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行き過ぎた特許不適格性にCAFCがブレーキ?

    

Rapid Litigation Mgmt. Ltd. v. CellzDirect Inc. (CAFC, 2016)

1.特許適格性の厳格化

米国特許法第101条は、発明の特許適格性を規定する。2012~2014年、米国最高裁は、ライフサイエンスおよびソフトウェアに関連する企業にとって極めて重要な判決を下したMAYO COLLABORATIVE SERVICES v. PROMETHEUS LABORATORIES, INC. (March 20, 2012)、ASSOCIATION FOR MOLECULAR PATHOLOGY v. MYRIAD GENETICS, INC. (June 13, 2013)及びALICE CORP. v. CLS BANK INT’L(June 19, 2014)がそれである。これらの判決は、自然法則、自然現象あるいは抽象的なアイデアを特許適格性なしと判断するものである。特に、創薬、バイオテクノロジ、遺伝子診断に関わる業界にとって、この判断は衝撃的であった。例えば、DNAは、単離されているか否かを問わず天然物とみなされ、特許性を否定された(人工的な処理を施したcDNAを除く)。

2.Mayo/Alice TEST

米国特許商標庁(USPTOという)は、上記米国最高裁判決を受けて、審査ガイドラインを改訂した。また、Mayo/Alice TEST(単に、Mayo TESTともいう。)は、特許適格性の有無を決める判断基準として定着した。当該TESTは、米国特許法第101条に規定する4つのカテゴリー(方法、機械、製造物若しくは組成物)に入るかどうかどうかを第1ステップとし、第1ステップにていずれかのカテゴリーに入る場合に第2ステップに移行するものである。一方、いずれのカテゴリーにも入らないならば特許適格性は無いと判断される。第2ステップは、さらに以下の2つの判断を行うステップである。

(1)クレームが司法例外物(自然法則、天然物、自然現象、抽象的アイデアなど)を含むか?

(2)上記(1)においてYESの場合、クレームが司法例外物の他に何か大きな相違点を含むか?

上記(1)(2)の判断の結果、クレームが司法例外物を含み、かつ司法例外物以外に何も大きな相違点を含まない場合には、クレームは特許適格性なしとみなされる。

3.特許適格性が認められたCAFC判決

(1)米国特許第7,604,929号のクレーム
2016年、巡回連邦裁判所(CAFCという)は、イリノイ州裁判所の判決を覆し、米国特許第7,604,929号のクレームの特許適格性があるとの判決を下した(Rapid Litigation Mgmt. Ltd. v. CellzDirect Inc.)。クレーム1は、以下の通りである。

1. A method of producing a desired preparation of multi-cryopreserved hepatocytes, said hepatocytes being capable of being frozen and thawed at least two times, and in which greater than 70% of the hepatocytes of said preparation are viable after the final thaw, said method comprising:

(A) subjecting hepatocytes that have been frozen and thawed to density gradient fractionation to separate viable hepatocytes from nonviable

hepatocytes,

(B) recovering the separated viable hepatocytes,

and

(C) cryopreserving the recovered viable hepatocytes to thereby form said desired preparation of hepatocytes without requiring a density gradient step after thawing the hepatocytes for the second time, wherein the hepatocytes are not plated between the first and second cryopreservations, and wherein greater than 70% of the hepatocytes of said preparation are viable after the final thaw.

(1.肝細胞を少なくとも2回凍結して融解することが可能であり、調製物の肝細胞のうち70%を超える細胞が最後の融解後に生存している、反復凍結保存肝細胞の所望の調製物を製造する方法であって、

(A)凍結して融解した肝細胞を密度勾配分画に付し、生存肝細胞を非生存肝細胞から分離し、

(B)分離した生存肝細胞を取得し、および

(C)取得した生存肝細胞を凍結保存し、それにより前記所望の肝細胞調製物を形成し、2回目に肝細胞を融解した後に密度勾配分画を用いず、1回目と2回目の凍結保存の間に肝細胞をプレーティングせず、前記所望の肝細胞の調製物の肝細胞のうち70%を超える細胞が最後の融解後に生存していることを特徴とする反復凍結保存肝細胞調製物の製造方法。:対応日本特許第5271076号の請求項1を参考。)

(2)地裁判決の概要
イリノイ州地方裁判所は、米国特許第7,604,929号(929特許)のクレーム記載の法定主題は、複数回の凍結融解サイクルを経ても肝細胞が生存する自然法則を利用した方法に過ぎず、発明概念を含まないので、929特許は無効であるとの判決を下した。

(3)CAFC判決の概要
これに対して、CAFCは、Mayo TESTの第2ステップの(1)及び(2)の判断を用いて、次の理由から、929特許が有効であるとして、地裁判決を覆した。クレームは、単純に、複数の凍結と解凍サイクルを生き抜く肝細胞の能力に関するものではない。むしろ、クレームの方法は、肝細胞を保存するための新規で有益な実験技術に関する。よって、クレームの方法は、司法例外物に該当しない。Mayo事件やAriosa事件のような診断方法の発明は、血液中の特定物質の存在を検出することが自然法則そのものをクレームしているとみなされるかもしれないが、本件クレームは新規かつ有用な肝細胞の保存方法であるから、肝細胞の能力に関する自然現象から特許適格性のある応用プロセスへと変換されているといえよう。

次に、仮に、(2)の判断に移行したとしても、クレーム方法は特許適格性を有する。929特許のクレーム方法は、後に使用可能な肝細胞を保存する改善手法を提供する。従来、凍結・解凍を行うと、肝細胞の生存確率が低くなると考えられており、複数回の凍結・解凍は否定されていた。しかし、929特許のクレーム方法は、少なくとも2回の凍結・解凍を行い、その間に密度勾配分画を行い、生存肝細胞を非生存肝細胞から分離するという手法を実行するものである。個々の工程が周知であっても、クレーム方法は、通常或いは一般的なものではない。特に、少なくとも2回の凍結・解凍を行うことは、当業者の技術常識に反するものであり、司法例外物からの大きな相違点(significantly more)と認められる。