MEBUKI IP Small Talk 2月号(2018年)

1.ドイツのBioMのご紹介

BioMプロジェクトマネージャー 橋口恵

 

前回予告させていただいた通り、今回はミュンヘンにあるバイオテクノロジー・

クラスターの管理組織BioM Biotech Cluster Development GmbH (BioM)について

ご紹介させていただきます。

 

BioMは1997年に、バイエルン州における治療や診断のための医薬品開発を支援

するためのクラスターネットワーク組織としてバイエルン州により設立されまし

た。当時は、クラスター組織としては珍しく、バイエルン州政府の民間出資ファ

ンドとしての役割も担っていました。製薬会社や銀行、ベンチャー投資家ととも

に合計800万-1000万ユーロの投資を行いました。この投資は後にさらに大規模な

ベンチャーキャピタルや企業、投資家による4億万-5億万ユーロの投資の呼び水

となりました。これらの投資を受けて約40のスタートアップが立ち上がり、クラ

スターの発展に大きく寄与しましたが、時代の流れもあり、2014年には投資の役

割は終えました。

現在は、バイエルン州におけるバイオテクノロジー・クラスターのネットワー

ク組織として、“個別化医療”に焦点を当てながら起業家支援、プレシードイン

キュベーションの支援、クラスター内の中小企業の国際化の支援、ワークショッ

プやイベントの開催、企業のデータベースなどの情報提供等様々な活動を行って

います。

その中でも特にユニークな取り組みである起業家の支援について、もう少しご

説明させていただきます。まず”m4 Award”という賞をご紹介いたします。この

賞は、バイエルン州によるプレシードの資金援助プログラムで、医薬品分野でス

ピンオフ出来る可能性のある大学や研究所などの学術機関を支援するものです。

2011年に開始し、2年に1回、選考・受賞を行います。毎回5グループが受賞し、

各グループは2年間で合計50万ユーロを受取り、かつ起業に向けての様々な支援

を受けることが出来ます。BioMは、選考委員会による選考の調整や、グループが

実際に起業する際のコンサルティングなどを行っています。

もちろん50万ユーロで起業の全てが賄える訳ではありませんが、アイディアを

持った学術機関の研究者達が触発されて、実際に起業しています。ヘルムホルツ

研究所やマックスプランク研究所、ミュンヘン大学レーゲンスブルク大学病院、

ヴュルツブルク大学など様々な学術機関からがん免疫療法、ステロイドと抗体に

よる多発性硬化症の治療、臨床診断応用のためのプロテオミクス解析用の技術プ

ラットフォームの開発を行う企業等が設立されています。バイエルン州における

生命科学・医学系研究者による起業の促進にm4 Awardが貢献していることは間違

いなさそうです。

次回は、BioMにおけるその他の起業家支援のための取り組みについてご紹介さ

せていただきます。引き続きよろしくお願いいたします。

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2.がん免疫療法と医薬用途発明

弁理士 三宅俊男

 

国立がんセンターの統計によれば、日本人で一番罹患率の高いがんは、現在でも

胃がんですが、死亡率では肺がんがトップだそうです。胃がんと診断された患者

さんのうち10年以上生存している割合は60%近く、もはや、がんは治療可能

な病気の一つです。中でも最近注目されている治療法は、免疫療法です。

 

がん細胞は健常人の体内においても、ある一定の確率で発生しますが、免疫シス

テムがそれを見つけ出して攻撃し死滅させることで、我々は健康に生きていると

いわれています。その免疫システムを活性化することによってがん細胞を攻撃し

、治療する方法を、広義の「免疫療法」といいます。具体的には、抗体やがんワ

クチン、自分自身の体内から取り出して活性化したT細胞(養子免疫療法)など

様々な方法が開発されていますが、最近、小野薬品から販売されている抗体医薬

「オプジーボ(登録商標)」が話題になっています。従来は、治療の手立てがな

かった進行がんの患者でも、がんが劇的に縮小した報告などが相次いでいるから

です。

 

免疫システムは複雑すぎて説明が難しいのですが、簡単に言うと、がん細胞の排

除に重要な役割を担っている免疫細胞の一種にT細胞があり、T細胞上の種々の

受容体分子が他の免疫細胞や抗原(がん細胞)との相互作用を介して免疫システ

ムを制御しています。ある種のがん細胞は、このT細胞上のPD-1というタン

パク質に作用して、免疫システムを抑制することでT細胞からの攻撃を逃れてい

ました。そこで、このPD-1に対するモノクローナル抗体を使って、がん細胞

による免疫抑制を解除したのが「オプジーボ(登録商標)」という医薬品です。

小野薬品はブリストルマイヤーズ スクイブ(BMS)社と共同で、オプジーボ

を全世界で開発、製造販売しましたが、米国のメルク社は、「キイトルーダ(登

録商標)」という競合品を開発し、世界中で特許訴訟を含めて激しい販売競争を

なりました。

 

