HASEGAWA IP Small Talk 9月号(2016年)

1.「米国特許権侵害の懲罰的賠償認定が緩和される?」
―Halo/Stryker米最高裁判決
2.秘密保持契約-注意点は何か?
発行:長谷川国際特許事務所
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1.「米国特許権侵害の懲罰的賠償認定が緩和される?」
―Halo/Stryker米最高裁判決       代表・弁理士 長谷川 洋

(1)判決の概要
2016年6月13日、米最高裁は、米国特許法第284条に規定する故意侵害における懲罰的賠償の認定にあたり、2007年のCAFC判決(Seagate事件)による現行基準を否定する判決を下した。米国特許法第284条は、裁判所は特許権の故意侵害に対して実損の3倍までの懲罰的損害賠償を命ずることができる旨を定めている。しかし、同法は懲罰的損害賠償の認定要件を規定していない。具体的な認定要件を初めて確立したのは、CAFCによるSeagate判決(2007年)である。この判決で、CAFCは、次のような二段階テストによる認定ルールを明示した。
一段目・・・「侵害者の行為が客観的に無謀であったか否か(客観的要件)」
二段目・・・「被疑侵害者が侵害を認識していた、若しくは当然認識すべきであるほどあからさまであったか否か(主観的要件)」
上記二段階テストは、それまでの懲罰的賠償認定のハードルを高くしたため、米国特許弁護士による非侵害あるいは特許無効の鑑定を故意侵害でないことの証拠に用いていたプラクティスは、大きく変わった。加えて、米国特許法改正(AIA)時に、米国特許法第298条によって、鑑定を得ていないことは故意侵害の証拠にはならないことが成文化されたこともあり、米国弁護士による鑑定書の必要性は低くなったと考えられてきた。
しかし、今回、米最高裁は、懲罰的損害賠償の認定ハードルを下げるとも解釈可能な判決を下した。この裁判は、2つのCAFC判決(Halo Electronics, Inc . v.Pulse Electronics, Inc.事件と、Stryker Corp. v. Zimmer, Inc.事件)を併合した上告審であった。米最高裁は、二段階テストは、硬直的すぎるものであり、もっと地裁の自由裁量に委ねるべきであるとして、CAFCへの差し戻しを命じた。
詳細は、https://www.supremecourt.gov/opinions/15pdf/14-1513_db8e.pdfを参照。

(2)2つの事件の経緯
●Halo v. Pulseの経緯
 特許権者のHaloは、Pulseに特許ライセンスを供与する準備があることを意味するレターを送った。レターには、Pulseの被疑侵害品がHaloのクレーム範囲に属することまでは明記されていなかった。
Pulseは、Haloの特許は無効であると判断し、被疑侵害品の製造販売を継続した。
Haloは、Pulseを相手に、特許権侵害訴訟を地裁に提起した。
地裁は、Pulseの行為は、上記二段階テストにおける客観的要件(客観的に無謀)を満たしていないとして、懲罰的賠償を認めなかった。
控訴審であるCAFCも、地裁判決を支持した。
●Stryker v. Zimmerの経緯
 特許権者のStrykerは、被疑侵害品の製造販売を行うZimmerを相手に、特許権侵害訴訟を地裁に提起した。
地裁は、Zimmerが自社のデザインチームにStrykerの商品をコピーするように指示したとの証言を理由に、故意侵害に基づく懲罰的賠償を命じる判決を下した。
しかし、CAFCは、ZimmerがStrykerの特許が無効であると判断して製造販売を継続したという抗弁と、地裁が上記コピー指示を重要視しすぎたことを根拠に、地裁判決の故意侵害については破棄する判決を下した(ただし、地裁の侵害判決は認めた)。

(3)筆者のコメント
今回の米最高裁判決より遡ることおよそ1年前 (2015年5月26日)、米最高裁は、鑑定書による特許無効を信じて侵害行為を継続することは故意侵害認定の抗弁にはならないとする判決を下した(Commil v. Cisco)。この判決は、特許無効のみならず、もっと直接的に、被疑侵害者の実施行為がクレームの保護範囲に属さない旨の非侵害の鑑定を取得しなければならないことを示唆する。

また、今回の米最高裁判決では、2007年にCAFC判決によって確立された二段階テストは、故意侵害認定要件を画一的にし、かつ高くしすぎていると判断された。
ここまでの経緯をみると、今後、故意侵害は認定されやすくなり、故意侵害の認定を避けるには弁護士による非侵害鑑定をとらなければならない、との解釈も可能である。
しかし、この解釈は、早計かもしれない。
今回、米最高裁は、故意侵害は、デッドコピーのような悪質なものに限って認定されるべきであると明言していることを見逃してはいけない。単に、二段階ルールはあまりにも画一的なテストであると非難しているだけとも解釈できる。
今後、故意侵害認定が多くなるかどうかを見守るのが良いと思われる。

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2.秘密保持契約-注意点は何か?-  オフ・カウンセル 弁理士 渡邉秀治

会社時代から契約に多くの時間をかけていた。主に、秘密保持契約や共同開発契約や技術導入契約であった。現在も、年間10件前後の相談があり、対応している。また、契約の講演なども多く行っている。
秘密保持契約は、30年ほど前は、それほどは多くはなかったが、最近では非常に多く締結されるようになった。過去の実務経験からどの点に本当に注意すべきかを独断で申し上げる。

質問
「秘密保持の規定は、日本では紳士協定のごときであり、あまりセンシブルに考える必要はない。」
---○or×

回答
(1)日本案件⇒○に近い。ただし、相手が個人、ベンチャーのとき ⇒×。
理由は、日本では秘密保持違反の訴訟がきわめて少ないことと、仮に、訴訟になっても、立証(違反、損害額)がきわめて困難であるため。相手が個人、ベンチャーであると、その方々は往々にして勝算ではなく、いやがらせや遺恨で動くから、十分注意して契約書をチェックすべき。
(2)米国案件⇒×。米国では、訴訟が日常茶番時であり、また立証がきわめて容易。これは、ディスカバリ制度という証拠集め制度があるため。昔、米国企業と特許訴訟をしたとき、相手側の弁護士が2人、長野県飯田市の当社工場に来て、3日間で段ボール10箱程度の当社資料を持っていった。聞くところによると、トラック1台とか2台分の資料を持ち帰ることもあるという。
(3)中国案件⇒×。しかし、いくら契約を締結しても秘密が漏えいすることは、100%近くあり。漏えいするという前提で他の対策を打つことが重要。
では、契約は、どのような役目を持つのか? 契約は、訴訟提起のための必須条件。中国での知財関係訴訟は、年間10万件程度に達している。日本は、500件程度。最近では、日本でも、従業員個人と秘密契約保持義務契約を締結することも増えてきたが、中国では必須と考えるべき。

このように、相手によって、その重要性、注意力は異なることを知るのがポイント。具体的な条文や、基本的な考え方などでも、注意点があるが、それは、またの機会に。
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