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HASEGAWA IP Small Talk 6月号(2016年)

1.英国代理人との雑談・・・2回に分け掲載

2.シンガポール特許あれこれ

3.弁理士・渡邉秀治氏の顧問就任

発行:長谷川国際特許事務所

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1.【英国代理人との雑談】

「項目」
(1)Tim氏とは・・・今月号
(2)JA KEMPについて・・・今月号
(3)雑談その1~イギリスEU離脱の場合の欧州統一特許&統一裁判所の発効開始への影響・・・今月号
(4)雑談その2~ドイツとイギリスとの対比について・・・次月号
(5)雑談その3~日本の感想・・・次月号

「詳細」
今年6月、日頃から業務上のお付き合いのあるJA KEMP(http://www.jakemp.com/en )という英国の知財総合事務所のDr.Tim Duckworth(以後、Tim氏)が弊所を訪問した。Tim氏は、毎年、春又は秋に1回、弊所に来て大量のプレゼンテーション資料を置いていき、その内の一部について30分程度のプレゼンテーションをする。今回の来日目的は、AIPPI・JAPANでの講演と、日本の顧客(弊所もその一つ)訪問である。

(1)Tim氏とは
Tim氏は、欧州特許弁理士と英国弁理士資格とを有する化学・バイオ専門の代理人である。年齢は、訊いてはいないが、経歴から推測すると55歳くらいだろう。Tim氏は、ケンブリッジ大学でPhDを取得後、企業経験を経ずに、知財総合事務所に入所。今年で知財経験27年になるという。JA KEMPの前に他の事務所で勤務していたかどうかは訊き忘れたが、勤務経験のほとんどはJA KEMPのようだ。現在、化学・バイオ部門のリーダであり、事務所のパートナーでもある。この事務所では、60歳定年制を採用していたが、最近、もう少し延びたとのこと。

(2)JA KEMPについて
JA KEMPは、Tim氏曰く、英国の巨大法律事務所と比べると小さいが、知財を専門に扱う事務所では、英国において10本の指に入る大きさであるという(少し得意げに)。JA KEMPでは、おおよそ全技術分野に対応可能であるが、特に、化学、医薬、バイオ系に強いとのこと。

(3)雑談その1~イギリスEU離脱の場合の欧州統一特許&統一裁判所の発効開始への影響
2016年6月23日に、イギリスのEU離脱についての国民投票が行われる(このメルマガをご覧になるときには投票が終わっているかもしれない)。もし、投票の結果、EU離脱の賛成票が多かった場合、2017年春に発効を予定している「欧州統一特許&統一裁判所」は予定通り発効するのか?と質問してみた。
Tim氏は、以外に楽観視していた。EU離脱が決定するには、投票後から数年かかる。その間に、「欧州統一特許&統一裁判所」は発効するだろう。しかも、EU離脱は、欧州だけの問題に留まらず、米国にも影響がある。現在、オバマ大統領は、キャメロン首相と、この問題について協議しており、おそらく離脱には至らないのでは?とのこと。
そこで、私から以下の意見。
しかし、イギリスは、EU加盟国ではあるが、いろんな点で他のEU加盟国からは距離をおいている。最も顕著なのは、英国通貨(ポンド)の維持と、シェンゲン協定(ヨーロッパの国境を越えた自由往来を認める協定)への非加入である。
イギリスは、EUよりも米国に親近感を持っているのでは?
Tim氏はこう主張する。イギリスが米国と親しいのは否定しない。しかし、イギリスがEUから離脱した場合に損をするのはイギリスである。EUも、イギリスが離脱すれば損をする。そう考えると、イギリスは、EU離脱を選択しないはず。
仮にイギリスがEUから離脱した場合、おそらく、そのときには「欧州統一特許&統一裁判所」は発効しているだろう。イギリス、ドイツ、フランスの三カ国の内の一国が抜けるので、運用面で大きなブレーキがかかるかもしれない。しかし、一旦、この制度がスタートすると、修正しながらでも進行するだろうと。

