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HASEGAWA IP Small Talk 5月号(2017年)

   

1.欧州統一特許裁判所のオプト・アウト

2.知財戦略の立案

発行: 長谷川国際特許事務所

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1.欧州統一特許裁判所のオプト・アウト     所長・弁理士 長谷川洋

先月下旬(4/27)に、欧州特許弁理士のマティアス・シェーファー氏が日本を訪問し、株式会社プロパティ主催の欧州統一特許関連の講演を行った。当方は、通訳及び解説の立場で講演のサポートを行った。今まで、各国の思惑もあって制度運用開始が遅れていたが、いよいよ今年12月から制度が開始する確率が高まった。イギリスの国民投票によってEU離脱という衝撃的事件もあったが、イギリスが今年6月(若しくは7月)に批准するとの意向を示したことから、いよいよ制度運用開始が現実味を帯びたわけである。

欧州統一特許は、3つの柱から成る。1つ目は、単一特許登録の制度である。2つ目は、統一裁判所の制度である。3つ目は、自動翻訳の制度である。統一特許裁判所の制度では、一定期間、その制度の適用除外の申請が可能である。
これを、オプト・アウトと称する。今回は、オプト・アウトに絞って記載したい。

(オプト・アウト)
EPOを通じて特許が登録されると、(A)現在の欧州特許(指定国ごとに特許権が発生)か、あるいは(B)新規の統一特許(所定の指定国に共通の特許権が発生)かを選択する機会がある。
(B)を選択した場合には、所定の指定国に関しては1つの特許権が発生するので、特許権者が権利行使する場合あるいは第三者が特許無効を求める場合には、統一裁判所が管轄となる。この場合には、オプト・アウトの余地は無い。
一方、(A)を選択した場合には、今まで通り、各指定国の単位で特許権が発生する。この場合には、オプト・アウトの申請をするかどうかで、その特許権に基づく権利行使と無効を争う方法が異なる。(A)を選択し、かつオプト・アウトを申請しない場合には、(B)と同様、権利行使と権利の有効/無効については統一裁判所が管轄する。この点は、誤解している方も多いと思う。統一裁判所は、(B)の新規の統一特許のみを管轄するわけではない。(A)の現在の欧州特許も、原則、管轄する。このため、(A)の選択+オプト・アウト申請を行わない限り、欧州特許は統一裁判所行きとなる。

統一裁判所の制度は、権利行使を行う者にとって魅力的な部分もあるが、何といっても特許無効と判断されるとその効力が複数の指定国に及んでしまうという欠点もある。これを防ぐには、(A)の選択+オプト・アウト申請しかない

オプト・アウトは、移行期間から一定期間(運用開始から7年の予定だが、さらに7年延長される可能性もあり)、その申請を受けられる。ここに2つの誤解がある(誤解していない方はご容赦)。

1つは、オプト・アウトした特許は、7年経過後に統一裁判所の管轄案件になるという誤解である。そうではなく、7年以内にオプト・アウト申請さえすれば、特別な事情が生じない限り、その特許の存続期間が満了するまで、統一裁判所の管轄外におかれるのである。ただし、例外的に、統一裁判所の管轄になってしまう場合が有るというだけである。そして、一旦、統一裁判所の管轄になると、二度と、各国裁判所の管轄には戻れない。

もう1つは、オプト・アウトの申請は、欧州統一特許制度の運用開始(今年12月の予定)から7年間(前述のようにさらに7年延長の可能性もあり)に限って認められるという誤解である。そうではなく、運用開始前3月間(これを、“sunrise period”と称する)も、オプト・アウトの申請が受け付けられる。これは、競業の第三者が、邪魔だと思う他者の欧州特許を統裁判所の管轄にするために、無効訴訟あるいは差止請求権不存在確認訴訟を統一裁判所に提訴し、他者(=特許権者)のオプト・アウトの効力を消してしまう恐れがあるからである。特許権者の立場から言えば、重要な特許ほど、統一裁判所の1つの判断で複数の指定国に存在する特許を全滅させたくないものである。しかし、第三者の立場から言えば、その重要な特許を一発で全滅にしたい。そのため、欧州統一特許裁判所がスタートしてすぐに、先に述べた無効訴訟あるいは差止請求権不存在確認訴訟を提起すれば、その特許は統一裁判所の管轄になり、その後にオプト・アウトの申請があったとしても、却下となる。このような第三者からの攻撃を防ぐのが、sunrise period中のオプト・アウトの受け付けである。これは、予想であるが、欧州の複数指定国で特許を取得している企業あるいは個人は、統一裁判所行きを防ぎたければ、sunriseperiod中にオプト・アウトの申請をすることをお勧めする。この期間は、多くの申請でごったがえすことになると思う。

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2.知財戦略の立案         オフ・カウンセル 弁理士 渡邉秀治

当方、去る5月18日に株式会社情報機構のセミナー講師として東京にて知財戦略の策定などに関して講演をした。その中で、聴講者18人の方に、近々に、知財戦略を立案する必要があるか否かを聞いたところ、6割近くの方が「近々に作成しなければならない」とされた。また、外国出願の状況をお聞きしたところ1人の方が、日本出願するものは、全件、外国出願するとされ、5~7割程度は外国出願するという方が20~30%、2~4割程度を外国出願するという方が最も多く、40%程度であった。

講演の中で、知財戦略を打ち立てるための方法として、「SWOT分析⇒クロスSWOT⇒SWOT分析」という方法を説明した。講演の中で、このSWOT分析以外の良いマップなどが無いかの質問があり、他の方法を1つ説明し、詳細はメールにてお送りするとしたところ、講演後、他の複数の方から、「私にも送ってください」との要請があった。

そこで、要望があった皆さんに、ビジネスモデルキャンパス、バランスト・スコアカード及び知的資産経営報告書に使用される「事業価値を高める経営レポート」に関するものをお送りした。私自身は、特定の知財を中心として考える場合でかつ中小・中堅企業向けには、ビジネスモデルキャンパスが良く、大手企業の知財部門の方が戦略作成に慣れるためには、特定の事業を対象に、「事業価値を高める経営レポート」を作成するのが良いと考えている。中堅以上の企業の知財戦略策定には、私が講演の中で説明した「SWOT分析⇒クロスSWOT⇒SWOT分析」の方法が良いと思っているが、この方法の場合、最初に、まず3C分析や5F分析(5 Forces Analysis)を行い、その後、最初のSWOT分析を行うようにすると、最初のSWOT分析がやりやすくなるのではと思っている。

今回の講演で驚いたのは、聴講者の全員が「知財金融」、「ビジネス評価書」、「知的資産経営報告書」の各言葉自体を知らない、とされたこと。私には、のすごく馴染みがあるものばかりであり、かつ「知財金融」にわずかながらだが関与し、「ビジネス評価書」には非常に関与している身としては、もっともっとPRし、知ってもらう必要があると感じた。

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