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目次
1.日本-インド間の特許審査ハイウェイ(PPH)まもなく開始
2.アディダスの3本線の商標(ヨーロッパでの商標権が無効に)- 後編
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2018年9月、日印間において、特許審査ハイウェイの試行を2019年に開始することの合意が成立した(注1)。
2019年7月21日現在、日本国特許庁は、日印間のPPHの準備が最終段階に入った旨を公表しているが、具体的な開始スケジュールについては未だ公表していない。
インドは、日本の特許出願人にとっては、特許取得期間の長い国の一つである。当方の少ない経験ではあるが、2013年のPCT出願を11カ国に移行した件がある。6年後の現在においても未だ権利化できていない国は、インドを含め4カ国(ブラジル、インドネシアもある)である。最近、ようやくインドから拒絶理由通知が届いた。ちなみに、一旦、拒絶理由通知が届くと、原則6カ月以内(以前は1年だった)、期間延長を含めると最長9カ月以内に特許許可にまで至らなければならない。
また、インドは、対応外国出願に対するステータスと、対応外国特許庁の拒絶理由通知に際して引用された引用文献の提出を要求する(非英語文献の場合には英訳も必要)。このため、権利化までの期間が長くなるほど、費用もかかる。
しかし、PPHは、インドでの早期権利化に期待をもたせる制度となり得る。日本での特許許可を早期に得た後、インドにPPHを申請することで、インドにおいて現状よりも短期間で権利化できれば、費用削減につながると思われる。早くPPHの試行を開始してほしいものである。
なお、インドの2017年の特許出願件数は約4.5万件(日本の1/7)。最近の商標出願件数は、約27~28万件(日本の約1.5倍)。名目GDP(2018年)は世界7位で、日本の0.55倍。
(注1): https://www.meti.go.jp/press/2018/09/20180920002/20180920002.html
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(1)2019年6月20日の午後9時半にテレビ朝日「グッド!モーニング」ディレクターの清水氏から電話がきて、その日のうちに電話コメントをした。内容は、アディダスの3本線の商標がヨーロッパで無効になった件。放送はあくる日の午前6時50分頃だった。
(2)問題となった対象商標権は、2013年12月18日の出願で、2014年5月21日に登録されたヨーロッパ商標で、番号は12442166。商標の形態は、製品に対し、どちらの方向にも適用された、等しい幅を持つ3つの平行な等距離ストライプ。すなわち、商品のどこかに付けられた3本線、というとても広い権利範囲となるもの。商品分類は、25類で、指定商品は、衣類、履物、ヘッドギア。
(3)訴訟までの経過
判決文は下記のURLにあり。判決は、2019年6月19日に出ている。
http://curia.europa.eu/juris/document/document.jsf?text=&docid=215208&pageIndex=0&doclang=EN&mode=lst&dir=&occ=first&part=1&cid=10378970
判決までの経過は、次のとおり。2014年12月16日に、Shoe Branding Europe BVBA(ベルギー)は、登録取消を請求した。2016年6月30日に、取消部門は、以下により、取り消しの申請を承認した。理由は、問題となっている標章は、固有の独特の特徴はなく、使用を通じて独特の特徴を獲得してもいない、というもの。
2016年8月18日、アディダスは、取消部門の決定に対して、EUIPOへ審判を提起した。審判では、固有の独特の特徴の欠如を論争しなかった。しかし、一方、その標章は、条約第7条(3)及び第52条(2)の意味の範囲内での使用を通じて独特の特徴(性格)を得たことを主張した。
2017年3月7日、審判廷は、結果として、アディダスの主張を認めず、棄却(=無効)した。アディダスは、2017年5月18日に裁判所に提訴した。その後、2年間ほどの間に、アディダスは種々の証拠書類を提出したが、結局、その主張は認められなかった。
(4)両社の他の争い(結果として、1勝1敗)
2009年7月1日に、Shoe Branding Europe BVBA(ベルギー)は、靴の側部に2本線を配置した位置商標をヨーロッパ意匠商標庁に出願し、登録された。それに対し、アディダスが2010年9月13日に異議を申し立てた。靴に3本線を配置した自分の位置商標などを根拠とした異議であった。
Shoe Brandingのものは、2本線でかつ傾斜方向がアディダスとは逆方向であった。2012年5月22日に、異議部は、アディダスを異議を却下した。アディダスは、7月2日に審判請求をした。しかし、審判部はこの申立を棄却した。そこでアディダスは、2014年3月3日に、裁判所に、異議却下の決定の無効化を求める訴訟を提起した。
裁判所は、前の判断を覆し、アディダスの異議を認めた。Shoe Brandingは、控訴したが、2016年2月17日に裁判所は控訴を認めない判決を出した。以上の経過が下記のURLに掲載されている。
https://www.ipcuria.eu/details.php?t=3&reference=C-396/15
このように、アディダスは、この戦いでは勝ったが、今回のニュースの対象となった非常に広い権利については負けた訳である。
(5)アディダスの日本の商標
アディダスは、日本において271件の商標権を有している。最初の商標権は、1957年12月29日のもので、「adidas」である。位置商標制度が無かった時代(2000年頃)に、トレイニングウエアの服の腕部分に3本線をいれた服の商標権(第4522862号)やトレイニングウエアのパンツ部分に3本線をいれたパンツの商標権(第4522863号)や靴の横部分に3本線をいれた靴の商標権(第4522864号)がある。これらは、日本に位置商標が存在していなかったために、服や靴の図形そのものを権利化したものではあるが、あまり意味が無いものであった。4年前に日本でも位置商標が認められることになったが、アディダスは位置商標を出していない。
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