2.【シンガポール特許のあれこれ】

4月下旬、3泊4日でシンガポールに行ってきた(今回で2回目)。現地代理人訪問と観光である。今回は、その折の話を含め、シンガポールの知財動向について紹介したい。
(1)シンガポールについて
シンガポールは、東京23区程度の国土に、東京23区の住民数の約60%に相当する人口(約550万人)をかかえる都市国家である。国土の狭さは、世界で180位(ちなみに、最下位201位はバチカン市国)であるが、平均所得は日本を抜いている。シンガポールは、現時点ではASEAN第一位の経済国である。
10年前から、シンガポールとマレーシアの両政府は、マレーシアのシンガポールとの対岸に位置するジョホールバル州に、教育・経済の特区を建設する一大プロジェクトを行っている(イスカンダル計画)。非公式ではあるが、マレーシアからシンガポールに流れ込む就労者を食い止める目的があるとかないとか。シンガポールは、資源にも土地にも恵まれていない点で、日本と共通する。エネルギーや食糧を輸出しあるいは大きな工場を建設して自動車や精密機械を輸出して外貨
を稼ぐことも難しい。かつては運輸・交通におけるアジアの中継点としてのシンガポールは、香港にその地位を譲りつつあり、専ら紙と鉛筆で、いや現在ではPCで外貨を稼ぐ国と言っても良い。このため、金融・保険・商社で働く俗に言うホワイトカラーが、一生懸命に金を稼いでいる。そんなシンガポールだからこそ、知的財産権でASEANの覇者になろうと考えるのは当然と言えば当然である。今年3月末に、東京で、シンガポール知財庁長官他数名が、日本の特許庁主催で、シンガポールの特許戦略をスピーチした。このスピーチの感想は、聴講者によって異なると思うが、私は、個人的には、今回の講演の目的が「シンガポールは知財でASEANの中心になるから、もっと出願してください。」との一種の売り込みであると解釈した。

(2)2017年1月1日からの自動登録制度の廃止
「自動登録」というには語弊があるが、シンガポールでは、長らく、自国での実体審査を経て特許を許可する制度と、先進国での特許成立をもって自国で実体審査をせずに特許を許可する制度との2つの制度を有していた。
しかし、シンガポールは、来年、後者の制度を廃止することを発表した。これによって、2017年1月1日及びそれ以降の出願日を持つ特許出願は、例外なく、シンガポール知財庁の審査官による実体審査を経なければ特許されないことになる。PCT出願の場合には、優先日がいつであってもPCT出願日が2017年1月1日又はそれ以降であれば、シンガポールで審査される。もし、従来通り、先進国の特許成立を条件に実体要件無審査にてシンガポール特許を得たいなら、シンガポールへの直接出願あるいはPCT出願(シンガポールを指定する前提)を今年2016年12月31日までに出願しなければならない。詳しくは、下記URLの情報を参照。

http://dentons.rodyk.com/en/insights/alerts/2015/october/1/singapores-patents-regime-is-set-to-change-again

(3)第一国出願制度
シンガポールは、シンガポールで生まれた発明については許可なく国外で特許出願することを禁ずる国の一つである。このような制度を持つ国は、意外と多い。
米国が最も有名であるが、アジアで言えば、例えば、中国、インド、マレーシアもそうである。ただし、国ごとに、その制度に違いはある。
シンガポール特許法第34条は、国籍を問わず、シンガポールの居住者がシンガポール国内で発明を成した場合には、シンガポール知財庁の許可を得てから外国に出願するか又はシンガポールに最初に特許出願しなければならない旨を規定する。これに反して特許を取得すると、罰金及び/又は2年以下の禁固に処せられる可能性がある。「禁固」まで法律で定める点は、さすがに厳しい国である。
詳細は、下記URLの情報を参照。

https://www.globalipdb.jpo.go.jp/laws/8488/

このため、シンガポールに関連会社や工場がある場合、その関連会社等の従業員が発明をなして、シンガポール以外の国で最初に特許出願しようとする場合には、要注意である。現地の弁護士あるいは弁理士に確認をして対応するのが賢明である。

