私たちが責任をもって特許取得をサポートします

MEBUKI IP Small Talk 8月号(2018年)

目次

1.AI創薬関連の注目特許

2.特許の先使用権の証拠確保、転職者の方自身の予防対策

__________________________________

1.AI創薬関連の注目特許

パートナー・弁理士 長谷川 洋

(1)AIやIoTは、蒸気機関(第1次産業革命)、石油・電気による重工業(第2次産業革命)、インターネット(第3次産業革命)に続く第4次産業革命の主役になるといわれている。昨年(2017年)、イギリスのディープマインド(Googleの傘下)が開発した「アルファ碁」は、囲碁で世界最強とされる中国の柯潔(かけつ)氏に3番勝負で3連勝と完勝した。また、将棋でも、現役最高峰の佐藤天彦名人との3番勝負に、「PONANZA(ポナンザ)」が完勝した。

(2)これらは、囲碁と将棋の世界での話だが、創薬の世界でもAIの活躍が期待され、現在、熾烈な開発競争が世界規模で行われている。日本では、医療・創薬の分野において、ライフインテリジェンスコンソーシアムhttps://rc.riken.jp/life-intelligence-consortium/や、医療・創薬データサイエンスコンソ―シアムhttps://md-dsc.com/といった産学あるいは産学官が連携するコンソーシアムも設立されている。

(3)創薬にAIを利用すると、どのようなメリットがあるのか?現状の創薬のフローは、一般的に、A「薬物標的の同定」→B「リード化合物の発見」→C「リード化合物の最適化」→D「非臨床試験」→E「臨床試験」→F「申請・承認」で進行し、市場に出る。創薬は、ギャンブルともいえる。研究開発期間は10年以上、研究開発費は数100億円、成功確率:約0.003%(3/10万)である。このような創薬分野では、他の技術分野と比較し、特許は、独占実施によって研究開発費を回収するための極めて重要な武器となる。

(4)ただ、最近では、あまりにも長期で費用が莫大にかかることから、自社での研究開発から、他社(ベンチャー等も含む)の買収が有利であるとの米国的な考えも日本に広まりつつある。そこに、AI創薬の可能性が見えてきた。上記の創薬フローにおいて、現状、BからCに至る確率は、おおよそ0.01%(1万分の1)と超低い。最適なリード化合物を見つけるところに、AIを利用すれば、確率を格段に上げることができ、研究開発期間の短縮と研究開発費の大幅な低減化を図ることができるかもしれない。
http://cbi-society.org/home/documents/seminar/2017to20/CBI391_Sawada.pdf

(5)AI創薬に関する日本特許(出願公開も含む)の数は、未だそれほど多くはない。しかし、当方が調べたところ、何十件かは公開され、一部は特許として成立している。

一例を挙げると、特許第6135795号(特許権者: 小野薬品工業株式会社)がある。この特許発明は、合成展開の可能性を期待できる良質なリード化合物や創薬ターゲットを抽出/選択する方法を提供することを目的としたものである。方法発明(請求項1)とプログラム発明(請求項22:下記の「参考」を参照)は、散布図を作成するという限定はあるものの、なかなか広い権利範囲ではないかと思われる。

*参考・・・特許第6135795号の【請求項22】
コンピュータに、所定の創薬ターゲットに対する複数の化合物の特性を示す散布図を生成させるプログラムであって、コンピュータを、複数の化合物について、化合物の種々の特性に関する特性情報を取得する取得手段、及び複数の化合物について、取得した特性情報にしたがい各化合物を示すシンボルを配置して散布図を生成する散布図作成手段として動作させ、前記散布図作成手段は、化合物毎に、化合物の第1及び第2の特性に基づき散布図上のシンボルの配置位置を決定し、化合物の第3及び第4の特性に基づき、シンボルの属性を決定し、決定した配置位置及び属性に基づき化合物を示すシンボルを散布図上に配置する、プログラム。

___________________________________

2.特許の先使用権の証拠確保、転職者の方自身の予防対策

顧問・弁理士 渡邉秀治

特許法には、特許権となったものに対抗できるものとして、その特許権が出願される前から実施または実施準備をしている者は、特許侵害とならない、という規定がある。これを先使用権という。

最近、先使用権の証拠確保として、自分宛の書留のことをある方に話した。3通ほど、自分宛にしておけば、権利者と交渉時や裁判時に開封しても、まだ1通残るので、ベターとお話をした。

その後、詳細な情報が欲しいということで以下の回答をしたので、皆様にも参考になればと思い、お伝えする。なお、転職者の方自身の予防対策は、下記の3②のHPに記載があり、確かにと思った。

1.公証方式も書留方式も、共に、以下のことを目的としている。
(1)真似したものではないこと。
(2)先使用権の証拠の一部とすること。
(3)転職者の方の予防対策。
「中身のドキュメントは、どの程度書いたらいいのか、参考テキストとかあるでしょうか?」の質問への回答としては、立証したい範囲での記載または証拠物件、ということになる。

2.私自身がこの書留方式を聞き、1~2度、行ったのは10年以上前のこと。回数は、はっきり回数を覚えていない。その後、時々、他の方からもこの方式をお聞きすることがあった。

3.今回、グーグルで検索した結果としては、下記のものが挙がってきた。下記①は、先使用権の証拠確保の際のもので、通常の書留の場合に比べ、引受時刻証明郵便が日時の証明に関し、各段に立証性が上がる。この中には、先使用権の証明性のむつかしさが記載されている。②は、転職者の予防対策だが、考え方は同じ。

https://www.tokyo-kosha.or.jp/chizai/manual/knowhow/knowhow_all.pdf
郵便による証明には、内容証明郵便、引受時刻証明郵便がある。
*引受時刻証明郵便とは、一般書留郵便物を引受けた時刻を分単位で証明するもの。先使用権立証のための文書を自分宛に送付することで、日時を立証することはできるが、郵便物の内容までを証明するものではない。

http://www.tadhomma.sakura.ne.jp/TS1.htm
転職しようとしているエンジニアや営業マンにとっては、今の職場で知った情報を次の職場で使う可能性があったら、その情報が、①自分に帰属(後述)すること、②営業秘密の客体3要件を欠くこと、③その使用が守秘義務違反や図利加害目的でないこと・・を立証できる事実を集めておいたほうがいい。このような予防立証の定跡がペーパー・トレイルとクリーン・ルームである。これはもともと著作物の独自創作をあらかじめ立証しておくために考案されたツールだが、営業秘密でも十分使える。

*ペーパー・トレイルとは自分の行動を記述した文書の連続体である。エンジニアなら開発ノート、営業マンなら営業日誌だが、あとで改変したと思われないためにインクで書くと良い(経時変化が測定できる。訂正は消去しないで抹消線で消して書き込む)。
米国のプロはページが抜けない帳簿タイプのノートを使っている。マイルストーン的な情報は公正証書にするか、せめて自分あての書留郵便にして開封しないでおくといい(訴訟になったら裁判官に開封してもらう)。ほかに交渉関連文書--特に営業秘密の開示者の言質--をちゃんと保存しておくこともペーパー・トレイルである。

_________________________________

CopyRight (C) MEBUKI IP Law Firm
社内用・社外用を問わず無断複製(電子的複製を含む)を禁ずる