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MEBUKI IP Small Talk 3月号(2018年)

目次

1.特許法やJISマークや不競法などの改正について

2.BioMの起業家支援の取り組みについてのご紹介(第3回)

3.日本には無い商標の制度(同意制度)

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1.特許法やJISマークや不競法などの改正について  パートナー・弁理士 長谷川 洋

先月になるが、不正競争防止法等の一部を改正する法律案が閣議決定された(2018年2月27日)。この法律案は、現在開会中で6月20日に閉会予定の通常国会に提出される予定である。この法律案は、多岐に渡っている。不正競争防止法、特許法、弁理士法、工業標準化法が対象である。以下に、主な改正点と、小職のコメントを記載した。

改正内容の詳細については下記のURLにアクセスしていただきたい。

http://www.meti.go.jp/press/2017/02/20180227001/20180227001.html

A.主な改正点

<不正競争防止法>
1)ID及びパスワード等により管理して相手方を限定して提供するデータを不正に取得、使用又は提供する行為を不正競争行為に追加。この不正競争行為に対する差止請求・損害賠償請求を可能とする。
2)「プロテクト破り」の対象を、プロテクト破りに使用する機器の提供のみならず、プロテクト破りのサービス提供まで拡大する。
3)書類提出命令における書類の必要性を判断するための非公開提出(インカメラ)の手続を導入し、専門委員がインカメラの手続に関与できるようにする。

<特許法>
1)新規性喪失の例外の適用を受けることのできる期間を現行の6カ月から1年に延長する。
2)一部の中小企業を対象とした特許料等の軽減措置を、全ての中小企業に拡充する。
3)特許料等の支払い方法の選択肢に、クレジットカード払いを追加する。
4)裁判所が書類提出命令を出すに際して非公開(インカメラ)で書類の必要性を判断できる手続を創設するとともに、技術専門家がインカメラ手続に関与できるようにする。
5)判定制度の関係書類に営業秘密が含まれる場合に、閲覧を制限する。
6)意匠の優先権書類のオンライン交換制度を導入する。
7)商標出願手続の適正化を行う。

<弁理士法>
弁理士の業務に、データの利活用・JIS等の規格の案の作成に関して知財の観点から支援する業務を追加する。

<工業標準化法>
1)標準化の対象にデータ、サービス等を追加するとともに、「日本工業規格」を「日本産業規格」として、法律名を「産業標準化法」に改める。
2)標準化の専門知識及び能力等を有する民間団体を認定し、当該団体からの申出については、日本産業標準調査会に付議することなく、主務大臣が産業標準を制定するスキームを追加する。
3)認証を受けずにJISマークの表示を行った法人等に対する罰金刑の上限を現行の100万円から1億円に引き上げる。

B.特許法改正に関するコメント

特許法の改正点の中で、特許出願人の観点から重要と思われるのは、1)の新規性喪失の適用を受けられる期間の延長と、2)の軽減措置を受けることのできる中小企業の拡充、ではないかと思う。以下、これらについてコメントする。
1) 新規性喪失の適用を受けられる期間の延長について
新規性喪失の例外の適用を受ける場合、現行の日本では6カ月の期間しか認められていない。米国や韓国では1年が認められている。日本は、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)を見据えて、米国の1年という例外適用期間(グレースピリオドという)に合わせる予定で準備をすすめてきた。しかし、トランプ大統領が就任後早々とTPPからの離脱を表明したことから、グレースピリオドの延長の話がどうなるかと思われた。ここにきて、特許法の改正を機に、グレースピリオドの延長を導入することになった。
2) 軽減措置を受けることのできる中小企業の拡充について
また、出願審査請求料、特許料等、国際出願の費用の大幅軽減(正規料金の2/3のディスカウント)については、特定の中小企業、個人事業主等は、条件さえ合致すれば、正規料金の2/3のディスカウントを受けることができた。しかし、この措置は2018年3月31日をもって終了する。2018年4月1日からは、それまでの大幅な軽減制度は無くなり、かつディスカウント率:50%というもう一つの軽減制度のみが残る。

今回の改正法が施行されると、ディスカウント率:50%は変わらないが、全ての中小企業が軽減対象となる。また、手続上煩雑となっていた各種証明書の提出が不要となる。ディスカウント率は2/3ではないものの、全ての中小企業が対象となり、手続き上の負荷も軽くなるため、総合的にみて、今まで以上に使いやすくなると思われる。なお、この制度は、米国からの輸入(米国のSmall Entity」の制度:小規模団体に該当する場合には、特許出願費用等が50%減額)と思われる。

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2.BioMの起業家支援の取り組みについてのご紹介
                     BioMプロジェクトマネージャー 橋口 恵

今回は、前回に引き続きミュンヘンにあるバイオテクノロジー・クラスターの管理組織BioM Biotech Cluster Development GmbH (BioM)における起業家支援のための取り組みついてご紹介させていただきます。

Mentor Circle
成功した起業家、企業の管理職、研究を製品化したことのある有名な研究者や知財・創薬の専門家などからなる約40人のボランティアのメンター達による起業家のための支援が行われます。それぞれのメンターが各自の経験・知識に基づき起業家に対して助言を行います。

