私たちが責任をもって特許取得をサポートします

MEBUKI IP Small Talk 1月号(2018年)

   

ご挨拶

明けまして、おめでとうございます。本年もよろしくお願いします。

今年から、ドイツのBioM Biotech Cluster Development GmbH でプロジェクトマネージャーとして業務を行っている橋口恵氏も、弊社のメルマガに参加させていただくことになりました。今後、不定期ではありますが、彼女の記事も紹介させていただきます。

目次

1.大手自動車メーカの知財戦略

2.ドイツのBioMの紹介

3.中小企業の知財戦略について(1)

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1.大手自動車メーカの知財戦略   パートナー弁理士 長谷川洋

昨年11月に某研修会にて、大手自動車メーカの元知財部長を講師とする講演およびその後に同講師と雑談する機会がありましたので、参考になりそうな部分であって且つ話せる範囲の内容をご紹介する。

(1)特許出願の目的
これはベンチャー企業さんや中小企業さんには当てはまるかどうかわからないが、講師の在籍していた大手自動車メーカにとって、特許出願を行う目的は2つとのこと。
1つは、自社の自由実施の確保。もう1つはエンジニアや研究開発者の発明意欲を高めてより良い製品開発につなげること。

出願の目的は、特許訴訟に勝つことではない。むしろ、訴訟は避けるべきという。その大手自動車メーカは、基本的には原告にはならない。もし、第三者から特許権侵害で訴えられた場合には、仕方なく被告として裁判所で争う程度。それでも、できるだけ和解に持ち込む。勝てそうでも、コストパフォーマンスが悪ければ和解に持ち込む。

特許は、エンジニアを育てるには良い制度。特許制度を利用して、エンジニアの開発能力を刺激しているとのこと。発明者への報奨金を含む特許出願に必要な諸々の費用は、そのための経費と考えている。

したがって、特許出願しても審査請求しない案件や、特許出願以外の方法で公開することも多い。このような公開が有意義であることを、会社の経営陣に理解してもらうのが骨の折れることだが、それは知財部の重要な仕事と考えている。経営陣や発明者の中には、特許取得できないのに拘わらず、出願するのには、どんな意味があるのか?発明者としてプライドを失うから出願を希望しないといった考えの方も結構多いという。

しかし、出願しなかったために他社の権利で苦しめられ、結果、長年開発してきた技術をあきらめたこともある。それは、会社としてはかなりの損害。これをことあるたびに社員教育、あるいは経営陣への説明の中に盛り込んできた。

(2)米国・中国対策
-米国-
大手自動車メーカは、出願系では、多くの米国法律事務所に依頼しているが、訴訟系は一つの法律事務所に集約している。日本の大手自動車会社は、基本姿勢としては互いに争わない。特に米国では争わない。争うとすれば、米国あるいはその他の国の企業。日本の自動車会社の特許訴訟での知見を一か所に集めておけば、他の自動車会社にとって参考になる。また、その法律事務所に、訴訟の経験が蓄積される。これが狙い。

米国特許の価値は日本特許より比較にならないほど大きい。理由は簡単。訴訟に費用がかかるから。必ずといって良いほど和解になる。実は、判決まで行く比率は、日本の方が高いくらい。米国では96%強も和解になる。ディスカバリー等のお金のかかるシステムが、和解に至る要因となっているようだ。

一方、出願系は、訴訟系と違い、一箇所に絞らない。米国では、弁護士の移動が激しい。企業が出願を依頼するのは、法律事務所ではなく、弁護士個人と考えている。

-中国-
中国は、米国と並んで重要な国。特許出願等もたくさん行ってきている。中国は、2020年以降、電気自動車に注力することを発表。しかし、当面は、電気自動車に完全置換しないと読んでいる。

ただし、国のトップの言動には注意を要する。何が起きるかわからない。電気自動車に大きく舵をきっても対応できるようにしておくことが重要。

(3)感想
講師は、高齢ではあるが年齢を感じさせないタフな方である。講演後に夕食まで2時間以上あったため、講師と雑談する機会を得た。雑談中、ほとんどの時間、講師は話しっぱなしであった。講演時間を含めると4時間以上にのぼる。商標に関するおもしろい話もあったが、ここでは話せないので、省略させていただいた。出願系、訴訟系の両方の知見をたくさん持っている方で、大変参考になった。この場をかりて御礼を申しあげたい。

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2.ドイツのBioMの紹介   プロジェクトマネージャー 橋口 恵

