私たちが責任をもって特許取得をサポートします

MEBUKI IP Small Talk 4月号(2018年)

目次

1.欧州特許庁の注目実務

2.日本には無い商標の制度(使用主義など)

__________________________________

1.欧州特許庁の注目実務   パートナー弁理士 長谷川洋

今年2月に、英国・欧州特許弁理士とミーティングの機会を得た。今回は、この機会に得た情報の中で、私が注目したものの一部を紹介したい。

1)欧州特許庁の審査官とのインタビューは電話か電子メールによるのがベター特許庁から拒絶理由通知を受けた時に、担当審査官とコミュニケーションをとりたくなるときがある。日本であれば、電話やFAXによることもあるが、Face-to-Faceで審査官と面談をすることの方が多い。

しかし、英国に本部を持つ事務所であるMEWBURN ELLIS LLPhttp://mewburn.com/ の英国・欧州特許弁理士のMoore氏によると、欧州特許庁の審査官とのインタビューは、電話または電子メールがベターとのことである 。日本では、基本的に、一人の審査官が拒絶理由の通知や解消を決定するが、欧州特許庁では、三名の審査官で決める。拒絶理由通知を受けた後に欧州特許庁にてFace-to-Faceでインタビューを行い、一名の担当審査官から拒絶解消の理解を得たとする。後に、その担当審査官が他の二名の審査官に説明すると、拒絶解消について彼らからは理解が得られないこともある。その場合、相当の時間が経過した後に、インタビュー時とは異なる結論(拒絶は解消しないという結論)が通知される。

一方、電話や電子メールでのインタビューの場合には、他二名の審査官から同意を得る必要がある点ではFace-to-Faceによる場合とは変わらないが、非公式な手続きであるために、かなり迅速で簡素な手続がとられる。その結果、他の二名の審査官から同意を得やすく、また不同意の場合でも、その結論が出るのが早く、他の方策をとる時間的猶予がある。加えて、電子メールで審査官とやりとりした場合には、その内容は包袋に入れられない。このような理由から、欧州特許庁では、電話や電子メールでのインタビューが一般的のようである。

2)明細書中に代替の文言を盛り込むのがベター
請求項中にAnnulus(2Dである平面的な“円環“の意味)という文言が記載されていたとする。明細書と図面の内容から、Annulusは正確ではなく、正しくは、toroid(円環体あるいは円錐曲線回転体、すなわち3Dである立体的なドーナツ形状)だったとする。日本であれば、明細書と図面の記載に基づき、Annulusをtoroidに補正できると思われる。

しかし、欧州特許庁では、補正不可とまでは言い切れないが、相当苦労するようである。この問題は、技術的な問題ではなく、単なる言葉の問題である。

このような言葉の問題は、審査官の拒絶を解消し、あるいは補正を認めてもらうのに、多くの時間とコストを費やす。

一番手軽な方法は、発明にとって重要な構造や組成に関しては、1つの文言、言い回しではなく、複数の文言、言い回しをしておくこと、つまり、将来の補正の候補を明細書中に含めておくことである。特許事務所や企業の中には、文言の統一をすべきという考えの方も多い。文言の意味に疑義が生じてはいけないのは確かである。しかし、そのような疑義が生じない範囲内で、敢えて、複数の言い方をしても良いと思う。欧州特許庁の審査では、補正が極めて難しい。明細書に直接的に記載されていない場合には、補正不可、若しくは補正ができても特許後に取消理由となり得る。このような実状に鑑みれば、確実に補正できる文言を明細書に入れておく方が良いと思われる。

次回は、オランダ特許の注目プラクティスをお話する。

___________________________________

2.日本には無い商標の制度(使用主義など)  オフ・カウンセル 弁理士 渡邉 秀治

特許や商標などを扱う人が注意をすべきことは、日本が標準として考えてしまうことと思っている。海外は、日本と異なる制度を有していることが多い。特許法は、海外と日本が似ている部分が多く、世界標準的になっているが、商標制度、職務発明制度、意匠制度、侵害対応などは、各国で違う部分が多い。特に、商標は、日本と異なる制度や注意点が多い。

今回は、主に、米国の商標制度の概要についてお話をする。米国は、世界から見たら特殊な制度を多く採用している。以下は、主な6点。

(1)使用主義・・・使用があって初めて保護。登録の条件に米国での使用証明が必要。
(2)コモンローによる保護と州登録の保護と連邦登録の保護の三重性。
(3)米国商標出願には、いろんな種類がある。出願の際、どの方式を採用するかの選択要。
(4)補助登録簿という「識別性が無しでも将来、識別性の獲得可能性あり」の商標の登録可。
(5)フロード(Fraud、詐欺、欺瞞)の場合の罰が厳しい。
 例:使用宣誓書で不使用にかかわらず使用していると嘘をついて登録になると、→商標登録の取り消しとなる。
(6)権利行使の際の条件の厳しさ。

登録商標(R)やRegistered in US Patent and Trademark Office の表示による告知が不可欠。これらの記載がない場合、被告がその事実を知っていたことの立証が求められる(ランハム法(商標法)第29 条、合衆国法典第 15 編(15 U.S.C.)§ 1111)。

http://www.jpo.go.jp/index/kokusai_doukou/iprsupport/miniguide/index.html

使用主義(使用があって初めて権利として保護)と対比されるのが登録主義。登録主義は、使用の有無とは関係なく、登録によって商標権が発生するもの。世界では使用主義に比べ、より多くの国が採用しているものが登録主義。通常は、使用意思があれば登録を認める。日本も登録主義。ただし、登録主義の多くの国では、一定期間(多くは3年)、その登録商標の使用をしていない場合、第三者からの登録取り消し請求で登録取り消しを認める制度を採用している。

使用主義を採用している国は、米国の他には、カナダ(米国とほぼ同様)、フィリピン(出願日から3年以内および登録日から5年目を経過した後、使用に関する宣誓書およびフィリピンにおける当該商標の商業的使用の証拠を提出)、などがある。

なお、使用主義とは異なるもので、登録の際に2つの出願(先願と後願)のどちらに登録を認めるかについて、先使用主義(先に使用開始した者が勝ち)と先願主義(先に出願した者が勝ち:日本など多くの国が採用)がある。インドは、先使用主義を採用。具体的には、出願の時点で使用開始日を申告し、最先に使用を開始した出願人に登録が認められる(使用意思に基づく出願の場合は、出願日が基準で判断)。

_________________________________

CopyRight (C) MEBUKI IP Law Firm
社内用・社外用を問わず無断複製(電子的複製を含む)を禁ずる