(4)ASPEC
シンガポールは、ASPECという東南アジアの特許審査協力プログラムに参加している。現在、タイやベトナムでは、特許出願(あるいは出願審査請求)から5,6年経過しても未だ審査が始まらないといった審査遅延の問題が深刻化している。
シンガポールは、東南アジア(ゆくゆくはアジアのハブというが、中国を差しおいてハブになるのは難しいと思う)の知財ハブとして機能するという構想をもっており、シンガポールをゲートウェイに早期に特許を得れば、タイやマレーシアでも早期に特許を取得できるようにすると主張。ただし、日本の特許業界は、これには冷めた目で静観しているのが現状のようである。日本と東南アジア諸国との間ではPPHの締結を拡大している。日本でいち早く特許査定を得、あるいはPCT出願後の国際調査報告書及び見解書にて特許性について肯定的な見解が得られるなら、それを利用して、東南アジア諸国に個別にPPHを請求する方が早期権利化できるとの考えからである。ASPECルートが良いか、PPHルートが良いかは、今後の推移を見ていきたい。

3.【弁理士・渡邉秀治氏の顧問就任】

今年4月1日から、弁理士・渡邉秀治氏(以後、渡邉氏)が弊所の顧問に就任した。渡邉氏は、当方の前職場における上司であり、約20年のお付き合いになる。当方が1997年に弁理士の登録をしてからこの業界で何とかご飯をたべられるようになったのも、渡邉氏のおかげである。昨年冬、渡邉氏より当方に連絡があり、雑談の中で、現特許事務所を退職するとの話があった。当方は、事務所創立から常に先頭を走って発展させてきた事務所も、今や独り立ちできるようになり、肩の荷が降りたのだろう、と解釈した。
弁理士は、誰でも得意分野というのがある。特許が得意、その中でも特許出願書類の作成業務が得意、中小企業さん向けの発明発掘が得意、商標が得意などなど。 渡邉氏は、得意・不得意の落差がなく、いわゆるバランスが良い方だと、当方は思っている。また、渡邉氏は、当方の持っていないいろんなスキルを持っている。 著作権、契約、訴訟などがそれである。
著作権に関連して、渡邉氏と当方が対応したある案件について、当方が今でも印象に残っていることをご紹介したい。ただし、ある程度、黒塗りした話になってしまう点をご容赦いただきたい。
ある日、某企業(企業A)から次のような依頼があった。企業Aの担当曰く、九州の個人Bより著作権侵害の警告を受けているが、どうしても解決できないので、相談にのってほしいという。企業Aは、クリスマスの時期に多く売れる商品を販売しているのだが、個人Bから警告を受けたとのこと。特許事務所が企業Aに代わって個人Bに警告への回答を行った後、個人Bが我々に直接会いたいと申し込んできて、個人Bが事務所に来ることになった。個人Bは、言葉こそ荒々しくはないが、態度・風体からして、普通の個人ではない雰囲気を持っていた。個人Bは名刺を出してきたが、その名刺を見ると、部落関連団体の代表のような肩書であった(こちらが怯むことを意図して名刺を出してきたと思う)。個人Bは、自分は著作権登録をしており、企業Aの商品はその著作権を侵害していると一貫して主張していた。何が著作権登録されているのかを見ると、どうも、ある文章について著作権があるようであった。このため、企業Aの商品が著作権侵害になるとの個人Bの主張は、全く的外れであった。
しかし、渡邉氏は、個人Bの著作物というのが何なのか、企業Aの商品と個人Bの著作物との関係(=関係ないということ)をゆっくりと、懇切丁寧に、個人Bに説明した。当方であれば、個人Bの凄みに圧倒されるか、あるいは個人Bの著作権と企業Aの商品とは全く関係ないという一点張りで個人Bに早々とお引き取りいただくところであった。しかし、渡邉氏は、著作権について、素人である個人Bにわかりやすく時間をかけて説明した。個人Bは、だんだんと態度を柔和させていき、ついには、自分の主張が見当違いであると納得し、お詫びを言って事務所を退出していった。このとき、当方は、いかに説明というものが大切か、しかも上からではなく同じ目線で説明することが大切か、勉強になったことを記憶している。
これは一例に過ぎないが、渡邉氏の今まで培ってきた種々のスキルは、弊所にとっては非常に有益であり、今回、弊所の顧問就任を渡邉氏にお願いしたところ、快諾をいただいたという次第である。今後、弊所のお客様との打ち合わせの際にも同席頂く機会があると思っている。

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