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米国商標近代化法の概要

1.商標近代化法の経緯

 2020年12月27日、米国において、2021年統合歳出予算法(Consolidated Appropriations Act. 2021)が成立した。同法には、2020年商標近代化法(Trademark Modernization Act of 2020)が含まれている。商標近代化法は、迅速な権利化と、不使用の登録商標の排除とを主目的とする法律である。特に、この法律は、某国からの大量の商標出願・権利化に対抗するものと考えられる。

2.商標近代化法の施行日

(a)下記(b)を除く改正事項: 2021年12月18日

(b)オフィスクションへの応答期間の変更: 2022年12月1日

3.商標近代化法の概要

 3.1 査定系取消手続(ex parte expungement)の導入

 査定系取消手続は、商標登録後、指定商品又は指定役務の一部又は全部に一度も使用されたことがないことを理由に、米国特許商標庁(USPTO)に商標登録の取消を求める手続である。従来より、USPTOの審判部に対して、登録商標の不使用を理由に商標登録の取消を求める当事者系取消審判の制度は存在していた。しかし、上記当事者系審判は裁判手続に近似しており、結論がでるまでに長期化し、コストも高いことから、あまり利用されてこなかった。

 近年、外国からの商標の出願が多く、かつ本来取り消されるべき商標登録も多い現状を踏まえ、当事者系の取消制度に加え、査定系取消制度を新設するに至った。

 (1)請願期間

 商標登録日後3年~10年の間に、USPTO長官への請願(Petition)という形式で請願可能である。ただし、2023年12月27日までは、商標登録から3年以上経過している限り10年を超えていても請願可能である。

 (2)申請人適格

 何人とも請願できる。匿名も可能である。ただし、USPTO長官は、濫用防止の観点から、申請人の情報を明らかにすることを求める裁量権を有する。USPTO長官自身も請求可能である。

 (3)費用

 取消の申請人は、取消対象のクラス毎にUSD 400の庁費用を支払う必要がある。

 (4)請願書への記載

 請願書には、商標権者の使用についての請求者による合理的な調査の説明、不使用をおおよそ裏付けるための証拠を含める必要がある。

 (5)審理期間

 商標権者は、3カ月間の指定期間内に、登録商標の使用の証拠、宣誓供述書等をUSPTOに提出し、不使用の申し出に対して反論可能である。使用を証明できないと、指定商品・役務の一部又は全部につき取り消される。

 (6)留意点

 日本の個人又は企業が米国で商標登録を受ける場合、本国である日本の商標登録に基づき出願するケースや、マドリッド・プロトコルに基づく国際登録出願にて米国を指定するケースもある。これらのケースでは、出願時および登録査定時に現実に商標を使用していなくとも、米国で商標登録を受けることができる。商標権者は、米国の登録から5年目~6年目の間に、登録商標の使用の宣誓書を提出する必要はあるが、従来は、当該宣誓書を提出する時期までは、登録商標を使用していなくとも登録を維持できた。

 しかし、商標近代化法の施行後は、商標登録から3年経過した商標権に対して他人がUSPTOに対して査定系取消の請願を行う可能性がある。すなわち、商標登録から3~5年の間に不使用取消の請求が発生するリスクがでてくる。商標近代化法は、外国商標登録に基づく米国登録及びマドリッド・プロトコルに基づく国際登録出願経由での米国登録に関しては、特例を設けている「(37CFR§2.93(b)(5)(ii)」。この特例によれば、商標権者が特別な状況で不使用であった理由と証拠を提出すれば、商標登録の取消を回避できる。

 日本の個人や企業は、上述した理由と証拠が提出できないと、使用の宣誓書を提出する時期の前に商標登録が取り消されてしまう可能性がある点に留意すべきである。また、上記米国登録が使用を基礎として登録を受けている場合には、特例の適用すらないことにも留意すべきである。

 3.2 査定系再審査手続(ex parte re-examination proceeding)の導入

 (1)請願期間

 商標登録日後5年以内に、USPTO長官への請願(Petition)という形式で取消請求可能である。

 (2)申請人適格

 上記3.1 査定系取消手続と同じ。

 (3)費用

 上記3.1 査定系取消手続と同じ。

 (4)請願書への記載

 上記3.1 査定系取消手続と同じ。

 (5)審理期間

 上記3.1 査定系取消手続と同じ。

 3.3 商標部(TTAB)の取消理由の新規追加

 当事者系取消手続きは、従来通り、USPTOの商標部に請求することにより行われる。ここで、取消理由には、商標登録後3年間一度も、登録商標が指定商品又は役務に使用されたことがないことが追加される。請求人は、商標登録後3年経過後であれば、いつでも請求できる(15USC1064(6))。

 従来から、他人の登録商標により損害を受けた者は、USPTOの商標部(TTAB)にその商標登録の取消を求めることができる。取消事由としては、詐欺、一般名称化、放棄、認証マークの管理不能(いつでも取消請求可能)の他、類似混同による損害(商標登録から5年以内に限る)などがある。不使用は、明文化されていないが、類似混同による損害と同様、商標登録から5年以内であれば取消請求可能である。

 今回の商標近代化法では、不使用取消の強化の目的から、上述の取消事由に加えて、商標登録から3年経過後であれば(商標登録から5年経過後であっても良い。)、「登録商標が全部或いは一部の指定商品役務において今まで米国市場で使用されたことがない」ことを理由に取消請求が可能となった。費用は、取消対象のクラス毎にUSD 600である。なお、商標権者が不使用に関して特別な事情があることを証明できる場合には、登録の取消を免れることが可能である。

 3.4 情報提供制度の導入

 情報提供制度は、出願中の商標の登録性につき、何人とも証拠を提出して拒絶に導くようにできる制度である。この制度は、従来から非公式に認められていたプラクティスを法制化したものである。費用は、50ドルである。

 USPTOの長官は、情報提供から2カ月以内に情報提供について決定する義務がある。このため、情報提供の迅速な運用が期待できる。

 3.5 オフィスアクションへの応答期間の変更

 商標出願人(マドリッド・プロトコルに基づく国際登録出願の出願人を除く。)または商標権者は、USPTOからのオフィスアクションに対して、原則、3カ月以内に応答しなければならない。ただし、応答期限到来前に延長手数料125ドルを支払えば、1回に限り3カ月間の延長が可能である。

 従来は、オフィスアクションへの応答期間は、全て6カ月与えられており、応答期限の延長は認められなかった。USPTOは、これをあらため、応答期間を短縮して、有料で延長可能とすることにより、迅速な処理を実現できるようにした。

4.謝辞

 米国商標近代化法については、Hauptman Ham, LLPの米国特許弁護士・柿本礼奈様から助言いただきましたことをここに御礼申し上げます。

以上