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1.「欧州でコンピュータプログラムの特許は取得できるのか?」
2.知財戦略の肝-中小、中堅企業こそ知財戦略構築を
3.過去のメルマガリスト
発行:長谷川国際特許事務所
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いきなりですが、問題です。
(問題)日本、中国、米国および欧州(ここでは、欧州特許庁とします)におけるコンピュータプログラム自体(記録媒体も含まない)の特許取得可否について、正しい組み合せはどれでしょうか?
取得可:○、不可:×とします。
(1)「日本」「欧州」⇒○。「米国」「中国」⇒×。
(2)「日本」「欧州」「米国」「中国」⇒○。
(3)「日本」「米国」⇒○。「欧州」「中国」⇒×。
この問題の正解率は意外と低いと予想しますが、どうでしょうか?
答えは、(1)です。
欧州で取得可?あるいは米国で取得できない?といった声が聞こえてきそうな気がします。ご批判も覚悟で、以下、話を進めます。
日本では、特許法第2条第3項にて、コンピュータプログラムを物の発明に含めるように定義していますので、コンピュータプログラム自体の特許を取得できます。
では、中国ではどうでしょうか?中国では、専利法25条第1項各号に列挙される不特許事由の中に、コンピュータプログラムが含まれています。このため、コンピュータプログラム自体の特許を取得できません。さらに付言しますと、当該プログラムを格納した情報記録媒体という形式でも、特許を取得できないということが審査指南(日本でいう審査基準)に記載されています。
次に、米国について述べます。なんでも特許対象になる寛容な国というイメージがありますが、コンピュータプログラムそのものに関しては、意外と、日本より厳しいのです。米国のMPEP Sec.2106.01(注1)では、コンピュータプログラムそのものの特許性が否定されています。ただし、中国と異なり、情報記録媒体を含めた形では特許を取得できます。なお、情報記録媒体なしで、コンピュータプログラムそのものでも特許が成立している若干の例もあるという噂もあります(おそらく過誤登録)。これを聞いて、私も「若干の例」を探してみましたが、残念ながら見つかりませんでした。複数の米国代理人にも聞いてみましたが、コンピュータプログラムそのものでは特許を取得できないということでした。「若干の例」というのは、もしかしたら都市伝説かもしれません。
最後に、欧州です。
欧州では、非常に不明確な状態(グレーな状態)にあります。欧州特許条約(EPC)第52条(2)には、特許対象外として、①「発見、科学理論、数学的方法」、②「美的創造物」、③「精神的活動、ゲーム又は事業に関する計画、法則若しくは方法、ならびにコンピュータプログラム」、④「情報の提示」が記載されています。この条項だけを見れば、コンピュータプログラムの特許性は認められていない、と思うかもしれません。
しかし、IBM審決(T1173/97 IBM,1998年)(注2,注3)において、コンピュータプログラムそのものの特許性が認められました。
この審決では、前述のEPC第52条との矛盾が争われました。しかし、審判部は、技術的特徴のあるコンピュータプログラムは特許性があるとの斬新的な判断を下しました。審判部は、「技術的特徴」の有無について正確な定義を明言することを避けましたが、ハードウェアに影響を与えるもの、例えば、ロボットの制御用プログラムなどは技術的特徴がある代表例のようです。したがって、欧州では、どんなコンピュータプログラムでも特許性があるというわけではなく、限定付きで特許性があると理解した方が良いでしょう。私が調べたところ、EP2226987B1、EP2256930B1において、コンピュータプログラムそのものクレームで特許が成立しています。余談ですが、上記審決の後に、特許対象外を規定するEPC第52条(2)から「コンピュータプログラム」を削除する法改正が検討されましたが、いくつかの国からの反対があり、結局、否決されました(注4)。よって、EPC第52条(2)と、IBM審決に基づく実務とに矛盾が生じているのです。これが、欧州特許庁でのコンピュータプログラムの特許性について不明確になっている元凶です。しかし、実際に登録例がありますので、欧州では登録不可と思っている方は、今までの固定観念を捨ててみては如何でしょうか?
(注1):https://www.uspto.gov/web/offices/pac/mpep/s2106.html
(注2):https://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/shingikai/pdf/tizai_housei2/1306-044_09.pdf
(注3):https://www.epo.org/law-practice/case-law-appeals/recent/t971173ex1.html
(注4):https://www.jetro.go.jp/world/europe/ip/archive/pdf/news_002_4.pdf
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当方、過去(企業勤務時代)から企業の知財戦略には関心が高かった。事務所経営時代は、少し遠ざかっていた。今、三菱UFJリサーチ&コンサルティングに非常勤として勤務させていただいてからは、再度、知財戦略(知的資産経営)に係るようになってきた。以下に、当方の考えを下記させていただく。
知財戦略は大手企業のもの、という考えは、厳しい環境下の企業にとっては誤り。なぜなら、以下のような時代だから。
①ライバルの中小、中堅企業がやっていないから、やった者が勝つのである。
②知財には、技術ノウハウ、会社のブランディング、顧客名簿などの営業秘密などが含まれ、「・・権」という権利だけではなくなってきている。
③グローバル化の中、競争相手は、世界の企業。何で勝つのか? 設備は金があれば、購入できる。日本の長寿企業の多くが知的資産を重要視して経営してきた事実がある。
「知財戦略のチェックポイント」
知財は、会社の他の目標や戦略と連動するものであり、下支えをするものである。ライセンス収入が多い会社は、衰退期に入っているとみなしても、それほど間違いではない。知財戦略は、知的資産(会社の仕組み、社長のコネクション、人事システム、技能、特許権、ノウハウ、顧客名簿など目に見えない資産で、企業の競争力の源泉となるもの)を蓄積・強化するものでなければならない。知財戦略の具体的なチェックポイントは、以下のとおり。
①各会社のHPには、社長あいさつが記載されている。知財戦略は、その内容に連動するものであるか?
②会社の強みを強化し、弱みを補てんするものか?
③業界での位置づけ、ユーザーの貴社へのニーズを把握し、明確化しているか?
④現在の重点商品(売上げトップ)と、今後の重点商品(最も力を入れる物)との関係が示されているか?
⑤各商品(少なくとも売上トップ3)の売り上げ割合、利益割合をどのようにしようとしているか?
⑥今年度、来年度の全社目標、全社中期目標と連動するものであるのか?
⑦全社戦略、技術戦略、販売戦略と連動するものであるのか?
⑧扱い商品のサプライチェーン(仕入れ先、下請け先、販売先など商品の流れが分かるもの)を考慮したものか?
⑨インターネットが普及した現在では、ブランンディングの基本は社内教育。社内ルール、社内教育を基礎としたブランディングを行っているか?(いくら知財戦略や外向けのブランディングを行ったとしても、社員や元社員が、会社の闇の部分や悪い所をツイッターでつぶやけばすべておじゃん)。
⑩知的資産を蓄積・強化するものであるか?
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