Pitch Doctor
研究者が起業する際には、資金を得るために投資家に対してプレゼンテーション(ピッチ)を行いますが、ピッチの際には、普段、研究者が行っている研究者に向けたプレゼンテーションとは異なる視点で話を組み立てる必要があります。Pitch Doctorでは、投資家が講師として招かれ、研究者に向けたプレゼンテーションのトレーニングの機会を提供しています。

BioEntrepreneuer Bootcamp
起業家に向けた3日間の集中トレーニングコースです。起業家がビジネスモデルの発表を行った後、各専門家により資金・法律・運営などあらゆる側面からのアドバイスを受けたり、起業家の経験に則したフィードバックを得たりします。これにより実現可能なビジネスモデルへの改良を行います。

BioEntrepreneuer Lounge
ネットワーキングの機会です。成功した起業家や投資家が講演を行い、その後、立食式の夕食パーティーで講演者やその他起業を考えている人達と意見を交換することでネットワークを広げることを目的としています。一年に4-5回開催しています。

BioAngels
エンジェル投資家とスタートアップ者(企業)のマッチメーキングの機会で、1年に2-3回開催されます。革新的なアイディアを持っているスタートアップ者(企業)がビジネスプランやアイディアの斬新さ、市場可能性などに基づいてあらかじめ選出され、その後、それらスタートアップ者(企業)がエンジェル投資家等に対してプレゼンテーションを行います。エンジェル投資家にとっては、すでに一定レベルに達している興味深いスタートアップ者(企業)を発掘出来る機会であり、スタートアップ者(企業)にとっては比較的小規模なイベントなので、投資家達と密に話し合う機会を得ることが出来る絶好の機会です。

今回ご紹介した5つの活動と前回ご紹介したm4 Awardによって、起業前後の様々な段階で必要な様々な支援が受けられることで、バイエルン州における起業に対する垣根が低くなっているように感じられます。また、実際にこれらの支援を受けて起業した人達がその後メンターになったりと、企業のためのエコシステムが徐々に形成されて来ているようです。

次回は、本職とは異なりますが、マックス・プランク学術振興会同窓会組織の仲間達と企画している“AIやビッグデータの創薬活用”のためのワークショップの様子について報告させていただきたいと思います。

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3.日本には無い商標の制度(同意制度)   オフ・カウンセル 弁理士 渡邉 秀治

特許や商標などを扱う人が注意をすべきことは、日本が標準として考えてしまうことと思っている。海外は、日本と異なる制度を有していることが多い。特許法は、海外と日本が似ている部分が多く、世界標準的になっているが、商標制度、職務発明制度、意匠制度、侵害対応などは、各国で違う部分が多い。特に、商標は、日本と異なる制度や注意点が多い。

今回は、商標の同意制度についてお話をする。この制度は、「Consent」(同意書)を相手からもらうことで、類似商標が存在していても登録できる制度。私は、40年程前に3年間、商標担当をしていたが、その当時、勤めていた株式会社三協精機製作所の商標である「Sankyo」と、現在はパナソニックに吸収された三洋電機株式会社の商標「Sanyo」とが世界各国で、互いの商標が類似として引用されていた。このため、「Consent」(同意書)を互いに相手側に出し、互いの商標を登録させていた。日本と世界が異なる感覚、考え方をしていることを強く認識した最初のできごとであった。

以下に、「Consent」(同意書)の制度を認めていない国、認めているる国について説明する。なお、説明は、過去の当方の経験や情報を考慮しつつ、次の情報を主に考慮したものである。
「平成27年度 特許庁産業財産権制度問題調査研究報告書
商標制度におけるコンセント制度についての調査研究報告書
https://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/chousa/pdf/zaisanken/2015_08.pdf

(1)全くコンセントを認めない国、段階
・日本、中国(審査段階)、インドネシア、タイ、韓国(例外あり)、アルゼンチン

(2)コンセントを認める国
A.相対要件(日本の商標法4条)と絶対要件(商標法3条)の審査を行い、コンセントがあれば、登録を認める。

①混同のおそれが無い場合、OK。
・中国(審判・訴訟段階) 、米国、台湾、香港、シンガポール、ベトナム、マレーシア、カナダ、メキシコ、ブラジル、スウェーデン、ロシア

②コンセントがあれば、ほとんど、すべてOK。
・ニュージーランド、インド、オーストラリア、英国、ハンガリー、EUTM(欧州商標)

B.絶対的拒絶しか審査せず(=「隠れた」コンセント)。*審査そのものが類似を見ない。
・ドイツ、フランス、スイス、ベネルクス、デンマーク

既に登録になっている類似商標の権利者から「Consent」(同意書)をもらう場合、例えば、「Sankyo」と「Sanyo」の場合は、出したり、もらったりしていたので、無償であったが、このような関係が無く、単にもらうだけである場合は、費用がかかるのが普通。その額は、私が教えてもらった件では、30~50万円であった(中国と欧州の場合)。

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