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Bilski 最高裁判決
Bernard L. Bilski, et al.
v.
David J. Kappos (USPTO 長官)
1.35 U.S.C. Sec. 101 に規定する方法の発明に該当するかを判断する基準として"Machine or Transformation Test"(機械・変換テスト)が妥当であるか?
2.ビジネス方法発明は、そもそも特許性を有するか?
3.Bilskiらの発明は、方法の発明としてSec.101の法定主題規定を満足するか?
・最高裁は、クレームの発明がSec.101に規定する方法発明に該当するか否かを判断するための基準として、機械・変換テストを唯一の判断基準とするCAFCの判示を否定した。
・最高裁は、ビジネス方法特許に対する抗弁として認められる先使用(35U.S.C. 273(b)(1))を根拠に、ビジネス方法自体の特許性は否定されないことを、確認的に判示した。
・Bilskiらの「リスクヘッジ取引方法」の発明は、抽象的なアイディアに過ぎないことを理由に、Sec.101条の法定主題(Subject matter)に該当しない(特許性がない)。
Bilskiらは、1997.04.10に、USPTOに対して、U.S. Patent Application Serial No.
08/833,892(892 patent application)を出願(Claim 1は、下記参照)。
Claim 1
A method for managing the consumption risk costs of a commodity sold by a commodity provider at a fixed price comprising:
(a)initiating a series of transaction s between said commodity provider and consumers of said commodity wherein said consumers purchase said commodity at a fixed rate based upon historical averages, said fixed rate corresponding to a risk position of said consumers;
(b)identifying market participants for said commodity having a counter-risk position to said consumers; and
(c)initiating a series of transactions between said commodity provider and said market participants at a second fixed rate such that said series of market participant transactions balances the risk position of said series of consumer transactions.
(商品供給者によって固定された価格で販売された消費リスクコストを管理する方法であって、
(a)歴史的な平均値に基づき消費者のリスクポジションに対応する固定されたレートで前記消費者が前記商品を購入する前記商品の前記商品供給者と前記消費者との間の一連の取引を始めるステップと、
(b)前記消費者に対するカウンターリスクポジションを持つ前記商品のマーケット参加者を確認するステップと、
(c)マーケット参加者の一連の取引が一連の消費者取引のリスクポジションをバランスさせる第二の固定されたレートで前記商品供給者と前記マーケット参加者の間の一連の取引を始めるステップとを含む。)
USPTOは、審査段階でSec.101違反で拒絶し、審判部も同様の理由で拒絶した。
Bilskiら出願人は、USPTO長官を相手に、CAFCに出訴。
CAFCは、ステートストリートバンク事件にて確率されたSec.101の判断基準である"発明が「有用、具体的かつ有形の結果(Useful, Concrete and Tangible Result)」を有するのであれば、特許性ある"との基準を否定し、新たな基準として、次の判断基準(機械・変換テスト)を提示した。
<機械・変換テスト>
クレームされた方法が特別な機械または装置に関係していること、または特別の物を異なる状態に変換していること上記テストの結果、Yesなら方法発明であり、Noなら方法発明ではない。
Bilskiらの発明は、上記のテストにおいてNoであるから、Sec.101における方法発明とは言えない。
争点1について
最高裁は、「機械・変換テスト」は有用な判断ツールであることを認めるものの、それを唯一の判断基準とするべきではないと判示した。35 U.S.C. Sec. 101に規定する"方法"は、process(方法)、art(技法)、method(手段)をいい、既知の方法、機械、製品、組成物又は材料の新規用途も含む旨、規定し、「機械・変換テスト」と結びつかない。技術の発展により、「機械・変換テスト」で判断するに適さない方法発明も生じうるのだから、かかる制限を課してはならない旨を判示した。
争点2について
35US.C.273(b)(1)は、第271条に基づく特許権侵害訴訟において、被疑者侵害者が善意で、当該特許にかかる有効な出願日より少なくとも1年以上前にその主題を現実に実施しており、かつ当該特許に係る有効な出願日前にその主題を商業的に使用していることは、抗弁であることを規定する。
この抗弁の目的につき、方法とは、事業を行う又は運営する方法と定義している。
すなわち、この抗弁を認める規定こそが、ビジネス方法の特許性を前提としている。
争点3について
最高裁は、Bilskiらの発明は、抽象的なアイディアの域を出ないものであり、Sec.101の法定主題を満たさないことを判示した。その根拠として、3つの事件を取り上げた。
(1) Benson事件(1972年)
クレームされた発明は、2進化10進法形式にあるデータを、純粋なバイナリデータ形式に変換するアルゴリズムに関するもので、Sec.101に規定する方法発明かどうかが争われた。
最高裁は、抽象的なアイディアにおける法則は、基本的な真理であり、発端であり、真意であり、特許されるべきではない旨を述べ、当該アルゴリズムに権利を付与すれば、完全に数学公式につき権利の先取りをさせる結果になる。よって、当該アルゴリズムは、Sec.101条でいう発明ではない。
(2) Flook事件(1978年)
クレームされた発明は、石油精製において、触媒変換プロセスのルーチンにおいて監視しアラームするために使用する数学的アルゴリズムに特徴のあるものである。アルゴリズム自体ではない点で、Benson事件と異なる。
最高裁は、数学的アルゴリズムを特定の分野に応用しただけであり、何ら特許性はない旨を判示した。よって、この方法もSec.101条でいう発明ではない。
(3) Diehr事件(1980年)
クレームされた発明は、硬化合成ゴムを製造する方法であり、コンピュータにより、硬化の際の温度を取得し、硬化完了の際の時間を算出するためにアルゴリズムを使用するものである。
最高裁は、抽象的なアイディア、自然法則、アルゴリズム自体は特許されないが、アルゴリズムを用いて合成ゴムを硬化するプロセスに保護を求めるものであるから、特許性があると判断した。
・ビジネス方法発明は、日本、欧州、中国では特許になりにくいが、米国では、それだけの理由で特許性を否定されない点で、特許になる可能性がある。
・最高裁がBilskiらの発明は抽象的なアイディアに過ぎないことを述べ、その理由を説明していないため、何をもって抽象的かは不明である。また、3つの最高裁判決を持ちだしているが、Bilskiらの発明がBenson事件(1972年)あるいはFlook事件(1978年)と類似し、Diehr事件(1980年)の具体性にまで至っていないことも明言していない。米国出願の際に留意できることは、抽象的な記載から、より具体的な記載までバラエティに富んだ複数の発明をクレームしておくことである。
・Sec.101の判断基準として現時点で有力なのは、ステートストリートバンク事件で判示された"発明が「有用、具体的かつ有形の結果(Useful, Concrete and Tangible Result)」を有するか否か"である。