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中国で実用新案を出願する必要はあるか?

1.中国における巨額の実用新案権侵害訴訟

2006年8月、浙江省温州市に拠点を置く「正泰集団」は、自己の実用新案権第97248479.5号を侵害するとして、フランスに本部を有するシュナイダーエレクトリックによって天津で設立した合弁会社の「施耐徳(天津)」を温州市中級人民法院に提訴した。実用新案権第97248479.5号は、小型ブレーカーに関する権利である。施耐徳(天津)は、同月、これに対抗して、専利復審委員会に、同実用新案登録の無効審判を請求したが、2007年4月、専利復審委員会は、実用新案登録の維持を決定した。2007年9月、温州市中級人民法院は、施耐徳(天津)に、同社が実用新案権を侵害していると認定し、約3億3千万元(日本円で約48億円)の賠償を命じた。2007年10月、施耐徳(天津)は、一審判決を不服として浙江省高級人民法院に上訴したが、2009年3月、同高級人民法院は、これを棄却する判決を下した。2009年4月、シュナイダー側が正泰に約1億5千万元(日本円で約23億円)を支払うことで和解が成立した。

この事件は、実体審査につき無審査で登録になる実用新案権であっても巨額の損害賠償を認める判決が下されることを示すものとして、中国内外の関係者にショックを与えた。

2.日本の実用新案との違い

中国の実用新案登録出願は、形状、構造、組み合わせ等に関する考案を保護対象としていること、実体要件につき無審査で登録する無審査制度を採用していること、存続期間を出願日から10年としていることで、日本の実用新案登録出願と共通する。

しかし、主に、次の点で、中国の実用新案制度は、日本のそれと相違する。

(1)無効になりにくい
無効審判における進歩性の判断において、中国では、日本と異なり、考案に対して、特許発明よりも低い進歩性での登録を許容しており、実用新案登録が無効になりにくい。

(2)技術評価書の提出義務が無い
中国の実用新案権に基づく権利行使に際し、日本と異なり、技術評価書の提出は義務付けられていない。

(3)特許出願との併用出願が可能である
日本では、発明と考案とが同一の場合、特許出願と実用新案登録出願とを両方行っても、いずれか一方は拒絶理由若しくは無効理由を有し、合法的に併存できない。
これに対して、中国では、2010年10月1日から施行されている中国第三次改正専利法の下、一定の条件を満たせば、同一の発明・考案につき、特許出願と実用新案登録出願とを併用することができる。
実用新案登録出願は、その出願日から6~12カ月で登録可能である。このため、特許出願に比べて極めて早期に権利化可能である。重要な製品を早期に保護する上で、実用新案登録出願は一考に価する。また、実用新案登録出願と特許出願とを併用することにより、比較的早期には実用新案権で、その後は特許権により保護を図ることも可能である。
ここで、実用新案登録出願と特許出願とを併用する場合の上記「一定の条件」とは、以下の通りである。

a)出願人が同一であること。
b)特許出願と実用新案登録出願とを同日出願すること。
c)両出願において同日に他方の出願を行っていることを明記すること。
d)一方(通常、実用新案新登録出願)の登録後に、他方(通常、特許出願)の登録査定が通知された際に、
前記一方の権利の放棄か、あるいは当該他方の出願の取り下げかの選択を行うこと。

3.具体例

(1)両出願のクレームに完全同一のクレームが存在する場合
  →同日に出願する必要がある。

(2)一方の出願のクレームが上位概念、他方の出願のクレームが下位概念である場合
  →両出願を同日出願するか、若しくは上位概念のクレームを含む出願を先に出願する必要がある。

下位概念の発明を含む出願を先にすると、後願(上位概念の発明を含む)がセルフコリジョン(*)により排除される。

*セルフコリジョンとは、自己の先願により自己の後願を排除することをいう。中国は、第三次改正専利法により、セルフコリジョンの規定を厳格化した。改正前では、出願人同一の場合に後願排除効が働かない規定をおいていたが、改正後、これを削除し、出願人同一の場合でも後願排除効が機能するようにした(専利法第22条)。