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MEBUKI IP Small Talk 6月号(2018年)

目次

1.人間を手術、治療又は診断する方法の特許保護適格性は変化している

2.特許ライセンスの世界

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1.人間を手術、治療又は診断する方法の特許保護適格性は変化している

パートナー弁理士 長谷川洋

(1)医薬や医療機器に代表される物の発明および医薬等の製造方法が日本において特許保護適格性を有することはよく知られている。しかし、人間を手術、治療又は診断する方法は、特許保護適格性を有するだろうか?答えは、ノーである。これも皆さんはよくご存じでしょう。

ところが、手術、治療、あるいは診断という言葉の定義が変わってきている結果、過去に治療や診断の方法に該当するとして特許されなかった発明が、現在では特許されるものもある。憲法第9条の論議と似ていて、言葉の解釈が経年変化しているのである。

(2)ここで、典型的な例を挙げたい。下記請求項A,Bは、記載方法が少し異なるものの、同じ技術的思想に基づく発明を記載したものである。ペースメーカーの制御方式は同じである。しかし、請求項Aの記載だと特許されず、請求項Bの記載だと特許される。なぜだろうか?請求項Aの場合には,人体に対する作用(電気刺激)が表現されているが(*部を参照)、請求項Bの場合には、制御装置の処理工程が表現されているからである。要は、現在では、記載方法次第で、装置を使った診断方法は、制御方法という記載方式にすれば特許を取得できるのである。現行の審査基準では、人体に対する作用を表現しない、医師による判断や行為を表現しない等の工夫をすると特許保護適格性を有する発明も少なくないのである。

(典型例)
請求項A・・・ペースメーカーによる電気刺激方法(*)であって、ペースメーカーの制御手段が心拍数を検知部で検出し(*)、検知部において検知された心拍数をメモリーに記憶された閾値と比較する工程と、心拍数が閾値より低い場合には、メモリーから定常状態の平均心拍数を読み出す工程と,平均心拍数と検知された心拍数の差を算出する工程と、差に応じてパルス発生間隔値をセットする工程の各工程を行い、パルス発生部がセットされたパルス発生間隔で心室に刺激を与える方法。

請求項B・・・ペースメーカーの制御方法であって、ペースメーカーの制御手段が検知部において検知された心拍数をメモリーに記憶された閾値と比較する工程と、心拍数が閾値より低い場合には、メモリーから定常状態の平均心拍数を読み出す工程と、平均心拍数と検知された心拍数の差を算出する工程と、差に応じてパルス発生間隔値をセットする工程の各工程を行う制御方法。

詳しくは、特許庁のホームページの「ライフサイエンス分野の審査基準等について 平成30年6月 特許庁調整課審査基準室」http://www.jpo.go.jp/shiryou/s_sonota/pdf/lifescience_kijun/kijun.pdfをご覧いただきたい。

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2.特許ライセンスの世界

顧問・弁理士 渡邉秀治

特許ライセンスに係わって既に30年が経過した。しかし、他の方の実務経験や知識はとても参考になり、時々、他の方の講演会に参加している。
今回、6月1日に下記の方の講演会(日本ライセンス協会主催)を聴講した。

「講演会概要」
1.タイトル:ライセンスの実務ー基礎から実践までー
2.講師:元日立製作所(東北大法学部卒)平山裕之氏

「印象に残った点」
1.ライセンス料の最初の提案額と妥結額経験から、最初の提案は以下のような数値が多いとのこと。
①米国企業:妥結の5~10倍。②欧州企業:妥結の3倍程度。③日本企業:妥結の2倍程度。

2.各業界の特徴
(1)電機・電子業界の特徴 欧米、中国も含め、クロスライセンス実施。ただし、中国は、日立としては、大手との間のみ。なお、包括クロスの場合、①研究開発費の多寡、②論文数、③特許ポートフォリオのサイズ、④年間出願・成立件数などの比較によって、双方の特許ポジションを評価して差額対価を決めることがあるとのこと。

(2)食品業界の特徴
製法特許から食品パラメータ(数値限定)特許の取得への流れがある。

(3)業界を超えてのライセンス
要素技術が当該業界の枠を超えて異業種にライセンスが増加。例:通信や半導体の特許が自動車や家電の分野の企業へ。

3.米国のIPR制度
(1)2011年の米国改正特許法により、特許無効手続として、当事者系レビュー(Inter Partes Review:IPR)の制度が採用された。これは、従来の査定系の無効審判に追加されたもので、裁判に行く件数を減らそうとしたもの。

(2)このIPRが適法かが問われている裁判(最高裁)の判決が今年6~7月に出る。今まで司法が行ってきたものを、このIPRは行政にゆだねるもので、不適切で憲法違反という理由。
ケース:Oil States Energy Services v.Greens Energy Group。

4.米国の大学
特許ライセンス収入が多いのは、次のような事象が起こっていることも原因。
例:コロンビア大学は、MPEG2,ATSC,AVC,MVCの4つの標準化プログラムにライセンサーとして参加しており、多くの収入実績を得ている。

5.トランプ政権の知財政策
以下の事実により、プロパテントに転じるとの予測あり。
①共和党の伝統、Pence副大統領含め側近は、プロパテント派。
②トランプ氏は100以上の商標権を保持。
③長男(の勤めている会社?)は、ソフト特許で2年半の間に66件訴訟提起
④叔父さん(MIT教授*23件の特許保有)。
⑤選挙中、米国国際貿易委員会(ITC)の強化を宣伝。
⑥最近、中国に対し、知財侵害で通商法301条発動を発表。

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