ドイツのミュンヘンにあるバイオテクノロジー・クラスターの管理組織であるBioM Biotech Cluster Development GmbH (以下、「BioM」という)でプロジェクトマネージャーとして働いている橋口です。日本で遺伝学分野の博士号を修得した後、自分の専門分野(ゼブラフィッシュを用いた初期発生の研究)で非常に興味深い研究を行っているアメリカの研究室でポスドク生活を楽しみました。その後、老化に興味を持ちドイツにある老化生物学研究所でポスドク生活を送りました。線虫を用いて発生・老化をテーマに研究を行っていたのですが、諸事情から研究を辞める決意をし、去年の1月に現職に就きました。

今年の夏にミュンヘンで開かれた起業家支援組織のネットワーキングイベントに参加した際に、欧州特許弁理士のマティアス・シェーファー氏と知り合い、シェーファー氏と長年ご親交のある長谷川弁理士様をご紹介いただきました。

今月から不定期に、主にミュンヘン/バイエルン州のバイオテクノロジー・クラスターのことについて情報を発信させていただこうと思います。直接、知財に関係ある話題は少ないとは思いますが、どうぞよろしくお願い致します。

今月は、まずミュンヘンのバイオテクノロジー・クラスターについて簡単にご紹介させていただきます。ミュンヘンには、ミュンヘン大学、ミュンヘン工科大学、マックス・プランク研究所、フラウンホーファー研究所、ヘルムホルツ研究所など非常に優れた学術・研究機関が集積しています。また、ミュンヘン大学附属病院 (約2000床)やミュンヘン工科大学附属病院 (約1160床)、イザール・クリニック(約240床)では臨床試験を行うことが出来ます。これらの環境を活かして学術・研究機関で生み出された成果を元にバイオ医薬品や製薬の開発を目指した起業の波が起こり、現在、地域には約270の企業が存在しています。

クラスター内で一年働いて思うのは、ライフサイエンス・医学関連の学術研究、病院や医療、人材、投資、バイエルン州政府からの支援、ネットワークなどクラスターの繁栄に結びつく色々な要素が揃っているな、ということです。経営が上手く行かず潰れてしまった企業もありますが、資金面も含めた州からの支援が整っていて、日本に比べるとこちらの企業は恵まれた条件で運営をしているな、という印象を受けます。

BioMもバイオテクノロジー・クラスターの企業を支えるために州の組織として運営していますが、次回は、その取り組みについてご紹介させていただきたいと思います。

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3.中小企業の知財戦略について(1)   オフ・カウンセル 弁理士 渡邉 秀治

私は、長年、大手企業や中小企業の社長さんや知財関係者の方と情報交換をさせていただいてきた。また、現在、知財ビジネス評価書の作成に係わり、また知財経営導入事業にも携わってきた。この両事業は、共に、中小企業を対象にしている。

このような中で、まず、知財ビジネス評価書に関係し、昨年訪問した6社の知 財戦略を下記する。また、次回以後に、その他の紹介をしたい。

A社:日本と外国(米国、仏など)での商標権保有。商標権と過去の社長の人的コネクションを使用して世界で日本固有の飲み物を普及させることが目標。会社は、10名程度の従業員。

B社:日本の特許権、商標権を保有。バイオ関係の会社で、タイでの販売をまず考えている。そこから世界へ。ノウハウがメインで特許はPR的に使用。従業員は、数名。

C社:日本国内の特許権のみ保有。設備汎用品の中のニッチ商品。元社長が発明者であり、故人になられてからは、新しい発明が出ていない。特許をうまく活用していない。従業員は、10名程。

D社:国内外の特許権保有。商売は、日本がメインだが海外との取引も少なからずあり。ライバルは、外国技術導入であり、住み分けをしている。現在の売上に、特許が効いているか分からない状況。ノウハウもかなりのウエイトを占めている。従業員は、20名ほど。

E社:日本の特許権、商標権を保有。インフラ関係(コンサル+施工)であり、公的機関での認定に特許を活用。また、組合設立し、会員へ特許を開放。従業員は、数名。

F社:商品は未だ市場に出ていないが、国内外の特許権取得。海外は、欧米主要国で、現在までの特許取得コストは、2千万円を超していると想像される。差別化には、ノウハウも大きく効いてくると思われる。商品は、インフラ関係の強化薬剤。従業員は、数名。

6社を見ると、すべてユニークな企業であり、また意外にもノウハウが強みとなる企業が多い。知財権をうまく活用している企業は、半分ほど。知財権を重視している企業は、各種の知財(ノウハウ)や知的資産(人的コネクションなど)においても、かなりのレベルであることが多い。