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MEBUKI IP Small Talk 7月号(2018年)

目次

1.スペイン特許と欧州特許

2.機械分野に用途発明はあるか?

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1.スペイン特許と欧州特許

パートナー・弁理士 長谷川 洋

(1)スペインは、特許協力条約(PCT)および欧州特許条約(EPC)の加盟国であり、フランスやオランダ等の一部のEPC加盟国と違って、PCT出願から直接国内移行可能な国である。このため、PCT出願後にスペインでの特許化を目指す場合、スペインに国内移行する方法(方法A)と、欧州特許庁(EPO)に域内移行して実体審査を受けてEPOでの特許登録後にスペインで有効化手続する方法(方法B)という2つの方法の内、少なくともいずれか1つを選択できる。両方法を選択しても良い。

(2)スペインは、2015年の法改正により、特許出願に実体審査請求制度を導入した(2017年4月1日から施行)。実体審査請求は、改正前まで任意手続きであったが、改正法施行後に必須手続きとなった。詳細は、以下のURLを参照。
https://www.jpo.go.jp/index/kokusai_doukou/iprsupport/miniguide/pdf/Europe_SPAIN_sys.pdf

また、スペインは、日本国との間で特許審査ハイウエイ(PPH)を相互に行っている。

(3)もし、PCT出願の国際調査報告と見解書において、特許性を肯定する見解が発行された場合,スペインでなるべく広い権利を取得したいなら、方法AとPPHとの組み合わせを、お勧めしたい。PPHを利用するには、日本での特許査定を要するが、PCT出願における見解書で特許性を肯定されていれば、出願審査請求と早期審査請求とを行って、3,4カ月以内に日本で特許査定を得ることができる。

(4)日本での特許査定後、早めに、スペインに対して、国内移行手続、実体審査請求およびPPHを行うのが良い。なぜ、早めにスペインの国内に移行するのか?EPOへの移行とスペイン移行とが近いと、スペインの審査において、EPOから発行される拡張サーチレポートが利用されるかもしれないからである。EPOは、世界でも特許審査の厳しい特許庁の一つである。審査が緩くなった日本と異なり、EPOからは、特許性を否定する引例と見解が出されるかもしれない。そうなれば、スペインでの広い権利化ができなくなるかもしれない。EPOに移行時にはスペインで特許を取得しているのが理想である。

(5)もし、出願人にとってスペインが特許取得希望優先国であるなら、方法Aと、方法Bとを両方行うのが良い。仮に、方法Aで得た権利と方法Bで得た権利が同一権利になるなら、方法Bの際にスペインにて有効化手続きを行う必要はない。一方、方法Bで得た権利が狭い場合には、方法Aで得た権利と共存できる。なぜなら、出願日も優先日も同一だからである。ちなみに、スペインは、ロンドンアグリーメントを批准していないため、特許出願書類全部のスペイン語翻訳を要する。方法Aで既に使用した翻訳を有効利用して、方法Bで翻訳を提出すれば良い。

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2.機械分野に用途発明はあるか?

弁理士 三宅俊男

以前、医薬用途発明について、抗体医薬「オプジーボ(登録商標)」を例にして、日米欧のクレームの書き方をご紹介した。用途発明は、医薬品や化粧品、機能性食品の分野で重要な役割を果たしているが、機械特許分野に用途発明はあるのでしょうか?

特許庁の審査基準によれば、「用途発明とは、(i)ある物の未知の属性を発見し、(ii)この属性により、その物が新たな用途への使用に適することを見いだしたことに基づく発明をいう。用途発明の考え方は、一般に、物の構造又は名称からその物をどのように使用するかを理解することが比較的困難な技術分野(例:化学物質を含む組成物の用途の技術分野)において適用される。」と記載されており、「機械、器具、物品、装置等については、通常、その物と用途とが一体であるため用途発明の考え方が適用されることはない。」とされている。

しかし、審査基準をよく読むと、「用途発明」の上位概念として、「物の用途を用いてその物を特定しようとする記載(用途限定)がある場合」について説明があり、例1として、「~の形状を有するクレーン用フック」という発明は、『「クレーン用」という記載がクレーンに用いるのに特に適した大きさ、強さ等を持つ構造を有するという、「フック」を特定するための意味を有していると解釈される場合がある。このような場合は、審査官は、請求項に係る発明を、このような構造を有する「フック」と認定する。したがって、「~の形状を有するクレーン用フック」は、同様の形状の「釣り用フック(釣り針)」とは構造等が相違する。』と記載されている。

そこで、実例を探してみると、実用新案出願公告「実公昭52-2531」(ゴルフコース用ゴルフバッグ搬送循環軌道装置)というのがあり。実用新案登録請求の範囲は、「ゴルフコースに沿って立設した多数の支柱上に、ゴルフバッグを運搬する自走車輛を前記ゴルフコースに沿って巡回走行させる軌条を敷設したゴルフコース用ゴルフバッグの搬送循環軌道装置。」となっている。

本件考案の先行技術には、果樹園等における集果運搬手段として集果運搬車を走行させる軌道運搬装置や、芝生を植生したゴルフ練習場にてフィールドに散乱したゴルフボールを回収するためのゴルフボール運搬用の自走車輛を走行させるようにした運搬用軌道装置があった。しかしながら、ゴルフ練習場で使用されている搬送装置をゴルフコースにてゴルフバッグ搬送用に転用したという新たな用途の発見はきわめて容易ではないとして登録された。本件考案は、登録異議の申し立て及び二度の無効審判請求を乗り越え、実用新案権侵害差止請求事件において、権利行使された(大阪高判昭和61年8月27日・昭和58年(ネ)第1150号) 。判決では、「用途考案はもともと考案性のない物を、その物にとって新しい用途に条件を付して利用することについての考案である。」と判示されている。

従って、機械の技術分野では、用途発明という概念はないが、用途限定発明は存在しうると言えそうである。

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