日本实用新型专利
 意匠
  日本語表記:意匠登録済(意匠権付与)
  英語表記(米国):Patented Design in Japan
  中文表记:已授权的日本外观设计专利
 商標
  日本語表記:商標登録済
  英語表記(米国):Registered Trademark in Japan
  中文表记:已核准注册的日本商标

確認者(下記の方々)
Harness, Dickey & Pierce, PLC.の神頭弁護士
上海音科専利商標代理有限公司の郭 梅(GUO MEI)専利代理人

USでは実用新案がありませんが、英語表記すると上記のようになります。
*中国の出願や権利の場合、「日本」を「中国」に変更。

また、意匠は、アメリカ人が見た場合に分かりやすい英語を使用するとなると、USでは「意匠特許」ですので、通常の会話中は、patentとなり、特許と同一です。特許と差別化する場合に「design patent」となります。USでは、Registr ationとの用語は使用しません。

登録商標も単に「registered」が普通ですが、他の知財権と区別する場合は、「registered TM」または「registered Trademark」と表現します。

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