2017年1月21日の小野薬品からの発表によれば、特許係争は和解し、メルク社は

自社のキイトルーダの販売を継続する代わりに、小野薬品及びBMS社に対して

6億2500万ドルの頭金と、キイトルーダの全世界売り上げに対する所定割合

のロイヤルティーを支払うことになりました。この和解の決め手となったのが、

つまり、キイトルーダの侵害が回避できなかった特許が、小野薬品と京都大学元

教授の本庶佑氏との共有に係る以下の用途特許です。

 

特許第4409430号

【請求項1】PD-1抗体を有効成分として含み、インビボにおいてメラノーマ

の増殖または転移を抑制する作用を有するメラノーマ治療剤。

 

特許第5159730号

【請求項1】PD-1抗体を有効成分として含み、インビボにおいてがん細胞の

増殖を抑制する作用を有するがん治療剤(但し、メラノーマ治療剤を除く。)。

 

対応米国特許及び欧州特許の中で代表的なクレームは以下のように記載されてい

ます。

US8728474 (B2)

  1. A method for treatment of a tumor in a patient, comprising administe

ring to the patient a pharmaceutically effective amount of an anti-PD-1 monoclonal antibody.

 

EP1537878 (B1)

  1. Use of an anti-PD-1 antibody which inhibits the immunosuppressive si

gnal of PD-1 for the manufacture of a medicament for cancer treatment.

 

このように、6億2500万ドルの頭金と相当のロイヤルティーを生み出す特許

クレームは意外と簡単なものです。また、クレームの書き方は日米欧で全く異な

ります。これは、日米欧の特許要件が異なることによります。日本や欧州では治

療方法のクレームは認められないのに対し、米国では、治療方法クレームは認め

られますが、公知の化合物(ここでは、抗PD-1抗体)を含む治療剤のクレー

ムは認められません。欧州で認められた使用クレームは、スイスタイプクレーム

といわれ、今では法改正により使われなくなりました。

 

医薬品の効果は世界共通なのにどうして特許は属地主義なのかと思うのですが、

医薬品も各国ごとに臨床試験システムが異なるため、適用対象疾患や用法容量、

さらには薬価も国ごとに異なるようです。

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3.中小・中堅企業、大企業事業ユニットの知財戦略について (2)

オフ・カウンセル 弁理士 渡邉 秀治

 

前号では、特許庁事業である「知財ビジネス評価書」(知財金融)に関係した

者として、昨年訪問した6社の知財戦略概要などを紹介した。本号では、最近、

当方が行っている2つの方法を紹介する。

 

1つは、ビジネスモデルキャンバス(BMC)。次の9つの要素を行っている事

業について検討するもの。この検討の中で、社長や事業部長に再確認してもらう

と共に、No.2や後継者や部下の方々に、トップの考えを知ってもらう。

{検討要素}

1.主なリソース(強み、知財、ノウハウなど)

2.顧客(この事業の中核となる顧客は誰? 最も重要なお客は?)

3.提供価値(顧客にどんな価値を提供するか?)

4.パートナー(誰と提携するか?)

5.主な活動(中心となる活動は?)

6.顧客との関係(継続する仕組みは?)

7.チャネル(顧客とどのようなコミュニケーションをとるか?

どうやって価値提供するか?)

8.コスト(どんなコストが発生するか?)

9.収入(どうやって利益を挙げるか?)

 

実際に検討する場合、上記1,2をまず検討する。ここを固まらせるのがポイ

ント。そして、計画化とその実行、チェックが後日、重要となってくる。

他の1つは、会社のインターネットで公開している情報から、その会社の知財

戦略、法務戦略を推測することができる。また、知財戦略、法務戦略を、その会

社の知財部長、法務部長となって立てることができる。現在は、コンプライアン

スや株主の問題から、会社は、非常に素直な分析結果をオープンしている。

ある会社で当方が推測したものを提示したとき、その知財部の方は、会社の課

題、強みなどの分析は、8~9割、合っていると言われた。しかし、知財戦略は

、完全には、その会社の課題、強みに対応してはいないと言われた。

3社についてこの方法を実施してみて、かなりの効果があると実感した。今後

もアドバイスやコンサル時に使用していきたい。

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