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米国仮出願(U.S. Provisional Application)とは、優先権の基礎となる出願としての地位をもつ仮の出願であり、その出願日から1年以内に本出願を行うことを前提に先願の地位を付与する出願である(35 U.S.C. 111(b), 37 CFR 1.53(c))。
米国仮出願は、出願日を確定するのに十分な出願に相当するので、安価にて先願日をいち早く確定したい場合に有意な制度である。パリ条約は、正規の国内出願に基づく優先権を認めており、「正規の国内出願」を、結果の如何を問わず,当該国に出願をした日付を確定するために十分なすべての出願をいうと規定している(パリ条約第4条A(3))。米国仮出願は、仮出願ではあるが、日付を確定する出願である以上、パリ条約上の「正規の国内出願」に該当するため、米国仮出願を基礎とする他国への優先権主張出願が可能となる。
クレームを記載する必要が無く(35 U.S.C. 111(b)(2))、明細書としての記載方式を整える必要が無いので、例えば、研究報告書や技術論文をそのまま仮出願することもできる。ただし、当業者が実施可能な程度に記載されていることが要求される点に留意する必要がある(35 U.S.C. 111(b)(4) , 37 CFR 1.53(c))。
3.1)英語以外の言語(例えば、日本語)でも仮出願可能であるが、米国で本出願を行う場合には、本出願後に通知される翻訳文提出指令に対して、仮出願の英訳文を提出する必要がある(37 CFR 1.78(a)(5)(ⅳ)) 。
3.2)英語以外の他言語(例えば、日本語)で仮出願した後、米国以外の他国にパリ条約優先権を主張して出願する場合には、当該他国が優先権証明書の翻訳文を要求しない限り、翻訳文は不要である。例えば、日本語で米国仮出願後、日本にパリ条約優先権を主張した特許出願を行う場合には、当然、翻訳文は不要である(仮出願が日本語で記載されているから)。
また、日本語で米国仮出願後、欧州特許庁にパリ条約優先権を主張した特許出願を行う場合には、欧州特許庁は、優先権証明書を要求せず、かつ原則、仮出願の翻訳文も要求しない(EPC2000, A.37; R.53(3); R.52(1))。ただし、欧州特許庁の審査官は、仮出願の翻訳文を要求することができるので、その要求が有れば提出する必要がある。
3.3)英語以外の他言語(例えば、日本語)で仮出願した後、日本国特許庁にPCT出願(日本語)を行い、その後、米国に国内移行手続き若しくはバイパス継続出願を行う場合には、米国の国内手続きに入った際に、仮出願の英訳文が要求される。
3.3)で述べたように、英語以外の他言語で仮出願を行い、その後に米国で権利化を望む場合、将来、米国での国内手続き中に、仮出願の英訳が必要になる。このため、英語の論文等があれば仮出願を行うのが良いが、例えば日本語の資料(論文も含む)しかなければ、将来、米国で権利化する段階で仮出願の英訳費用が発生する。このため、日本語の資料しかない場合には、日本で特許出願する方が費用的には安くなる。
米国仮出願制度の長所と短所は、以下のとおりである。
(1)長所
・特許出願の準備が不十分でも、いち早く出願日を確保できる。
・クレーム(特許請求の範囲)は不要である(35 U.S.C. 111(b)(2))。
・宣誓書、IDS(情報開示申請)は不要
・如何なる言語で仮出願されても(もちろん、日本語でも)、仮出願の優先権に基づき本出願を行う限り、35 U.S.C. Sec.102(e)に規定される拡大された先願の地位による後願排除効が得られる(MPEP 706.02, MPEP 1896)。
・特許権の存続期間の終期は、本出願の出願日から20年であり、仮出願の出願日から起算されない。
(2)短所
・英語以外の言語で仮出願を行った場合には、本出願の出願日から4カ月若しくは仮出願の出願日から16カ月のいずれか遅い日までに、仮出願の英訳(直訳)と当該英訳が正確であることの陳述書とを提出する必要がある(CFR 1.78(a)(5)(ⅳ))。仮出願の内容と本出願の内容が同一であれば、余分な翻訳費用は発生しないが、仮出願の内容を一部変更あるいは当該内容に一部追加して本出願する場合には、本出願の英訳以外に、仮出願の英訳を用意する費用的負担が生じる。
・本出願のみを行う場合と比較すると、追加の費用が生じる分、費用が高くなる。
・仮出願といえども、その開示内容に実施可能要件が課されるので、充実した記載が求められる。